福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

愛知祝祭管「ジークフリート」を体験

2018-09-04 00:29:39 | コンサート



愛知祝祭管弦楽団のジークフリートを聴く。前二作「ラインの黄金」「ワルキューレ」公演は、我がスケジュールとの折り合いが悪かったため、今回が愛知リングはじめての体験ということになる。

だいたい、アマチュアのオーケストラがワーグナーのオペラ、しかもリング四部作を演奏したいと夢想することすら大胆不敵であるのに、それを企て、実現させてしまう、というのが、愛知祝祭管弦楽団の恐るべきところである。経済的にも、労力的にも、そして音楽的にも想像を絶する労苦があったことは間違いない。実際の演奏は、佐藤団長をはじめとする楽員たちの熱い想いがステージからひしひしと伝わってきて感動的であり、ひとりの聴衆として幸せな時間を過ごすことができた。

まず、あの長丁場、一切の弛緩もなく、ワーグナーの音世界を湧出させつづけた愛知祝祭管を讃えたい。木管、金管ともに個々の能力が高い上、各セクションが最良のバランスが達成されていたし、延々とアクロバットの続くような弦楽器群も、よくぞここまで、と唸らせるほどのパフォーマンスを聴かせてくれた。
「アマチュアだから、仕方ないな」と聴き手が、手心を加えるべき場面はなく、1幕冒頭からジークフリートとブリュンヒルデが抱き合う大団円まで、ワーグナーの音楽のみに集中させてくれたのは偉大である。

歌手陣も総じて素晴らしかった。ミーメ:升島唯博の芝居巧者ぶりとディクションの冴え、さすらい人:青山貴の朗々たる歌声による貫禄、アルベリヒ:大森いちえい/ファーフナー:松下雅人/エルダ:三輪陽子のキャラクターの妙、ブリュンヒルデ:基村昌代の突き抜ける声と気高さ、森の小鳥:前川依子の可憐で軽妙な愛らしさ、など。

ジークフリート:片寄純也は、その体調不良が本人にはさぞ無念だったと思われるが、それでも最後まで立派な英雄でありつづけた。

佐藤美晴による演出は、アイデアとセンスの勝利。演出は物量ではない、を再認識。

これら一切を統べた三澤洋史は、よほど特異な才能と魅力の持ち主であることを思わせた。不思議なのは「これが三澤のワーグナーだ」との感を抱かせないところ。たとえば、かつて朝比奈&新日フィルのリング・チクルスを聴いた後には、身も心もドップリと朝比奈漬けとなったものだが、今回はワーグナーの音楽とストーリーばかりが心にスッと入り込んできたように感じた。ピョンピョンと軽い足取りで指揮台に駆け上がる三澤の狙いがそこにあるのなら、これを三澤のワーグナーと呼ぶべきなのだろう。

ところで、今回の公演は、ホームグランドの愛知県芸術劇場改装中のため、リニューアルオープンされたばかりの御園座が選ばれた。芝居小屋だけに残響は少なめであったが、それはそれで脚色のない演奏の実情が客席に伝わる良さはあった(それでも通用する音楽を奏でた)。

さらに、歌舞伎の殿堂だけに、開演前と休憩時間に限り、客席での飲食の許されるのが面白かった。5時間を越す公演。二度の休憩時に客席で弁当を食べるというスタイル、なかなかワーグナーに合っているのではないか? と思わせる力が御園座という箱にはあった。弁当を見合わせたわたしは、二度の休憩に御園座名物の最中アイスを頂いた。1度目は小豆、2度目には抹茶を選んだ次第。どちらも美味かったが、次の機会があれば、もう一度、小豆かな。

 

ワーグナー 序夜と3日間の舞台祝祭劇「ニーベルングの指環」から

楽劇「ジークフリート」全3幕(コンサートオペラ・日本語字幕付き)

 

日時 2018年9月2日(日) 午後3時開演(午後2時15分開場)

指揮:三澤洋史 
管弦楽:愛知祝祭管弦楽団 
演出構成:佐藤美晴 
舞台監督:磯田有香 
字幕:吉田真 

【CAST】 
ジークフリート:片寄純也/ミーメ:升島唯博/さすらい人:青山貴/アルベリヒ:大森いちえい/ファーフナー:松下雅人

エルダ:三輪陽子/ブリュンヒルデ:基村昌代/森の小鳥:前川依子