昨日都市環境デザイン会議の幹事会でまとめ役のTさんの発言をきっかけに、都市環境デザインにおける専門家の役割について皆で少し意見交換をしました。時間の関係でほんの少ししか皆さんの意見を聞くことが出来ませんでしたが、私たちもこれから考える場面が多くなるテーマであることは間違いありません。
日本の都市づくりや都市環境デザインの分野では、建築や土木、造園、都市計画などのハードの教育を受けた人たちが「専門家」として中核をになってきました。私自身もハードの教育を受けた専門家といえます。大学時代には都市に対しての提案である丹下先生、大谷先生の美しいドローイングや模型写真に魅せられたものです。
現在においても役所から発注される「○○市マスタープラン」「○○地域活性化計画」などの計画は(市民参加は当然あるにせよ)上記専門家の手によってまとめられていることが多いと思います。
これまで、都市化の進行する時代においては「新都市」を新しく建設したり、既存市街地を新しい発想で再編成し時代に要求される都市機能の入れ物として作り変えること、あるいは都市基盤としての道路や大きな都市施設の建設といったように、ハードをつくる専門家としての役割が大きかった様に思えます。しかし、既に都市化が終わり、多くの識者が指摘するように今あるモノを上手に編集していくことが、これからの「まちづくり」の方法だとすれば、既にあるハードをどのように使いこなすのか、どのように組み合わせるのかなどが、重要になります。また、必要性のためにモノをつくったりモノを作る過程をにコントロールする空間計画が「都市計画」の主目的であったのに対し、現在の「まちづくり」は空間計画というよりも、社会計画的な側面が大切にされていることにも着目しなければなりません。
一例を挙げると、今まで市民中心のまちづくりに対して専門家は「イベントづくりやまち歩きばかりで、ちっとも目に見える成果や、今後につながる蓄積ができないではないか」という疑問を呈してきました。しかし、その疑問は少し的外れのようです。イベントすることで、皆がつながることが現段階での目標であり成果なのです。
このようにハードが主役の『都市計画」がソフト主役の「まちづくり」に置き換えられてきているのですから、まちづくりの主要局面でのハード専門家の役割は小さくなると思います。専門家がいろんな事例や法規を知っているとは言われますが、多少の知識不足などは勉強家の市民にとってはなんらハンディではありません。
では、私たち専門家に期待される役割はどのようになるのでしょうか。私が昨日の議論の中で考えたことは次のようなことです。
私たちの暮す環境がハードの集積であるという単純な事実に変わるところはありません。そして都市化を終え、成熟の時代を迎えた私たちが「都市で美しく暮す」という目標をもつことに大きな異論はないと思います。専門家は美しく暮すデザインを提示することが求められます。その場面での専門家の役割は増すことはあれ減ることはありません。どんなに家作りの本をたくさん読んでも、モノをつくるトレーニングを積んだデザイナー・建築家が加わらなければ、よい結果にいたらないことは間違いないところです。
上記のデザイナーとしての役割というのは、実際に物を設計するという意味に留まるのではありません。以前紹介しましたhttp://takatani.blog.ocn.ne.jp/blog/files/America081222.pdfが、シカゴ郊外のフォレストパークの市民が集まり、開拓時代の様式に家を改装するまちづくりを始めた時に、州政府の専門家がストップをかけました。杉のこけら葺の外装ではなく今その地域でもっとも手に入りやすいライムストーンの街なみを作るべきだという方向転換です。開拓時代に戻るという選択肢が正しいかどうかの絶対的な判断基準があるわけではありません。しかし少なくとも専門家は頭の中でしっかりいろんな将来イメージを構想した上で市民に提示したに違いありません。すなわち、専門家としてのハードについての「構想力」が多くの人を説得したのです。これもデザインの力だといえるでしょう。
また美しく暮す都市空間を実現しているヨーロッパや北欧都市が「計画なくして建設なし」という原則を持っていることはよく知られています。その計画をつくるのは自治体の建築家、都市計画家です。ハードの姿を都市全体を見ながら考える役割ですから、市民には難しい、まさにわたしたちハードの専門家にふさわしい役割です。そういった体制に日本も近づいてくるのではないかと思います。決して、ヨーロッパのまちのような街なみを日本に造ろうということではありませんが、レベルのあまりにも低い建築や都市施設を野放図に許容する時代は終わると思います。そのときにはまさにハードの専門家が都市づくりのレベルで大活躍することになるはずです。
以上まだまだ深く考えるところまでいたりませんが、思いつくままのメモを記しました。
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高谷時彦記 Tokihiko Takatani