まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

庄内町ギャラリー温泉町湯の説明

2015-12-19 19:54:34 | 公共建築 Public architecture

 

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カーサブルータス(CasaBRUTUS2016jan)に紹介していただいた機会に庄内町ギャラリー温泉町湯(Machiyu: Public spa with art gallery)の建築について詳しい説明を掲載します。 

町湯の全景です。

町湯は人口約2万、山形県庄内町の町立温浴施設です。RC造平屋、床面積は850㎡ですから、公立の温浴施設としては小粒のものです。周辺にある公立の温泉施設は広い敷地をもち田園の中にあります。ここは異なる条件を持っています。

第一に

①敷地面積は2140㎡。大変狭い。

②敷地間口、23m奥行きが92mといういわゆるウナギの寝床形状です。

③庄内町の中心部のまちの中にあり隣はショッピングセンターと民家です。

ショッピングセンターの駐車場を供させてもらっていますので、入り口は南側にあります。町湯の内部です。他の温浴施設とは少し違う雰囲気です。

周辺の広々として景色の良い温泉施設は広い広間や休憩のための和室を何室も持っています。この敷地で同じようにやろうとすると、大変貧相なものになってしまいます。そこで私たちが選んだのが町家(まちや)というキーワードです。

家屋が密集したいわゆるうなぎの寝床の形状をした細長い敷地をうまく生かす町家の空間構成に学ぶこと。そのことで不利な敷地条件を逆にメリットに変えることができ、近隣の他の施設とは全く違うタイプの都市型のまちなか温泉、町湯ができることを提案しました。

これがまちやと町湯の平面構成の比較です。

こちらが町家、こちらが町湯です。町家の第一の特徴は玄関から奥まで、細長い敷地を貫くように「通りにわ」と呼ばれる連続的な共用空間があることです。各部屋はこの「通りにわ」に面しており、「通りにわ」は廊下でもあり、細長いホールでもあります。

通り土間に相当するものが土縁ギャラリーと呼んでいるゾーンです。土縁ギャラリーに沿って店や浴室が並びます。   

また町家には、細長い敷地の中央部にたてものに囲まれた「坪庭」があります。狭い敷地の中で光を取り入れ風の抜け道となり緑のある憩いの場となっています。町湯の露天風呂のある中庭は「坪庭」からヒントを得たものです。

また、部屋の中でも脱衣室やサウナ、便所などサービス空間は通りにわに平行に細長く並べています。断面図で見てみます。

基本は通りにわである土縁ギャラリーと各部屋に分かれますが、中央にサービス空間があります。お湯などのエネルギーや電気の幹線などはこの細長いゾーンの床下や天井を通っています。細長い建物を3つの細長いゾーンで構成していることになります。

以上が全体構成です。次に各部屋を紹介します。

土縁ギャラリーです。

通りにわのイメージを継承する土縁ギャラリーは湯上りのくつろぎスペースです。この部分までは無料で入ることができます。伝統的な町家において「通りにわ」は土間でした。土縁ギャラリーをすべて土間にすることはできませんでしたが、一部を土縁(つちえん)としています。

土縁は雪国の住居で、外(そと)と内(うち)の中間領域にある土の縁側のことです。

光を取り入れるスペースでもあります。

土縁ギャラリーにはもう一つ大きな特徴があります。それは壁面に沿って30mの長さを持つ、ギャラリーボックスです。ギャラリーボックスはアート作品や本の展示など多様な使い方を想定しています。

 土縁ギャラリーの東壁は白い壁を背景(地)に木のギャラリーボックスが浮かび上がる(図)という構成ですが、ギャラリーボックスの中には白い箱が今度は図となって浮かび上がります。今度はギャラリーボックス全体が地となるわけです。家具も町湯オリジナルでつくりましたが、ギャラリーボックスとテイストを合わせています。

また土縁ギャラリーの全体は木の印象が卓越した空間です。この時正面にある座敷の白い壁が木の空間の中にある白い箱として目に入ります。このように白い壁と木という少ない要素でもその組み合わせで、多様な読み取りができ、デザイン的にも豊饒な世界を生み出すことができるように思います。

土縁「ギャラリー」と名付けられているように、他の温泉施設にはないアートに触れられる場となることを願っています。もちろん堅苦しくなる必要はありません。ある人が「お湯で体をリラックスさせた後、ギャラリーアートで心をリラックスさせるということですね」と言ってくれましたが、まさにその通りだと思います。

