以前ブログでも取り上げた,スタジオジブリの最新作『コクリコ坂から』について,朝日新聞の文化欄に,新たな視点からのコメントが掲載されていました。なるほどとうなずける内容でしたので,次に紹介します。
コメントは,「高校生の海と俊の初々しい恋が主軸だが,2人の亡き父の青春時代を絡めた 物語からは「父から子への継承」というテーマも浮かび上がる。」と指摘しています。以下,原文を引用します。
…… 海と俊たちは,文化系クラブの巣窟となっている古い建物「カルチェラタン」取り壊しに反対し,大掃除して高校の徳丸理事長に見せる。原作のマンガにはない,映画オリジナルの展開だ。徳丸のモデルはジブリ創設者で,故人の徳間書店元社長:徳間康快氏。建物の玄関近くには「 志 雲より高く 」という垂れ幕が見える。これはジブリの前に立つ,徳間の記した碑文と同じだ。徳丸は建物を再生させた若者たちをたたえ,存続を認める。まるでジブリ創設者に「受け継いで頑張れよ」と言わせたようなものでは?苦難を乗り越えた海と俊の恋を,終幕で父の旧友が父になりかわり祝福する。帰らぬ人を思い続けたヒロインの心も,父から子の世代へと受け渡されていくのだ。
父:宮崎駿がノータッチだった吾朗の初監督作「ゲド戦記」と違い,本作は「カルチェラタン」のデザインなどで父のアイデアを採り入れたという。父から子へ,何がどう受け継がれたのか。作品はそんな楽しみも用意してくれている。 ……
古き良きものの継承。カルチェラタンという建物の存続は,目に見える物の存続です。高校生たちはそれを大掃除し,新たな命を与え再生させます。継承とは,存続を願うことから出発し,それに新たな命を吹き込む行為とも言えるのだと思います。
「志 雲より高く」は,継承しさらにそれを発展させていくための原動力となる,目には見えないけれども,最も大切にしたい心のもち方なのだと思います。その思いで,宮崎駿さんはジブリをつくり,たくさんの作品を誕生させてきたのではないかと思います。そして,今回の作品づくりを親子で進める中で,「志 雲より高く」という熱い思いとジブリの継承・発展とを,息子の吾朗さんに託したのではないかと思いました。
海と俊の父親たちは,戦争という状況の中でもお互いに相手を心から気遣い支え合う友情を育てます。父の帰りを待ち続け旗を揚げ続ける海の思いは,決して変わることのない父への深い愛です。その旗を見た俊は,海に惹かれ,恋するようになります。海は,俊のことを,父が自分の代わりに連れてきた人だと思います。
一途に相手を想い慕い続けるハートは,亡き父親たちから受け継いだものなのだと思います。
また,もう一度映画を見たくなりました。今の時代に失われているもの,今の自分が忘れているものを取り戻しに行くのには,最高の映画ですから……。