8.まちを川に開くー川と暮らしの風景ー
川のあるまち
私は四国は讃岐、高松市で育ちました。讃岐平野には大きな川がありません。まちの中にも目立った「川」と呼ぶようなものはありませんでした。小学校の時、隣の徳島県に列車で向かいました。間もなく徳島というところで、吉野川の鉄橋を通過したときには驚きました。列車が海に入ってしまったと思ったほどでした。広い川を初めて見たのです。また高知では町の中心部を流れる川(江の川)に橋の上から飛び込んで遊んでいるのをみて驚きました。飛び込めるほど深い水の流れがまちの中にあることが新鮮でした。大変うらやましい思いでした。
この地域デザイン論で取り上げている鶴岡市や酒田市には、最上川や赤川という大きな河川があります。また、まちの中心部にもそれぞれ、内川と新井田川という川が流れています。大変恵まれた環境だと思います。川の流れは豊かな生態系をつくります。また舟による荷揚げや水の流れを使った作業にも利用されていました。魚市場や料亭なども面していました。川に関わる自然や暮らしのいとなみが、川と沿道が一体となった風景をつくり出しています。
内川再発見プロジェクトから内川学へ
私が鶴岡の中心部を流れる内川に興味を持ったのは、東北公益文科大学の学生さんたちが行った「内川再発見プロジェクト」(2007)がきっかけです。「内川再発見プロジェクト」は内川の魅力や可能性を実感することを通して、内川の市民に対するイメージを変革すること、そしてその効果を検証することを目的とした社会実験プロジェクトです。2006年の慶応大学池田研究室との共同研究プロジェクト「地方都市の魅力の発見と創造」の延長上にあります。
「内川再発見プロジェクト」は、河川環境を構成する道路や、護岸、水面、水中などあらゆる場所を使ってみようというもので、次の6つのプロジェクトから構成されています。
A 水遊びプロジェクト
B サウンドプロジェクト
C カフェプロジェクト
D ライティングプロジェクト
E 検証・広報プロジェクト
F 浮きのぼり
幸い好天にも恵まれ、慶應池田研の皆さんとの協働プロジェクトは、大成功に終わりました。プロジェクトの効果も、橋脚の色が変わるなど、目に見える形で示されました。
このあとは、内川再発見プロジェクト第2幕「明治の芝居小屋から」(2008)を経て、内川学1~10(2009~2019)へと繋がりました。その後は私たちの研究室の活動という位置づけを超え、生態系の研究者や、河川保護活動者、灯篭流しなどのイベントを行う方たちなど多くの方々を取り込んだ内川フォーラム(主催:公益のふるさと創り鶴岡)へと繋がり今日に至っています。
川の風景を変えていきたいという思い
内川に関わる活動やイベントは、多くの人の参加で、継続しています。それだけ内川に対する鶴岡市民の強い思いを感じます。ただ、水面や護岸、沿道のまち並を統合する風景という点から見ると、まだまだ大きな課題があり、またそこに切り込めていないことを実感します。先述したように2007年の内川再発見プロジェクトの直後には、橋脚の「青い色」を歴史的環境になじんだ暗色に塗り替えてくれるなど、風景の一部が変わったことを実感しましたが、その後は必ずしも良い方向だけに進んでいるとは言えないのが実情です。
例をあげます。かつて川に面した下写真のような住宅が多く見受けられました。川に面して多くの開口部があります。2階から川を見下ろす眺めを楽しんでいたのではないでしょうか。
(川に面した二階家:手前にある川への眺めを十分に意識した作りです)
こういう川に開かれた建築はまず見られなくなりました。下写真は近年建てられた建物です。開口の少ないくらい壁面は避けて欲しかったのですが、残念です。
(近年建て替えられた建物:川に面して広い敷地を持つので、この建物のイメージは大きく影響します)
また、内川に沿った道路は都市計画道路になっており、近年拡張工事が進み、古い蔵などだけでなく、まちにとって大切な文化財的な価値を持つ建物も失われてしまいました。こちらも残念でした。
残念なことで思い出すのは、酒田の方も同じです。酒田には、新井田川に面して素晴らしい風景があります。山居倉庫です。
(山居倉庫:新井田川の舟運、米の集散で栄えた酒田をしのばせる、高橋兼吉の名建築)
この対岸にある酒田商業跡地では、事業コンペにより、川や山居倉庫を意識した意欲的な取り組みの提案が採択されました。ただ残念なことに、昨今の建築費の値上がりにより、極々普通の、大きなコンビニエンスストアのような建物が山居倉庫と対面することになってしまいました。関係者の方々も、事業費のせいで泣く泣く当初の案を変更したようです。
(酒田商業跡市の開発:当初案にあった意欲的なデザインはなくなったようです)
これからに期待すること
少しネガティブな面を取り上げてしまいました。内川でもみゆき橋のたもとに、新しいかわいいお店が誕生したりと、風景の彩が加えられているところもあります。また若い人たちによるマルシェや映画会などもあるので、本当にこれからは期待できます。この論稿の最初に書いたように、内川や新井田川がまちの中にあるというのは、本当に恵まれていることだと思います。川の畔も含めた風景が、より深みと魅力を備えたものになることを、願い続けたいと思います。
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