9月に入り、各オーケストラも新しいシーズンを迎えた。今年は新型コロナ感染症のために散々な状況の中、関係者たちがそれぞれ苦渋の想いでここまで来たことだろう。演奏者の舞台で演奏できる歓びが再発見されるのと同じように、聴衆側にも演奏を聴ける歓び、幸福感を再認識できた期間でもあった訳だ。普段鑑賞できることの有難さを、知らずのうちに感じなくなり当たり前のことと勘違いしていたようだ。少なくとも、アントンKには、初心にかえり今後を見直す良いきっかけになったと思っている。
新シーズンの1発目、上岡氏のブルックナー第8が聴けると楽しみにしていた演奏会。覚悟はしていたが、やはり大きく楽曲変更を食らった。しかし、昨今のアントンKの鑑賞スタイルは狭く深くから、少しずつ幅ができつつあり、室内楽曲をはじめまだ自分では挑戦したことのない未知の楽曲まで鑑賞する機会を持てるようになった。それもこれも偉大な演奏家、そして何より芸術家であるコンマスの崔文洙氏のお人柄によるものなのだ。指揮者とオケとの連携、意思疎通という演奏する上でとても重要な職であるコンサートマスターでありながら、いざ本番の舞台では、指揮者やオケパートの細部に渡り命掛けでリードする。ある時は、自らがパフォーマンスを興じ、演奏そのものを引き締めるのだ。これらを決定的づけるのが、ソロや少人数時の崔氏の演奏だろう。いつもと変わらぬ美音をそのままに、より音楽への愛情を感じることができるのである。
そんな崔氏率いる新日本フィル。今回も世の中をモヤモヤを吹き飛ばすような快演を繰り広げてくれた。卒業されたメンバーが舞台に久々にのり、どこか楽しそうだったり、いつもの同士のソロコンチェルトを最高の形で支え合ったり、と奏者の気持ちがそのまま音楽を通じてきたように感じている。演奏曲目は3曲置かれていたが、アントンKには、一番馴染みの深いハイドンがとても印象的だった。冒頭の出の部分から、和音のバランス、しかもティンパニの主張は最高で、以降このティンパニの活躍ぶりは、楽曲全体を通して印象的だったのだ。ハイドンという古典楽曲にして、新たな創造を見いだしハツラツとした演奏に仕上げたのは、やはり指揮者秋山氏なのだろう。今回アントンKの中で少しイメージが変わった。それまでアントンKには、真面目で教科書的な印象をもつ秋山氏だったが、今回の演奏でちょっと印象が変わった。秋山氏も、いよいよ円熟の境地に入ったという証なのか・・今後注目していきたい指揮者に加えたいと思った次第。さて音楽の秋、今シーズンはどんな演奏がアントンKを待っているのか、今から楽しみでならない。
新日本フィル第623回定期演奏会 ジェイド
シェーンベルク 浄められた夜 OP.4
ヴァンハル コントラバ協奏曲 ニ長調
ハイドン 交響曲第104番 ニ長調 「ロンドン」
指揮 秋山 和慶
ソロ 菅沼 希望
コンマス 崔 文洙
2020年9月3日 東京赤坂 サントリーホール