この空間は落ち着いてリラックスできる雰囲気となることを目指しました。床は楢フローリング。この下には空気層があり冬には暖かい空気が流れます。天井や土縁側のルーバー(格子)は杉です。絨毯(ラグ)は麻とウールを織り込んだ山形産のものです。

浴室の入り口です。暖簾は地元のグラフィックデザイナー高城豪さんのデザインです。

 浴室・露天風呂・サウナを説明します。

第一の特徴は、町家の坪庭を継承した中庭(露天風呂)に浴室も脱衣室も面しており、露天風呂のある中庭に脱衣室と浴室が大きく開かれ明るく開放的な雰囲気を持っていることです。 

町湯の浴槽はそれほど大きいものではありませんが、浴室の中央部に置かれています。近年浴槽は眺めの良い窓際に置くというのが定番になっています。しかし町湯では浴槽を中央部に置きました。それは古い温泉にみられるように、湯けむりの向こうに人が見える、浴槽を人が囲むという風景をもう一度つくることが狙いです。

ちなみに泉質は、弱アルカリ性の単純泉です。27度で毎分100ℓ程度自噴しています。このうち70~80ℓを利用し、源泉かけ流し方式を実現しました。ちなみに排水をそのまま捨てるのはもったいないので、玄関周りの融雪に利用しています。

浴室と露天風呂に共通ですが、肌に触れることが多い部分には檜、少し離れて眺める部分にはヒバを用いています。天井はコンクリートに杉の板目を転写したコンクリート打ち放し仕上げです。タイルと白い天井からできた「清潔でプールのような」浴室とは違う雰囲気をめざしました。

男女の浴室にはフィンランド式の本格的なロウリュサウナを設けています。

町湯には畳の座敷もあります。25畳の広さがあり、3つに仕切って使うこともできます。

この座敷は土縁ギャラリーという大空間に入れ子状に挿入されています。天井仕上げ、建具の高さなどは土縁ギャラリーに倣っているので、ギャラリーの雰囲気と和の雰囲気の融合した雰囲気となっていたとすれば、狙いが成功しています。

町家でいうと「みせ」に相当する部分に食堂があります。室内空間ですが、南に大きく開くことにより、オープンテラスのような明るい食堂となるようにしました。

次に外観を説明します。 

町湯は地域の伝統的な建築から多くを学んでいますが外観は現代的(モダン)な手法に拠って作っています。西面、南面では高さはできるだけ低く抑え、水平の軒ラインを強調しています。

大きな軒の下に座敷や事務室、エントランスホール、食堂をそれぞれに特徴的な仕上げを施したうえで、挿入しています。(杉の羽目板、縦の杉ルーバー、杉板本実型枠打ち放し仕上げ、コの字型に縁どられたガラスカーテンウォール)

全体を統合する庇と、その下に展開する小さな自律的なボリュームとの対比的な調和を狙っています。

北側から見ると西から東へ<3つの層>があることが、よくわかると思います。屋根の形や壁の仕上げで素直にその違いを表現しました。

狭くて細長い敷地という不利な条件を逆手にとって特徴ある温泉をつくりたいというところから出発しました。また通りにわから発想した土縁ギャラリーを若い人にも来てもらえる多目的なスペースとしたいというのが私たちの願いでした。

名称は一般公募でしたが、うれしいことにギャラリー温泉町湯という建築的な特徴が反映されたものとなりました。

「今日は内湯でなく町湯にしよう」「町湯で“あさかつ”しよう」ということでいろいろな世代の方々に使ってもらえる、新しいタイプの温浴施設となることを願っています。

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高谷時彦記 Tokihiko Takatani

Architect/Professor

Takatani Tokihiko and Associates, Architecture/Urban Design, Tokyo

Graduate School of Tohoku Koeki university ,Tsuruoka city, Yamagata

 


鶴岡の町は冬支度

2015-12-01 16:10:06 | 建築・都市・あれこれ  Essay

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師走に入るととたんに冬の空。

鶴岡の町では人々が冬支度にいそしみます。どこからともなく

ほら貝の音も聞こえます。羽黒山の松の勧進です。

足元から伝わる冷気を感じながら歩いていると、なんとお堀の中に入って雪囲い

の作業中。ご苦労様です・・・。

寒い寒いとは言っていられません・・とはいえ肌を刺す風は東京のそれとは大違い。少し歩くと暖かな光が・・・。

藤沢周平記念館の明かりが、暖かく外に漏れています。アッパーライトの光源が見えそうなのは

少々反省。

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