恐・怖・体・験(前編)

 ブロッコリーの房を切り取ると、うす緑色の青虫が姿を現した。冷蔵庫の中で眠っていたらしく、しばらく見ているとゆっくり動き出した。きっとモンシロチョウの幼虫だ。私はミニトマトのケースに、青虫を入れた。
 我が家の台所にやって来た幼虫たちを、私はたびたび飼育してきた。トマトやレタス、あるいはガーベラの花についていたオオタバコガ。小松菜の中に潜んでいたヨトウガ。
 しかし、すべて蛾であった。もちろん、蛾でも育てているとそれなりに愛着を覚えるし、羽化した時の感動はひとしおであるが、それでもやっぱり育てるなら華やかな蝶がいい。
 キャベツ科のブロッコリーについていたこと、およびネットで検索した画像から、モンシロチョウであることは確実だった。今度こそ蝶である。
 キャベツの葉をいれてやると、両方の前肢ではさんでしゃりしゃりと食べた。丸っこい吸盤のついた極端に短い足はなかなか愛嬌がある。
 私は青虫を毎日観察した。黄緑色の葉を食べれば黄緑色の糞をし、濃い緑色の葉を食べれば深緑色の糞をする。下に敷いたキッチンペーパーが緑色に汚れると、キャベツの葉と一緒に、新しいものに換えてやった。
 しばらくして、青虫はキャベツを食べなくなった。ケースのふたに登ったまま動くこともない。脱皮するのだろうか。今までの蛾の幼虫はみな、脱皮する前には食べるのをやめてじっとしていた。あるいは蛹になるのかもしれない。ふたたびネットで調べてみる。
野菜についていた幼虫を飼育する人というのは意外にたくさんいて、それぞれが日記や写真付の飼育記録をホームページに載せているので、参考になる。
モンシロチョウのページを探してみると、同じように飼育ケースのふたの裏側で蛹になりました、という報告があった。では、いよいよ蛹になるにちがいない。
しかし、青虫はなかなか蛹にならなかった。少しずつケースの壁を移動しているようである。
そして、赤い糞をした。(つづく)


ブログランキング・にほんブログ村へ ←ブログランキングに参加しています。よろしければ、クリックをお願いします。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )