鴨川のトンビ

 京都の鴨川にはトンビが多い。高く突き抜けるような秋の青空を悠々と舞う姿は、見ていて心が晴れ晴れとするが、油断は禁物である。弁当片手にぼんやり眺めていたりすると、トンビの襲撃に合う。知り合いは鴨川のほとりでのんびりから揚げをつまんでいたところ、あっというまにトンビに取られてしまった。トンビに油揚げならぬ、から揚げをさらわれたのである。鴨川の河川敷公園には「トンビに注意」という看板が立っている。
 私も被害にあった。いつだったか、日本海側のどこかの砂浜に座って菓子を食べていたときだ。上空を舞っていたトンビが不穏な動きをしたと思うと、痛い、菓子を持っていた手に衝撃が走った。一瞬何が起こったのかわからなかったが、トンビが手の菓子を狙って急降下し、菓子を掴もうとしたその足が私の親指にぶつかったのであった。トンビは菓子を取りそこなって再び空へ舞い上がった。私は大急ぎで菓子をカバンにしまい、その後、トンビから目が離せなかった。
 その海岸で、トンビにエサをやっている人がいた。その人の周りには何羽ものトンビがぐるぐると旋回し、投げ上げられたエサに向かって空中を滑るように突き進んでは上手にエサを取っていた。まず足で掴んでキャッチし、飛びながら器用にくちばしに渡して食べる。
 冬の鴨川に飛来するユリカモメには何度もパン切れをやったことがあるのだが、トンビにエサをやったことはない。ぎゃあぎゃあと騒がしく鳴くカモメにパンをやるのはなかなか面白いが、トンビにはカモメにはない迫力とスリルがありそうだ。トンビのエサやりをぜひやってみたいのだが、トンビは何を食べるのだろう。猛禽類であるからやはり肉食なのだろうか。
 ある日鴨川を散歩していたら、小さな犬を連れたおじさんがトンビにエサをやっていた。犬は突付かれないのだろうかと思いながら、エサに何をあげているのか聞いてみた。
「パンです。結構迫力あって面白いよ」
 カモメと同じ、パン切れでよかったのだ。今はよちよち歩きの息子がもう少し大きくなったら、一緒にトンビにパンをやりに行こうと思う。
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