友が亡くなった。
一週間前に会う約束をしていた。
もっとも、同窓会で会うという約束だったが。
久しぶりに合うことで、今まで会っていない時をそれぞれの姿を前にして語り合うことで、紡ぎなおすように時々思い出したように、これまでもたびたび会っていたのだった。
しかし、彼女はもう何を考えているのかも、分からなくなってしまうほど、土気色になり、もう語ることもなく白っぽい木の箱のなかで横たわって胸の上で手を合わせたきり、目を開けようとはしなかった。
もう世の中に未練がないように、きっぱりと口を閉じ、死と沈黙と手を組んでいるのだった。
高校時代に、リンカーンの演説を真似てスピーチしていた。
何のために覚えているのかわからないが、覚えたくて覚えていた。
リンカーンのように殺されたくはなかったのだろうが、南北戦争で勝つために紙幣を刷りまくったリンカーンには紙幣の秘密を教えてもらったようなものなので、まんざら其のスピーチを無駄とも思わないようになった。
人民の人民による人民のための政治。
紙幣の紙幣よる紙幣のための世界。
国とは紙幣で出来ている。
紙幣を発行する権利を持っているものだけが国を名のれるのである。
世界中の金を集めると日本の公立中学校の生徒が四十人ほどつめ込まれた狭い教室二部屋分しかないという単純計算もあるという表立っての金の延べ棒率であると聞いたことがあるが、かつては金(きん)本位制であったころ、紙幣を金に換算する手間暇を考えると、結局、紙幣になり、電子マネーになりつつある今、湯水のように紙幣を作り続けるものだけが、税金で其の見せ掛けの金のなる木をカモフラージュしつづけ、税金で賄われているはずもない、永遠に収支の合わないマネーロンダリングを国が行っているのである。
世界政府を樹立するということになれば、大本にある銀行を抑えているものが「世界」を作り続けるのである。
彼女は眠りにつきながら、そう語るはずもなく、頑なに役目を終えた金の延べ棒のように動かなかった。
これから焼かれる彼女は、灰になる。
紙幣のように軽やかであるが、掴み様もなく、手の隙間を抜けていくかもしれないが、灰色の微粒子となって、いつまでも私の肺に黒い影を残す。
たぶん、私が灰になるまで。
あなたはいつも冷静で美しかったが、何か得体のしれないものを追っていた。
弁護士になる為に、いつまでも勉強していた。
死ぬまで勉強していた。
何を弁護したいのか、わからなくなるまで勉強した。
空疎な法律は、塗り替えられ、今まさに塗り替えられているよ。
戦後塗り替えられたものが、より必要性を帯びて、書き換えられるということには、あまり触れずに、ただ今ある法律を知り尽くそうとしていたのであったが、人の作ったものは人が作り変えることができる、その時代の精神というものによって。
いつでも、変えることができるのである。
あなたは気づいていたであろうか。
憲法は外国の手によって作られ、それを日本語に翻訳されたのだということに。
日本という国にある憲法は、外国によって作られた。
これは現実である。
その後、日本は占領され続けているが、日本語によって辛うじて、日本という国をなしているのだということ。
それがどうした。と死んでしまった友は言うであろうか。
それがどうした。
だからなんなのだ。
日本であろうが外国であろうが知ったことではない。
死に至るまで、何を学ぶというのであろうか。
最近の私の学びといったら、蛍の幼虫は腰のあたりが二箇所光るのだとか、六回前後脱皮するだとか、成虫になるともう何も食べなくなり、一週間で交尾して次世代を残して死んでいくとか。25度を越えた水ではなかなか生き残れないとか。
蛍を知らなかった私が、仕事の関係で蛍を育てる環境にあるなど、あなたに会ってとめどもなく、話してみたかったのだが。
あなたはきっと、私らしいと笑っただろうが。
人間ではないものに、人間を重ねて、あなたはまるで蛍のようだといいたいような、いいたくもないような。
そんな気もしていたのだ。
あなたは気温が25度を超えないうちに死んでしまったのだから。
あなたはそれでも脱皮した。
ホタルがずるりと剥けて脱皮する時のように、一度白い皮に剥がれて、変色しながら、くろぐろと大きくなるように、白装束をきて横になり固くなりながら、この人生を脱皮していたのだ。
日本の蛍は、世界的に言えば、めずらしい品種が見られて、水辺に生息する品種として、ゲンジホタル、ヘイケボタル、ヒメボタルがある。ゲンジは川辺、ヘイケは田んぼに多く見られ、ヒメは小さい。
ヒメのようなあなたは、一度は離島に行って、生活しようとしたあなたはピアノと紅茶がないところでは生きていけ無いような人だった。
が、結婚し、法律事務所で働きながら、子どもを育て、借金による荷重責務を負う人を借金地獄から開放すると言いながら、うわっパネをいただき法律事務所の喧伝のホームページを作成したりしていた。
ブラックな金融からブラックな金を借り、借りた金を返せないと泣きつかれ、返さなくてもいいように話をつけ、其のブラックな金の一部を頂くのが、世界だった。
雨だれを弾くのが好きだった美しい長い指先も、ゴツゴツとした仕事を全て引き受けた指に変わり、あなたはもううっすらと微笑むことなく死んでそこに横になっていた。
美しい黄色の着物を身につけて。
全身蛍の光のように死んでいた。
すでに気温は25度を超えてしまい、蛍の季節も過ぎようとしている。
あなたの脱皮はすでに完了して、あなたと話す言葉もとうになくしてしまったが。
これから、憲法が脱皮し、国が脱皮し、世界が脱皮し終えた時。
宇宙からみた地球は、おそらく一匹の蛍であろう。
などと、いなくなった蛍を数えるように、考えてみたりもするのだった。
