いもさんたち(中篇)

 ピッコリーモちゃんは、レタスの葉っぱに乗って我が家にやってきた。今まで育てた他の幼虫に比べると、ずいぶん小さい。当時、趣味としてイタリア語を少しかじっていたので、イタリア語の「小さい」という意味であるpiccoloと「いもさん」を組み合わせて、ピッコリーモちゃんという名前を付けた。
 体は黒っぽい色をしているが、小さくて特徴がよくわからず、何の種類なのか判然としない。とりあえずレタスの葉っぱを与え続けた。食欲旺盛である。
 数日経ってピッコリーモちゃんは葉っぱを食べなくなった。時々もぞもぞ動くだけでじっとしている。どこか具合でも悪いのだろうかと心配になったが、次の日見ると、ピッコリーモちゃんが緑色になっていた。体も一回り大きくなっている。脱皮したようである。食欲も元通り、もりもりレタスを食べている。ほっと一安心した。結局、ピッコリーモちゃんも歴代いもさんと同じオオタバコガだったようである。しかし、一回り大きくなったといっても、まだ小さい。
 さらに数日経って、ピッコリーモちゃんはまた食べるのをいったん中止して、次の脱皮をした。胴体の抜け殻と、まるでマスクのようにポロリと顔の部分が落ちていたが、しばらくするとなくなっていたので、食べてしまったのだろう。
 そうやって数回脱皮を繰り返し、ピッコリーモちゃんは歴代いもさんに並ぶ体格になった。そろそろ、さなぎになる日も近いかもしれない。私は土を用意した。そうして、ピッコリーモちゃんは蛹になるため土にもぐった。年の暮れであった。
 私は迷った。ピッコリーモちゃんの蛹をこのまま部屋の中へ置いておいてよいものだろうか。季節は冬。自然の環境なら、蛹の状態で越冬するのだろう。だが部屋の暖かさに惑わされて、ピッコリーモちゃんが春になる前に羽化してしまうと、厄介なことになる。しかし、今まで暖房の中で育ってきたのを、急に寒い屋外へ出してよいものか。
 思い切って外へ出してしまえばよかったのかもしれない。だが私は、結局ずるずるとピッコリーモちゃんの蛹を部屋の中に置いたままにした。(つづく)
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