以前のブログで都市環境デザイン会議の熱海まち歩きを紹介しました。
http://blog.goo.ne.jp/1210tokihiko/d/20130426
その中で、ブルーノタウトの日向邸を訪れたことを簡単に記しています。今日は少し補足します。
日向邸は1933年から3年間滞在した日本での唯一の建築作品です。
事前に申し込んでおいたので、10名ほどの観光客と一緒にボランティア建築家の案内で隅々まで見ることができました。
クイズ形式で大変面白く楽しい説明でしたが、床の間の落掛け(床の前の小壁の下端にある水平の材)が長押と同じレベル(普通は一段上にあげます)にあることを指摘してくれました。当然大工は常識に従って施工しようとするでしょうから、タウトの強い意志の結果です。
その理由はタウトも残していないとのことでしたが、私は住宅を通しての生活改善的なことにも尽力した合理主義者そしてモダニストの譲れないデザインポリシーであったと思いました。鴨居の高さ(内法寸法)の統一や幾何学的な造形にこだわっていることは、ひしひしと伝わってきます。落とし掛けを合理的な理由なく持ち上げることにより、単純な十字形の幾何学が壊れるのを避けたのだと思います。
・・・ということを見学したときには思っていましたが、最近タウトの本を読み返していたら、これに関する具体的な記述がありました(『忘れられた日本』中央公論2007、p10)。彼は桂離宮を小堀遠州の作とし彼の創作態度の独創性、哲学性を称賛するとともに、大徳寺狐蓬庵の「(小堀)遠州の居間(忘筌)」の落掛けが長押のレベルとそろっている唯一の例であることを指摘しています。
日向邸の床は、既成概念や世事にとらわれず、自らの中に静寂な精神的境地をつくりだすことから設計に臨んだ遠州の精神と相通じる造形であったといえるようです。