明鏡   

鏡のごとく

『一人一殺』四

2013-05-15 18:33:57 | 小説
 犬養が死んでいた。
 515事件の特集を組んでいた雑誌の中で。
 血の跡もくろくにごりついたままで隠されもせず、あらゆる角度からの死に様が、白黒の写真に映し出されていた。

 幼い頃に偶然見た、犯罪事例の死体の写真にどこかしら似ていた。
 警察官であった父の本棚の何冊か無造作に並んでいた本の中で、男か女かもわからない死体。
 その写真には匂いはなかった。
 ただ肉がちぎれ、生きることをやめて、身動きもせず、そこにうずくまっているようであった。
 死んでしまった死からそれ以上、赤い血は流れてはこないが、死だけがそこで静止していた。

 犬養暗殺後の写真は、白黒であったせいであろうか、死すらもドス黒く死体のごとく古びていくことを詳らかにしていた。

 一人一殺の蹟。
 殺されたものは、殺したものの一殺。
 殺したものは、殺されたものの一人。