一週間前に会う約束をしていた。
もっとも、同窓会で会うという約束だったが。
久しぶりに合うことで、今まで会っていない時をそれぞれの姿を前にして語り合うことで、紡ぎなおすように時々思い出したように、これまでもたびたび会っていたのだった。
しかし、彼女はもう何を考えているのかも、分からなくなってしまうほど、土気色になり、もう語ることもなく白っぽい木の箱のなかで横たわって胸の上で手を合わせたきり、目を開けようとはしなかった。
もう世の中に未練がないように、きっぱりと口を閉じ、死と沈黙と手を組んでいるのだった。
高校時代に、リンカーンの演説を真似てスピーチしていた。
何のために覚えているのかわからないが、覚えたくて覚えていた。
リンカーンのように殺されたくはなかったのだろうが、南北戦争で勝つために紙幣を刷りまくったリンカーンには紙幣の秘密を教えてもらったようなものなので、まんざら其のスピーチを無駄とも思わないようになった。
人民の人民による人民のための政治。
紙幣の紙幣よる紙幣のための世界。
国とは紙幣で出来ている。
紙幣を発行する権利を持っているものだけが国を名のれるのである。
世界中の金を集めると日本の公立中学校の生徒が四十人ほどつめ込まれた狭い教室二部屋分しかないという単純計算もあるという表立っての金の延べ棒率であると聞いたことがあるが、かつては金(きん)本位制であったころ、紙幣を金に換算する手間暇を考えると、結局、紙幣になり、電子マネーになりつつある今、湯水のように紙幣を作り続けるものだけが、税金で其の見せ掛けの金のなる木をカモフラージュしつづけ、税金で賄われているはずもない、永遠に収支の合わないマネーロンダリングを国が行っているのである。
世界政府を樹立するということになれば、大本にある銀行を抑えているものが「世界」を作り続けるのである。
彼女は眠りにつきながら、そう語るはずもなく、頑なに役目を終えた金の延べ棒のように動かなかった。
これから焼かれる彼女は、灰になる。
紙幣のように軽やかであるが、掴み様もなく、手の隙間を抜けていくかもしれないが、灰色の微粒子となって、いつまでも私の肺に黒い影を残す。
たぶん、私が灰になるまで。
あなたはいつも冷静で美しかったが、何か得体のしれないものを追っていた。
弁護士になる為に、いつまでも勉強していた。
死ぬまで勉強していた。
何を弁護したいのか、わからなくなるまで勉強した。
空疎な法律は、塗り替えられ、今まさに塗り替えられているよ。
戦後塗り替えられたものが、より必要性を帯びて、書き換えられるということには、あまり触れずに、ただ今ある法律を知り尽くそうとしていたのであったが、人の作ったものは人が作り変えることができる、その時代の精神というものによって。
いつでも、変えることができるのである。
あなたは気づいていたであろうか。
憲法は外国の手によって作られ、それを日本語に翻訳されたのだということに。
日本という国にある憲法は、外国によって作られた。
これは現実である。
その後、日本は占領され続けているが、日本語によって辛うじて、日本という国をなしているのだということ。
それがどうした。と死んでしまった友は言うであろうか。
それがどうした。
だからなんなのだ。
日本であろうが外国であろうが知ったことではない。
死に至るまで、何を学ぶというのであろうか。
最近の私の学びといったら、蛍の幼虫は腰のあたりが二箇所光るのだとか、六回前後脱皮するだとか、成虫になるともう何も食べなくなり、一週間で交尾して次世代を残して死んでいくとか。25度を越えた水ではなかなか生き残れないとか。
蛍を知らなかった私が、仕事の関係で蛍を育てる環境にあるなど、あなたに会ってとめどもなく、話してみたかったのだが。
あなたはきっと、私らしいと笑っただろうが。
人間ではないものに、人間を重ねて、あなたはまるで蛍のようだといいたいような、いいたくもないような。
そんな気もしていたのだ。
あなたは気温が25度を超えないうちに死んでしまったのだから。
あなたはそれでも脱皮した。
ホタルがずるりと剥けて脱皮する時のように、一度白い皮に剥がれて、変色しながら、くろぐろと大きくなるように、白装束をきて横になり固くなりながら、この人生を脱皮していたのだ。
日本の蛍は、世界的に言えば、めずらしい品種が見られて、水辺に生息する品種として、ゲンジホタル、ヘイケボタル、ヒメボタルがある。ゲンジは川辺、ヘイケは田んぼに多く見られ、ヒメは小さい。
ヒメのようなあなたは、一度は離島に行って、生活しようとしたあなたはピアノと紅茶がないところでは生きていけ無いような人だった。
が、結婚し、法律事務所で働きながら、子どもを育て、借金による荷重責務を負う人を借金地獄から開放すると言いながら、うわっパネをいただき法律事務所の喧伝のホームページを作成したりしていた。
ブラックな金融からブラックな金を借り、借りた金を返せないと泣きつかれ、返さなくてもいいように話をつけ、其のブラックな金の一部を頂くのが、世界だった。
雨だれを弾くのが好きだった美しい長い指先も、ゴツゴツとした仕事を全て引き受けた指に変わり、あなたはもううっすらと微笑むことなく死んでそこに横になっていた。
美しい黄色の着物を身につけて。
全身蛍の光のように死んでいた。
すでに気温は25度を超えてしまい、蛍の季節も過ぎようとしている。
あなたの脱皮はすでに完了して、あなたと話す言葉もとうになくしてしまったが。
これから、憲法が脱皮し、国が脱皮し、世界が脱皮し終えた時。
宇宙からみた地球は、おそらく一匹の蛍であろう。
などと、いなくなった蛍を数えるように、考えてみたりもするのだった。