「なぜ、このようなことをされるのか、理解に苦しみます」
普段はとても穏やかな本校の職員室に、冷たい言葉が。
「今までこんなことを指示されたことはありませんでした」
「私たちが毎日ギリギリの所で仕事をしている状況を分かってはいただけないというとこですか」
言葉が重ねられるごとに、職員室の空気は重く、重くなっていきます。
「他に方法はなかったんですか」
このやりとりは、管理職から、先生たちに対して、ある仕事の指示が出されたときのものです。
その指示が、先生たちにとっては、あまりに理不尽だということで、不満が爆発しました。
「仕事量としてはそう大したことはないのかもしれませんが、しかし心情的に、とても気持ちよく仕事をしようという気持ちになれないものです」
「どうしてこんなやりかたをするんですか」
不満の声がとても大きいのですが、実際に声に出しているのは極一部の先生です。
他の先生は、声には出さないまでも、同じことを思ってはいるんだということが、そのときの空気から伝わってきました。
「年度末の、ただでさえ忙しいこの時期に」
確かに、管理職が出した今回の指示は、理不尽と思われても仕方のないものでした。
私は教務主任という立場なので、先にこの指示については知っていましたし、そのときに、先生たちの反感を買うだろうということは、容易に想像できました。
案の定、こんな結果になってしまいました。
「いろいろと考えてはみたのですが、どうしてもこんな形になってしまい…」
言葉を返す教頭の声には力がありません。
動揺すら感じました。
この理不尽な指示が出される前に、それを知った私が一言もの申すこともできたのですが、指示の内容そのものがまったくの管理職側のことだったので、控えました。
「今回はこの形でお願いしたいと思います。それでもどうしてもという方があれば、わたしに個人的にお話に来てください」
校長も加わり、一層厳しい空気になりました。
職員室は一気に、管理職が先生たちから責められるような空気になりました。
責める先生たち。
耐える管理職。
久しぶりに居心地の悪い職場です。
声を上げる先生に、回りの先生が賛成したり加勢したりしています。
もちろん、どの先生も意地が悪いわけですはなく、いい先生なのです。
この先生たちも、自分達の正義を守ろうと、立場を守ろうと必死になっているのはよく分かりました。
それが分かりながら、私はというと…
管理職の味方でした。
気持ち的には。
おそらく、職員室内で唯一の。
この指示を出すに至った、出さなくてはいけない状況に至った、その一部始終も見ていたからです。
管理職だって、いろいろとがんばっていました。
先生たちが苦労しなくて済むように、何かいい方法はないかと試行錯誤を繰り返していました。
しかし万策尽きて、やむを得ず、こんな指示を出すことになった。
それを私は知っていました。
指示を出す側の管理職の苦悩も、十分に伝わっていました。
私だけが知り得た、今回の裏事情でした。
じゃあ
「がんばったんだから仕方ないでしょ」
なんて発言が意味をなすかというと、そこは仕事の厳しさです。
限度があります。
私にとっては、他の誰とも違う意味で辛い一場面になりました。
声を上げる先生たちの立場ももちろん分かります。
私だって去年までだったらまるっきりそちらにいた側です。
先生たちが仕事をしやすい環境を作るのが自分の仕事だと思っているので、今回の先生たちの不満に対して、私も責任を感じます。
同時に、管理職を守りたい気持ちが強く芽生えました。
人数比からしても、今回劣性に立たされた側を、支持したいと思うのは自然なことでした。
今さながら、事前に割り込んで一役買うべきだったかと、後悔しています。