今日も国際関係アナリスト・北野 幸伯さんのメルマガからお伝えします。
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全世界のRPE読者の皆さま、こんにちは! 北野です。
今日は、「重要な二つの戦略観」についてです。
▼私の戦略観1
私の戦略観1は、
・日本最大の仮想敵は中国である
・中国に勝つためには、アメリカと良好な関係を保ちつつ、ロシアを取り込むべきだ
です。
私は、この話を2002年ぐらいからはじめていました。
2007年に出版した
『中国ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』
では、「中国とロシアを分断させよう」と書いています。
この話、私がモスクワ在住だったからしていたわけではありません。
「リアリズムの神様」ミアシャイマー・シカゴ大学教授は、
『大国政治の悲劇』を出版した2001年から一貫して、
「アメリカの主な仮想敵は中国」
「中国に勝つためにロシアと組め」
という話をしてきました。
世界一の戦略家ルトワックさんも、2013年発売の
『自滅する中国』の中で、同様の主張をしています。
実際、日本、アメリカ、欧州、インド、ロシアなどで中国
を封じ込めることができれば、楽勝ではないですか?
▼日中戦争勃発
私の第1の戦略観は、2012年11月に「日中戦争」が勃発したことで、さらに強化されました。
もちろん、「日中戦争」は、「戦闘」という意味ではありません。
2012年11月、中国がロシアと韓国に、
【 反日統一共同戦線 】
創設を提案したのです。
@@@@証拠↓
この対日戦略の骨子は、
・中国、ロシア、韓国で【 反日統一共同戦線 】を作りましょう。
・中ロ韓で、日本の領土要求を断念させましょう。
・日本に断念させるべき領土とは、「北方4島」「竹島」「尖閣」【 沖縄 】。
・日本に、【 沖縄の領有権 】はありません!!!!
・反日統一共同戦線には、【 アメリカ 】も引き入れます!
衝撃の対日戦略。
私は、気絶しそうになりました。
中国の戦略をものすごく簡単に書けば、
・日米関係を破壊する
・日ロ関係を破壊する
・日韓関係を破壊する
・日本を完全に孤立させた上で、尖閣だけでなく【全沖縄】を奪う
となります。
これに対抗する日本の戦略、理論的には簡単でした。
・日米関係を改善する
・日露関係を改善する
・日韓関係を改善する
ことによって、【反日統一共同戦線】を【 無力化 】させる。
私は、その後一貫して【 反日統一共同戦線 】の存在と、それに打ち勝つ戦略を主張しつづけてきました。
それで、裏事情を知らない人たちから批判されることもかなりあったのです。
アメリカとの関係改善はいいでしょう。
しかし、北方領土を全然返す気がないプーチン・ロシアと和解????
一貫して不誠実で反日な韓国と和解??????
なかなか理解されませんでした。
しかし、ルトワックさんが、「稀に見る戦略家」と呼ぶ安倍元総理は、理解していました。
それで、
・2015年4月、アメリカ議会における「希望の同盟」演説で、日米関係が改善された。
・2015年12月、慰安婦合意で、日韓関係は一時的に改善された。
・2016年12月、プーチン訪日で、日露関係は改善された
安倍総理は、日米、日露、日韓関係を劇的に改善されることで、
中国の反日統一共同戦線戦略を無力化することに成功したのです。
安倍総理、消費税を二回上げたのは、大きな間違いだったでしょう。
しかし、事実として、日本を中国の恐ろしい戦略から救ったのです。
2018年10月、ペンス副大統領の反中演説で、
【 米中覇権戦争 】
の時代がはじまりました。
安倍総理のおかげで、日中戦争は、米中覇権戦争に転化したのです。
私は以後、「中ロを分断するために、ロシアと和解しよう」と強調することは減りました。
トランプさんは、反中で親ロシアだったからです。
彼が、そういう「大戦略観」をもっていたかは怪しいですが、
とにかく日本もアメリカも、「中国に勝てる方向」に進みはじめました。
▼ウクライナ戦争勃発後の戦略観
ところが、事態は「バカげた方向」に進んでいきます。
2021年1月、大統領に就任したバイデンは、私の予想通り
米中覇権戦争を継続する意志を示しました。
一方、ロシアに対しては、「戦略通り」和解の道を探りはじめます。
(「軍産複合体を儲けさせるために、アメリカがウクライナ戦争を煽った」という主張があります。
しかし、バイデンとプーチンの動きをずっと追っていくと、バイデン政権が戦争を煽った事実はありません。)
2022年6月、バイデンとプーチンは、スイスで首脳会談を行います。
これに先立ちバイデンは、
ロシアとドイツをつなぐ海底パイプライン「ノルドストリーム2」事業者への制裁を解除し、
「和解の意志」を示していました。
これについて、ロシア外務次官のセルゲイ・リャブコフは
「二国間関係の正常化に向けて徐々に移行するチャンス」
と歓迎しました。
首脳会談の直前、バイデンは、
「我々はロシアとの対立を求めているのではない。我々は安定した予測可能な関係を望んでいる。」
と発言しています。
では、首脳会談の後は、どうだったのでしょうか?
