春の庭の猫とハチ

 春うららで、猫も庭遊びが気持ちいい。小さな虫たちも活発に動いているので、みゆちゃんはそういった虫たちの観察に忙しげである。少し首を傾けるように前こごみになって、草むらのあいだをじっと見つめている。何を見ているのかわからないけれど、ダイナミックな動きはないから、おそらくとても小さな虫だろうと思う。どんなに小さくても、みゆちゃんは無視せず、きちんと観察する。そしてときどき、前足がつつ、つんと出る。
 そうかと思えば、飛んでいる虫を追いかけ、捕まえようとジャンプして、両前足を合わせたりしている。たいていは空振りだけれど、生き生きと楽しそうである。春の日差しが白い毛に反射して、眩しく暖かい。
 ひとつ心配なのは、みゆちゃんがハチに刺されないかである。ハチが毒針を持っていることを知らないのか、ハチにも手を出そうとする。地を這う小さな虫や小バエなんかに比べると、ハチはずっと大きくスリリングで魅力的な獲物なのだろうけれど、こちらは見ていてひやひやする。
 実家のネロは、子猫のときハチに刺された。暴れん坊だったちびネロが、やけにしゅんとしておとなしいと思ったら、ハチに手を出して、右目の上を刺されたようであった。その頃のネロは相当なやんちゃ坊主で、家のものはみな手足に生傷が絶えず、ほとほと手を焼いていたので、これで少しは懲りただろうと思っていたのだが、落ち込んでいたのは二、三日だけ、すぐにまたもとの暴君に戻ってしまった。
 みゆちゃんには、身をもってハチの痛さを学習するというようなことはしないで欲しいので、無駄とわかっていながら、ハチは危ないよ、刺されるよ、と注意するのだけれど、もちろんこちらの言うことなんて聞くはずがない。それが、ハチが針を持つことを知っていながらも刺されない自信がある、猫の余裕だったらいいのだけれど。
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