ここは東京の下町、古くから続く長屋の一角。
井戸端で、熊さんと八つぁんの2人が「お笑い芸人のDTのM氏が、瓦版屋の『文春』に報じられて、芸能活動をストップしている件」を話題にしているところに、長屋の知恵袋、ご隠居さんが通りかかります。
ご隠居「この話題は、結構複雑な2つのテーマを抱えているのさ。第1のテーマは『優越的地位の濫用』。そして、第2のテーマは『後出しジャンケン』だ。まずは『優越的地位の濫用』について話をしましょうか」
八「お願いしやす。オイラ、オツムが弱いから難しい言葉が分からなくて・・」
ご隠居「『優越的地位の濫用』というのは、絶対的に優位な立場にいる人間が、その地位を使って好き勝手な行為をすることを言う。これは、とても卑怯なことと看做される。ちなみに、DTのM氏はお笑い界のトップに君臨する人物だから、地上波TV局のほか、芸能界全般に対しても大きな力を持っている人物と言って良い。したがって、芸能界に入りたいと思っている若い女性からは、何とか良いコネを作りたい相手。知り合いになるだけでも、今後の芸能界入りの活動に有利になると期待が膨らむ相手でしょう」
熊「オレは板前だから、もしも有名な料理人の親方に会えるのならば、その飲み会に参加すると思う。もし仲良くなれれば、上客を紹介してもらえるかもしれないし」
ご隠居「そうだよね。だから、こういう飲み会が開催されること自体は問題ないし、どんな世界だって普通にあること。問題はそのあとだ。もしも、DTのM氏が、芸能界における『優越的地位を濫用』して、「オレと肉体関係を持てば、君をTV局の有名プロデューサーに紹介してあげる」とか「映画出演を実現してあげる」とか甘い言葉で誘って、実際に関係を結んでいたとすると、これはもう真っ黒。典型的な『優越的地位の濫用』であり、法律違反でなくても、人間としても、芸能界のトップに立つ人物としても、アウト!と非難されても仕方ないと思います」
八「ちょっと待って。オイラは大工だけど、もし親方から「浅草の五重塔の修復工事がある。危険だが報酬は高い。やるか?」と言われたら、オイラは高いところが怖いから断るけど・・。こんな話をされても、私は嫌だと断れば良いと思う」
ご隠居「八つぁん、良いところを突いてくるね。そうなんだ。嫌ならば断われば良い。特にドンチャン騒ぎをやっている最中に、若い女性を口説きまくるオトコなど、その辺に山ほど存在する。そんな口説き文句には、プイと横を向けば済むことなんだ。さきほど言ったとおりだとすると、まずはDTのM氏は真っ黒ではあるけれども、ねんごろになった女性の方も、当然に何かを期待したうえで合意の行為だったはず。むしろ、文句や不満があるとすれば、M氏が約束したことを守らなかったか、無視したか」
熊「オレも若い男だから、おねえちゃんを口説く時にいい加減なことを言うことはあるけど、まず相手にされない。相手にされないから、また適当な事を言う。そんなことは山ほど経験したなぁ」
ご隠居「もう一つ。DTのM氏は芸能界のトップの人物だから、さっき言ったような、言質を取られるような発言をするとは思えない。『文春』にもそういう記事は出ていない。むしろ「オレの子供を生んでくれ」とか、ギャグとしか思えないような発言のみが報じられている。そんな馬鹿げた口説き文句に、嫌だと思ってるのに、応じる女性が果たしているだろうか?」
八「何だか、単なるドンチャン騒ぎの果ての痴話話に思えてきた。夏祭りの夜とか、リオのカーニバルの夜とかの痴話話と同じ」
熊「普通に考えれば、ドンチャン騒ぎの中で、大人同士が合意の上で致した行為に思えます。でもなぜ、そんなドンチャン騒ぎの痴話話が、9年も経った今、出てきたんだろう?」
その熊さんの言葉を聞いて、扇子でパンと掌を叩き、ご隠居さんはこう話し始めました。
ご隠居「さて、そろそろ第2のテーマ『後出しジャンケン』を話題にしましょうかね。9年も経っているからこそ、こういう話は出やすいとも言える。9年前ならば『合意』であっても、関係が冷めきった9年後ならば、それぞれが置かれた状況によって、こうした「秘め事」のリスクの大きさが異なってくるのさ」
<続く>