つい出てしまうにゃんこの手

 実家で一歳の息子を風呂に入れていると、台所の方から大きな叱り声が聞こえてきた。どうしたのだろうと思ってあとで聞いてみると、食卓の上に置いておいた鳥の肉団子に、ネロが手を出したらしい。
 実家で一番言うことを聞かないのが、このトラ猫ネロである。少年時代のやんちゃぶりは年を取っておさまったが、年を重ねた分嗜好の幅が広がり、夕食に刺身でも出ようものなら、食卓に上って大変なことになる。言うことを聞かないから、無理やり降ろしても叱っても、何度でも上ってくる。仕方がないので、ご馳走の一部をお皿に分けて別室でやり、こちらは扉を閉めておかないと落ち着いて食事ができない。ネロの好みは幅広く、魚から鶏肉、ハム、さらには野菜まで食べる。鰹節のかかった菜っ葉のおひたしが好みである。
 もっとも好物の品がなくても、家族が食事に集まると、ネロも食卓に上がってくる。これは、ちょうど猫の集会(注)に出席しているつもりなのではないかと思われる。ネロは室内飼いで、猫の町内会には出席できないのだ。どんなに眠くてもまるで義務だとでも言うように、私たちと一緒に食卓を囲んで輪になって、うとうとしながら座っている。食事のときに限らず、家族の者が集まって話をしていたりすると、決まってネロはやってくる。
 人が見ていないと、こっそり皿に手をつけてしまうネロだが、毎度のように叱られるので、それが悪いことだとはわかっているようだ。ちょっとかじったところで、あ、しまったと気づくのか、ぺろりと食べることはない。また、いつも反抗的なネロが、叱られるときにはしゅんとしている。悪いと分かっていながら、ついつい、猫の手が出てしまうのだろう。

(注)猫には、同じ地域に住む猫が、夕方や夜、公園などいつも一定の場所に集まる習性がある。これを「猫の集会」と呼ぶ。集まって何をするかというと、特に何をしているわけでもなさそうである。ただ集まって、座っている。情報交換や顔見せが目的であると考えられている。



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