今日は日下公人・高山正之(対談)著書「日本はどれほどいい国か」より転載します。
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日下:2008年2月、イギリスのミリバンド外相がオックスフォード大学セント・ヒューズ・カレッジで「民主主義の責務」と題して講演したという記事が「産経新聞」に載っていました(2月24日付)。
それによると、ミリバンド外相は、「英米両国はイラクとアフガニスタンで困難に直面しているが、『民主主義を世界中に広めるのは道義上の使命』とし、必要なら軍事力の行使もためらうべきでない」と語ったという。
ところが、中国のことになると「外相の弁舌は微妙に変わった。『今日の中国ではより多くの人びとがより自由になっている。経済成長が民主主義を前進させた。胡錦濤国家主席は昨年秋の共産党大会で、民主主義は民衆と同じように指導者への関心事でもある、と発言』」し、「質疑応答で、中国人女性研究員が『中国は経済的には豊かになったが、民主主義が進んだとは思わない』と異論を唱え」ても、「同外相は答えようとはしなかった」という。
記事はブラウン英首相の姿勢にも触れています。
「就任当初、ミャンマーやジンバブエ、スーダンの人権状況を指弾した。石油・天然ガスの輸入や武器供与を通じていずれの国ともつながりを持つ中国に対し、圧力を強める構えを見せていた」にもかかわらず、この1月中旬、景気浮揚策の一環として英実業家20数人を引き連れて訪中し、「貿易拡大など中国に強烈なラブコールを送った。首相官邸筋は人権問題も話し合ったと説明するが、その形跡はうかがえなかった」という。
そして、「そんな折、英国オリンピック委員会(BOA)が、北京五輪の代表選手に『人権問題などの政治的発言は慎む』との誓約書に署名を求める方針だったことが発覚した。英メディアの批判を受け、BOAは即座に方針を撤回」したけれど、「国際人権団体『フリー・チベット・キャンペーン』(本部・ロンドン)のホームズ代表代行は『批判しないことが対中国ビジネスの対価なのだから驚かない。人権問題について発言の自由が認められない現状は不名誉な限りだ』と皮肉をまじえて批判している」。
さて、ミリバンド外相の中国に対する見通し――というより希望的観測――がまったく外れていたことは、講演後の3月に起こったチベット騒乱や、その後の北京五輪聖火リレーをめぐる混乱を見ても明らかですが、ブラウン首相の中国への“熱烈ラブコール”を見ても、彼らの語る民主主義の普遍性なるものは、この程度のご都合主義でしかない。
もっと振り返って考えれば、インドやビルマを植民地として支配していた時代からどれほどイギリスの本質は変わったと言えるか。あるいは、アメリカがキューバを“保護国”とし、プエルトリコやフィリピンを手中に収めることにつながった米西(べいせい)戦争や、テキサスを手に入れた米墨(べいぼく)戦争の時代から、彼らの信奉する民主主義は何か変わったのか。
変わった要素があるとすれば、それは彼らが長く“家畜”だと思っていた存在が、人間としての権利を主張できるまでに強く逞(たくま)しくなったからではないのか。こう問いかけることは可能なわけです(笑)。
---owari---
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