ネコバリアフリー(2)「猫用ノッカー」

 裏口のドアを開けると、そのすぐ前に外猫ポチがじっと座っていた、というようなことがよくあった。だいたいいつも決まった時間にご飯をあげるのだけれど、はやめに欲しいときや、もっと食べたいときなど、そうやってドアの前で待っているのである。にゃあとかなんとか言えばいいのに、犬的な性格の強いポチは、律儀に黙って待っている。
 こちらがすぐ気づけばいいけれど、そううまくもいかない。寒い冬の夜など、かわいそうである。そこで父が外猫用のノッカーを、猫の身長に合わせてドアの下の方に取り付けた。木の棒と針金でできた、小鳥の止まり木のような形のものである。ちゃんと使ってくれるのかしらと思ったが、ポチは教えもしないのに、すぐにノッカーを活用するようになった。部屋にいると、こんこんこん、とノックする音が聞こえてくる。ドアを開けると、ポチがいる。
 ところが、同じ外猫のちゃぷりはノッカーを使わない。使えないのか、使いたくないのか、ノッカーが取り付けられた後も以前と変わらぬ方法で、ドアに飛びつき、上部のガラス部分の縁に前足の爪を引っ掛け、懸垂状態で数秒部屋の中を覗きこみ、すぐに自らの重さに耐え切れず、しゃーっと音を立ててずり落ちていく。
 ポチがこんこん、ちゃぷりがしゃーっ。
 しかし最近、ノッカーをつけたのは失敗だったなあ、と父は言う。なにしろポチは食いしん坊である。定時のご飯が終わったあとも、こんこん、こんこん、ご飯の催促。放っておくわけにもいかず、家の中にいる者は落ち着かない。
 今日もポチは、ドアの前に座り込んで、自分専用のノッカーを鳴らしていることだろう。
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