高3か予備校生のころ、友人がロビー・デュプリーの『steal away』を聴けと勧めてくれた。
オイラのその頃の情報源はFMラジオ。
『steal away』はすでに知っていた。
友人とお互いに、いい曲だよね、と言ってそいつの部屋で慣れないウイスキーを飲みながら
歌詞の意味も知らずに聴いていた。
それから何年もたち、ある夜、オイラは素敵な女性をドライブに誘った。
逗子湾を抜けて森戸を超え、高台にある湘南国際村へ向かった。
そこには鳥人間が住んでいて自然を破壊した人間を襲うというのだ。
鳥人間目撃情報は多く、では自分たちの目で確かめに行こうと探検に向かったのだった。
それは、小坪に幽霊を見に行くよりはるかにメルヘンチックなものだった。
結局、鳥人間はいなかったので、高台をUターンした。
眼下に鎌倉や江ノ島の灯りが広がった。
オイラは必殺用に『steal away』を準備していた。
フェードインするイントロから心を奪われる。
甘く、せつね~っ、な感じだけどノリのよいポップ。
その曲は箱根でもなく、もちろん平塚じゃなく、
ライトアップした東京タワーでもなく、横浜界隈でもない。
深夜の葉山だったわけだ。
あいや~、ピッタリの曲じゃね?ね?ね?
と選曲のよい自分を称賛する。
男はいくつになってもここいら辺はガンバルのである。
「どうして僕たちはこっそり逃げ出さないんだろう」
という歌詞だ。
煮え切らない彼女を説得する男の歌なのだが、
どうもオイラ自身が説得されたんだな、と理解できたのは、
初めて聴いてから28年たってからである。
その女性は逃げ出してくれたのに、
オイラは自分の器の小さにしっかり受け止めてやれなかった。
人生の中の後悔が5個あるとしたら、あきらかにそのうちの1個だなあ。