海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

米軍犯罪と基地利権

2008-03-01 17:33:33 | 米軍・自衛隊・基地問題
 昨日の夜、テレビを見ながら新聞切り抜きをやっていたら、北谷町で起こった性暴力事件の犯人の海兵隊員が釈放された、というテロップが流れた。被害者が告訴を取り消したため、不起訴処分となったという。
 今朝の琉球新報には、被害者側が告訴を取り下げた理由について、那覇地検の検事正による「(少女が)『そっとしておいてほしい』と思っている」という説明が載っている。琉球新報には、告訴を取り下げた背景に、マスコミによる取材によって精神的に追いつめられたことも挙げられている。私も今回の事件について新聞に文章を書いて発表しているので、被害者を追いつめた一面を考えずにおられない。ただ、性暴力事件について書くこと自体にともなう暴力性とは別に、今回の事件については、被害者を追いつめようという動きが意図的に作られていなかったかどうか、目を向ける必要があると思う。
 被害者の「自己責任」「落ち度」を強調することで、事件の社会的背景(沖縄への米軍基地の集中化)や軍隊の持つ暴力性を押し隠す。そして、加害者ではなく被害者をバッシングすることで、被害者の声を圧殺していく。その構造は小泉政権下で起こったイラクでの人質事件を思わせる。そこで行われた手法をまねた確信犯は、『週刊新潮』だけでなくネット空間にもいただろう。彼らは今頃ほくそ笑んでいるのではないか。そして、今回の事件は被害者の虚言であり、沖縄のマスコミが過大報道をした、という次の煽りを始めようとしているのではないか。そのことに注意しなければならないと思う。
 言うまでもなく、被害者が告訴を取り下げたからといって問題は終わりではない。告訴が取り下げられたこと自体が、類似事件が他にも多く社会的に隠されていることを示唆しているし、被害者が泣き寝入りを強いられる構造があることの表れである。被害者が告訴を取り下げることによってしか自分の身を守ることができないなら、その社会はどういった社会だろうか。米軍の専用施設の七五パーセントが沖縄に集中しているという現実とともに、被害者が沈黙を強いられる今の沖縄・日本の社会構造の問題が問われなければならない。

 これから県民大会が行われるにしても、幅広い県民を集めるということで、辺野古や高江への基地建設問題や米軍再編と自衛隊強化の問題などを棚上げにするのなら、どれだけの意味があるだろうか。一九九五年の十・二一県民大会のあと、それまでの基地撤去運動が基地の「整理・縮小」運動に矮小化され、日米安保条約の問題も棚上げされていったことを忘れてはならない。高江や辺野古への基地建設を進めている仲井真知事を引っ張り出して挨拶させても、それは問題の本質を隠蔽するマイナスの効果しか果たさない。米軍や日本政府を糾弾するだけでなく、沖縄の内において基地の存続を図り、「基地利権」に群がっている者達の実態を暴きだし、批判していくことも重要である。
 今朝の琉球新報二面に次のような記事が載っている。名護市が公共事業の入札事務を企画総務部行政改革推進室に一元化する改革案を、市議会三月定例会に提案するというものだ。一元化する理由は、実は辺野古の基地問題ともからんでいる。同記事にはこうある。
 〈名護市発注の公共工事で、事前に公表されない最低限価格とほぼ同じ金額で落札された事業が相次いで発覚し、十二月定例会で問題化。行政改革推進室は「議会から、入札事務は適切なのかなどの指摘があったため、今回の提案につながった」と話した〉
 つまりは、これまでの入札事務が不適切であったことを、名護市当局が認めたということだ。ここでいわれている名護市の公共事業とは、辺野古への基地建設を進めるためにばらまかれている北部振興策に関連するものも含まれている。現在『週刊金曜日』で連載されている「官製談合」「基地利権」問題にも当然からんでいる。「事前に公表されない最低限価格」を行政内部の誰かが漏らしたのか、つまり「官製談合」があったのか、あるいはわざと「最低限価格」が分かりやすいようにしてあるのか、最低限価格でも受注者が利益を上げられるように水増しは行われていないか、など、そこには多くの問題が隠されている。
 そういった問題を曖昧にして入札事務の一元化を図ろうとするのは、議会での追及と沖縄タイムスや週刊誌の報道に慌てて、名護市当局が火消しに懸命になっているようにしか見えない。名護市の「官製談合」問題は、辺野古への基地建設や米軍再編に直結する重要な問題である。『週刊金曜日』がいう「基地マフィア」の跳梁跋扈を許していることが、基地被害を繰り返させる大きな要因なのだ。基地被害をさらに拡大しないためにも、この問題は徹底的に追及し、暴いていく必要がある。名護市議会やマスコミの責任は大きい。

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