私は28歳から48歳まで約20年間を土木建築業界の営業として働いてきた。営業といえば聞こえは良いが、所謂「談合」という仕事である。
工事が発注されると入札に先立って指名業者の中から落札者を決める話し合いを行うのであるが、欲の皮の突っ張った土建業者間の複雑な利害関係を調整して落札者を決めるのであるから、常に緊張感のある真剣な話し合いがなされた。
談合には幾つかの基本ルールがあった。
一番解りやすいのは継続工事である。前回の工事を施工したので今回も引き続きお願いしますと言えば、大概は認めてもらえるのである。
地域性ということもあった。ここの集落の工事は従来から我社でやっているので今回も是非お願いしたいという頼み方である。田舎の集落で円滑に仕事をするためには氏神様の祭礼に際して冥加金を納めたり、酒を届けたり何かと神経を遣うものである。
順番というのは、同一工事が繰り返し発注されるような場合に順番で受注しようという取り決めで、落札の順番は籤で決めたりした。
貸借というのは、業者間の貸し借りを仕事の配分に反映させようという考え方である。他にも談合のルールにはいろいろあった。
もっと昔は、無尽と同様でトクマキ(談合金)を競り合って落札業者を決めたりしていた時代もあったが、金がかかりすぎるということで徐々に改善されたのである。
さて、一つの工事が発注されたときに、複数の業者が受注を希望してお互いに譲らないことが往々にしてある。そうした場合には指名業者メンバーの裁定に委ねるということがある。これを「オオナカに任せる」というのだが、多分オーナー会議に任せるという意味だと解釈される。
裁定を任せられた「オオナカ」はいわば裁判員による裁判のようなもので、個々の業者の言い分を聴取したり、貸借関係を調べたりして極力公平な裁定に努めるのだが、それでも決めかねるときには、一本籤や人気併用籤や時には阿弥陀籤によって決めたこともあった。
人気併用籤というのは、指名メンバーが受けた心証に基づく人気投票と当事者が引く屁ッピリ籤のポイントを合計して多い得点の者を当選者とするものである。当事者が引く屁ッピリ籤は①から⑩までの札を二通り作るのであるが、同点を避けるために⑩の札の片方はわざと⑪にするのである。この札を折ったり丸めたりして壺の中などへ入れて当事者に代わる代わる引かせるのであるが、これにもイカサマの方法があって固く丸めたものが大きな数字とか、折った紙の端が少しずれたものが大きな数字だとかいうのである。
話し合いの中では、「次の工事は必ず譲るから」などという口約束をして工事を受注することがある。この「次の工事」という表現が実に都合のよい表現である。次の工事は必ずお譲りしますという約束をした直後に相手の継続工事が発注になったりすれば、お約束通り恭しくお譲りすればいいのである。
運悪く次の工事も自分の継続工事だった場合には、継続工事までお譲りするなどという約束はしていないといって突っぱねるのである。継続工事まで寄こせというのなら、アンタも自分の継続工事を手放しますかと言って開き直るのである。
こちらにとって都合の悪い相手が受注を希望している工事へ気脈を通じた別の業者に立候補してもらうこともあった。これを「化粧立ち」というのだが、相手に恩を売りながら気脈を通じた別の業者には手ごろなタイミングで降りてもらうのである。
こうして私が16年前に足を洗った談合の世界を振り返ってみると、「ある一定の目途が立ったら次の世代に引き継ぐ」とか、あれこれの法案が成立したら辞めるとか、辞めないとか、曖昧なことを言い続けてちっとも辞めようとしないばかりか、なおも政権の座に留まろうと画策する菅首相の論法は田舎土建業者の談合の言質とあまり変わらないのではないかと思う次第である。
工事が発注されると入札に先立って指名業者の中から落札者を決める話し合いを行うのであるが、欲の皮の突っ張った土建業者間の複雑な利害関係を調整して落札者を決めるのであるから、常に緊張感のある真剣な話し合いがなされた。
談合には幾つかの基本ルールがあった。
一番解りやすいのは継続工事である。前回の工事を施工したので今回も引き続きお願いしますと言えば、大概は認めてもらえるのである。
地域性ということもあった。ここの集落の工事は従来から我社でやっているので今回も是非お願いしたいという頼み方である。田舎の集落で円滑に仕事をするためには氏神様の祭礼に際して冥加金を納めたり、酒を届けたり何かと神経を遣うものである。
順番というのは、同一工事が繰り返し発注されるような場合に順番で受注しようという取り決めで、落札の順番は籤で決めたりした。
貸借というのは、業者間の貸し借りを仕事の配分に反映させようという考え方である。他にも談合のルールにはいろいろあった。
もっと昔は、無尽と同様でトクマキ(談合金)を競り合って落札業者を決めたりしていた時代もあったが、金がかかりすぎるということで徐々に改善されたのである。
さて、一つの工事が発注されたときに、複数の業者が受注を希望してお互いに譲らないことが往々にしてある。そうした場合には指名業者メンバーの裁定に委ねるということがある。これを「オオナカに任せる」というのだが、多分オーナー会議に任せるという意味だと解釈される。
裁定を任せられた「オオナカ」はいわば裁判員による裁判のようなもので、個々の業者の言い分を聴取したり、貸借関係を調べたりして極力公平な裁定に努めるのだが、それでも決めかねるときには、一本籤や人気併用籤や時には阿弥陀籤によって決めたこともあった。
人気併用籤というのは、指名メンバーが受けた心証に基づく人気投票と当事者が引く屁ッピリ籤のポイントを合計して多い得点の者を当選者とするものである。当事者が引く屁ッピリ籤は①から⑩までの札を二通り作るのであるが、同点を避けるために⑩の札の片方はわざと⑪にするのである。この札を折ったり丸めたりして壺の中などへ入れて当事者に代わる代わる引かせるのであるが、これにもイカサマの方法があって固く丸めたものが大きな数字とか、折った紙の端が少しずれたものが大きな数字だとかいうのである。
話し合いの中では、「次の工事は必ず譲るから」などという口約束をして工事を受注することがある。この「次の工事」という表現が実に都合のよい表現である。次の工事は必ずお譲りしますという約束をした直後に相手の継続工事が発注になったりすれば、お約束通り恭しくお譲りすればいいのである。
運悪く次の工事も自分の継続工事だった場合には、継続工事までお譲りするなどという約束はしていないといって突っぱねるのである。継続工事まで寄こせというのなら、アンタも自分の継続工事を手放しますかと言って開き直るのである。
こちらにとって都合の悪い相手が受注を希望している工事へ気脈を通じた別の業者に立候補してもらうこともあった。これを「化粧立ち」というのだが、相手に恩を売りながら気脈を通じた別の業者には手ごろなタイミングで降りてもらうのである。
こうして私が16年前に足を洗った談合の世界を振り返ってみると、「ある一定の目途が立ったら次の世代に引き継ぐ」とか、あれこれの法案が成立したら辞めるとか、辞めないとか、曖昧なことを言い続けてちっとも辞めようとしないばかりか、なおも政権の座に留まろうと画策する菅首相の論法は田舎土建業者の談合の言質とあまり変わらないのではないかと思う次第である。