毎日新聞2021年6月25日から。
プーチンは、いいました。
<首脳会談はきわめて建設的であり、バイデン氏がとても経験豊かだと確信した。プロフェッショナルで、建設的で、バランスの取れた人だ。(米露も含めて首脳同士の関係は)いつもプラグマティック(実務的)だ。>
<私自身、飛行機で移動する際はその影響を受けるが、バイデン氏は元気に見えた。われわれは2時間かそれ以上、顔を突き合わせて会談した。彼は物事を完全に熟知している。>
<バイデン氏はプロであり、彼と仕事をする際は何も見逃さないよう十分注意する必要がある。彼は何一つ見逃さないと断言できる。>
バイデンは、
<会談のトーンはポジティブだった。指導者同士の直接対話に代わるものはない。
両国の関係は安定し、予測可能でなくてはならず、相互利益がある分野では協力すべきだ。>
<私はプーチン氏に、私の政策は反ロシアではなく、米国民のためのものだと伝えた。両国の協力が相互の利益で、世界のためにもなる分野がある。>
というわけで、米ロ関係は、ポジティブな方向に動きだしているように見えました。
しかし、事実として、プーチンは2022年2月24日、
ウクライナ侵攻を開始します。
この状況下で、私の戦略観1は、通用するでしょうか?
繰り返しますが、私の戦略観1は、
・日本最大の仮想敵は中国である
・中国に勝つためには、アメリカと良好な関係を保ちつつ、ロシアを取り込むべきだ
です。
今、これができるでしょうか?
これはつまり、ロシアのウクライナ侵略を容認し、
「ウクライナを見捨てる」ということです。
そうすれば、ロシアはウクライナ全土を制圧し、そこで止まることはないでしょう。
ロシアは今、ウクライナの隣国モルドバで、親欧米反ロシア政権を転覆させる工作をしています。
AFP2月21日。
<旧ソ連構成国モルドバの情報・保安当局SISは9日、ロシアがモルドバの弱体化や不安定化を狙った破壊工作を仕掛けていると発表した。
SISは「ウクライナ側から提供された情報と、わが国の情報活動の両面から、モルドバの弱体化や不安定化、社会秩序の混乱を狙った破壊工作を確認した」と述べた。>
モルドバは、NATO加盟国ではありません。
それで、欧米からの支援がなければ、アッという間にロシアに敗北するでしょう。
というわけで、ウクライナ侵攻後、戦略観1をつづけることは不可能になりました。
では、戦略観2は何なのでしょうか?
・ロシアーウクライナ情勢と中国ー台湾情勢はリンクしている。
・習近平は、欧米日が、ウクライナを侵略したロシアにどんな態度をとるのか観察している。
・もし欧米日がウクライナを見捨て、プーチンが勝利すれば、習近平は、「台湾に侵攻しても、中国は容易に勝てるだろう」と判断し、台湾侵攻の可能性が高まる。
・もし欧米日の支援によりプーチンが敗北すれば、習近平は、「台湾に侵攻すれば、俺も負ける可能性が高い」と判断し、侵攻を見送る可能性が高まる。
・だから、ウクライナを支援しつづけ、勝利させる必要がある
です。
結局、ウクライナ支援は、
「中国の台湾侵攻を止めるため」
別の言葉でいえば、
日中戦争、米中戦争を回避するため
なのです。
この点を、しっかり理解しておくことが、とても大切です。
---owari---
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