シャム来襲

 またもや、庭から不穏な音が聞こえてきた。庭に通じる裏口のドアを開けて見てみると、そこにいたみゆちゃんがしきりと上のほうへ首を伸ばして鳴いている。裏口を出たところは畳三畳分ほどトタン屋根がついていて雑多な物が置いてあるのだが、そのトタン屋根がみしっと鳴った。屋根の上に何かがいるらしい。
 息を呑んでみゆちゃんと見つめていると、屋根の上のそれが動き出した。たたん、ととん、トタンの上を踏んでいく。猫だ。乳白色のトタンに、四足をついた猫のシルエットが透けて見えた。
 誰だろう。フサフサ君か、トラかシロか。屋根の端に向かってゆっくりと歩いていく。が、あと数歩で屋根の端からその姿が見えそうだというところで、足の動きを止めてしまった。無論こちらの気配に気づいているのだろう、さらに先へ行こうか、躊躇しているようである。どんな猫か見たいので、私は声に出さず「進め、進め」と念じた。みゆちゃんはひげレーダーを精一杯屋根に向けて見上げている。縞々の尻尾は、まるでいつもとは違う別の生き物のように太くなっている。
 やがて、猫は意を決して再び歩き出した。私は猫の姿が見えるように、屋根の下からそろりと出て待った。みゆちゃんも足元でそれにならう。
 屋根の端からひょいと顔を出したのは、フサフサ君でもシロでもなく、シャムネコみたいな猫だった。きれいなグレイの毛。アーモンド型の青い目でじっとこちらを見つめている。
 ここで、私の中で葛藤が起こる。このシャムちゃんと仲良くしたい。しかしそれで頻繁に来られては、みゆちゃんとのあいだでややこしいことになるだろう。脅かして追い払わなければ。
 私を見るちょっと寄り目がかった顔がひょうきんな印象を与える。もしかすると人懐っこいのかもしれない。チッチと舌を鳴らして呼んでみようか―結局私は、どっちつかずの気持ちから、猫なで声で「こら」と言った。
 途端、シャムが赤い口をかっと開いて「シャーッ」と威嚇した。すかさず私も大口を開けて「シャーッ」とやり返した。シャムはおどろいて、ぱっと塀の向こうへ逃げていった。



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