夏のシロクマ

 ベルリンの動物園で、シロクマの赤ちゃん、クヌート君が大人気だそうである。クヌート君は、生後まもなく母熊が育児放棄をしたため人工飼育されているのだが、現在、生後3ヶ月、写真で見るとまさに愛くるしいという言葉がぴったりだ。しかしクヌート君の人工飼育に関しては賛否両論があって、一部の動物愛護家は、自然の掟に反するとして安楽死を主張しているらしい。詳しい事情は知らないけれど、そういう意見がどうして「愛護家」から出るのか、ちょっとわからない。
 シロクマ、シロクマと言っているけれど、正式な名前はホッキョクグマである。この極寒の地に住むシロクマが、かき氷とかアイスキャンディーとかエアコンのマークになって、日本の夏にはよく見られる。
 子供だった昔、ある夏の日に、祖母とデパートへ行ったことがあった。白い日差しが照りつけるバス停でバスを待っていると、やがて、陽炎が立ち昇りそうな夏の一本道の向こうに小さくバスが見え、車の流れに見え隠れしながら少しずつ近づいてきた。祖母が目を凝らし、「よかった、シロクマのマークや。シロクマのバスは冷房がかかっているのん」と教えてくれた。今でこそ京都の市バスはすべてエアコン完備だけれど、昔は真夏でも窓を開けて走っていたのがあった。それ以来、私はバスが通るたびに、シロクマのマークがついているか確かめるようになった。
 そのあと、祖母とシロクマのバスに乗ってデパートへ行ったはずなのだが、デパートで何を買ってもらったとか、そんな記憶は一切ない。覚えているのは、ただシロクマのバスが近づいてくる場面だけである。
 クヌート君から連想して、そんなシロクマを思い出した。
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