最近読んだ本の中から、印象に残った本を2冊紹介します。
1 霧笛荘夜話<むてきそうやわ> 浅田次郎著 角川文庫
表紙裏に「~比類ない優しさに満ちた心を溶かす7つの物語」という解説があり、それに引き込まれて購入し読んでみました。運河のほとりにある古びたアパート霧笛荘で暮らす七人がそれぞれの物語の主人公となる短編集です。
死のうとした隣人を助け、自ら死を選んだ女。裕福な暮らしとかわいい子供までありながら、霧笛荘にやってきてその人生を終えてしまいます。特攻隊員でありながら、出撃できずに終戦を迎えた男。遺書を書いて送った女性がそのことを知らずに自らの命を断ってしまいます。男はその重荷を背負って生きていくことになります。
それぞれが哀しい過去をもちながらも、心の内に人間として大切なものを持ち続けています。生と死を通して、人の優しさと共に人生の悲哀も感じさせ、切なく心にじんわりと浸みこんで来る物語です。
2 妻はくノ一 10巻:濤<なみ>の彼方 風野真知雄著 角川文庫
シリーズもこの巻で完結しました。主人公の雙<ふた>星彦馬と織江。七夕の夜にしか会うことのできない彦星と織姫星のように、お互いに相手を慕いながらも再会の機会を果たせない状態が続いています。
彦馬と織江は、かって夫婦として一緒に暮らしたことがありました。織江は隠密の任務のために夫婦となったのですが、彦馬を慕うようになり、彦馬も織江のことを心から慕うようになります。しかし織江は新たな任務を命ぜられ彦馬のもとを去ります。彦馬は織江のことが忘れられず、そのあとを追って、江戸に出ます。
織江はそのことを知り、組織を抜けて彦馬と一緒になることを決意するのですが、組織総出で追われる立場になります。織江と組織との暗闘が続きますが、二人のお互いを慕う気持ちは変わりません。
今回、彦馬は 主君の松浦貞山公から 幕府の目をくぐりぬけ 異国を巡る船旅に出ることを命ぜられます。貞山公には、彦馬と織江が一緒に船に乗って国外に逃げてほしいという願いもあったのです。じつは織江の父親が、貞山公でもあったのです。
彦馬と織江の お互いに相手のことを気遣い 会いたくても会うことのできない 苦しく切ない思いが シリーズ全体を貫いている物語でもありましたので、今回の結末を 感動と共に読み終えることができました。
時代小説としては、ちょっと異風で、おとぎ話のような物語でした。