「ちかごろ、市中見廻りに出ていると、一目で悪者どもの顔がわかるようになった。・・・・・・・一口に盗賊と申しても、困窮の挙句に切羽つまって盗みをはたらく輩(やから)をすべて御縄にかけていては、いまの時世から申して、それこそ捕えきれまい。
のう、小沼。善のみの人間なんぞ、この世に在るはずもない。わしとて同様じゃ。悪と善が支え合い、ともかく釣り合いがとれておれば、先ずよしとせねばならぬが今の世の中じゃ。なれど、これは、そのほうのみに申すことよ。他人へ漏らしてはなるまいぞ」
と、同小説の主人公・徳山五兵衛秀栄(とくのやま ごへいひでいえ)が、晩年になって二度目のお勤めである火付盗賊改方の長官に就任して、大盗賊・日本左衛門只吉一味を壊滅した後に若党(武家奉公人)の小沼治作に漏らした言葉である。
ところが、この心境は、池波小説に一貫して流れている著者のものの考え方であり、この小説の後段にもそれがまさに前述のように書き込まれていた。
その心境とは、「人は善をなして悪をなす。悪事をなしながら善をなす」とのこと・・・。
今年の秋ごろ、書店に出向いた際に「堀部安兵衛」(池波正太郎著)が目に留まり、購入し上下巻を夢中になって読んでいた。高田の馬場での討ち入りに助太刀をして名を馳せ、堀部家に請われて養子となり、最後は赤穂義士として散って逝った・・・程度の知識であった。
ところが、この小説を読むことで、安兵衛の少年期から浅野家家来になり、亡くなるまでの様々な人との出会いと人間成長の物語に感銘を受けたものである。
その安兵衛が若い頃関わりを持った二千二百四十石の大身旗本・徳山(重俊)家、その徳山家の子息・徳山五兵衛を主人公とした小説が、「おとこの秘図」(上・中・下)であると、後日知ったもので早速、書店で求めるも見当たらなかった・・・そこで、得意のAmazonで購入。
この小説の表紙の挿し絵には、何か艶めかしい雰囲気の絵が描かれており、単なる官能小説なのかと不審に思いながら読み進めたが、池波小説の神髄がキッチリと書き込まれており、厭らしさの全くないいつもの読み応えのある小説であった・・・安心、安心
ただ、いつもながら多くの個性的な登場人物や得体のしれない人物なども交錯しており、いつもながら、それぞれの人物描写がキッチリと書き分けられている。そのため、いつの間にか下巻へと導かれ、容易に上・中・下巻を読み終えることができた・・・今一度、読み返す魔力に包まれている。
その主人公・五兵衛(幼名・権十郎)は、妾腹の子であるがゆえに父に疎まれながら育っていた。権十郎の実母は、権十郎を産み落とすとこの世を去ったので、徳山家用人・柴田宗兵衛の娘・千が乳母(うば)となり育てることとなった。
権十郎 僅か五歳の幼名の頃、徳山家に関わりのあった中山(堀部)安兵衛が高田馬場で助太刀をする決闘の場へ、宗兵衛・千(乳母)父娘に連れられて行って安兵衛の働きぶりを瞼に焼き付けた。この小説では、高田馬場の決闘シーンが第三者の目から描かれており、小説「堀部安兵衛」と読み比べれば・・・さらに面白い。
14歳に成長した権十郎は、ある時安兵衛と出会い剣術使いとしての生き方の感銘を受ける。そして、赤穂藩士となった安兵衛が主君の仇討に加わり、見事本懐を遂げてこの世を去るがその生きざまに触れ、剣の修行に没頭して行った。その後、父との折り合いが悪くなっていたおり、徳山家の嫡男が死去する。
父は妾腹の子であるがゆえに、廃嫡を目論むなど様々な工作をすることで、18歳になった権十郎は剣の道に生きようと家出をする。
浪人剣客・佐和口忠蔵を慕って大阪に向かうが、通行手形のない権十郎は、旅の途中で暴漢に襲われ困っていた父娘を助ける。それが切っ掛けで、様々な奇妙な人たちに出会い、それらの手助けで京へ辿り着き、その後、お梶という女性と出会う。
その数年後、父・徳山重俊の病が重くなり用人・柴田宗兵衛などの取り成しで家督を継ぐように殿である徳山重俊を説得する傍ら、権十郎を江戸へ帰還させるよう懸命に努力する。
その結果、権十郎改め徳山五兵衛は、若党(武家奉公人)の小沼治作の命を張った懇願により江戸へ帰り、何とか無事に家督を継ぐこととなったが父は病没する。その後、大身旗本・藤枝若狭守の次女・勢以と結婚し、旗本御家人としての退屈な日々の中、京の女・お梶からもらった秘図を眺め、自らも家来に内緒に秘図を描くことを密かな楽しみにする。
その後、五兵衛は、八代将軍・吉宗を助ける隠密の行動をするようになり、思いもよらない波乱に満ちた人生を送る・・・。
この小説は、主人公である五兵衛秀栄が晩年に回想しながら、波瀾万丈であった自らの生き様が語られるように描かれている。
なお、今回のあらすじの一部が、Amazonの「おとこの秘図(上)」のカスタマーレビューにも掲載されているので、ご覧いただければ・・・と、思っています。(夫)
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のう、小沼。善のみの人間なんぞ、この世に在るはずもない。わしとて同様じゃ。悪と善が支え合い、ともかく釣り合いがとれておれば、先ずよしとせねばならぬが今の世の中じゃ。なれど、これは、そのほうのみに申すことよ。他人へ漏らしてはなるまいぞ」
と、同小説の主人公・徳山五兵衛秀栄(とくのやま ごへいひでいえ)が、晩年になって二度目のお勤めである火付盗賊改方の長官に就任して、大盗賊・日本左衛門只吉一味を壊滅した後に若党(武家奉公人)の小沼治作に漏らした言葉である。
ところが、この心境は、池波小説に一貫して流れている著者のものの考え方であり、この小説の後段にもそれがまさに前述のように書き込まれていた。
その心境とは、「人は善をなして悪をなす。悪事をなしながら善をなす」とのこと・・・。
今年の秋ごろ、書店に出向いた際に「堀部安兵衛」(池波正太郎著)が目に留まり、購入し上下巻を夢中になって読んでいた。高田の馬場での討ち入りに助太刀をして名を馳せ、堀部家に請われて養子となり、最後は赤穂義士として散って逝った・・・程度の知識であった。
ところが、この小説を読むことで、安兵衛の少年期から浅野家家来になり、亡くなるまでの様々な人との出会いと人間成長の物語に感銘を受けたものである。
その安兵衛が若い頃関わりを持った二千二百四十石の大身旗本・徳山(重俊)家、その徳山家の子息・徳山五兵衛を主人公とした小説が、「おとこの秘図」(上・中・下)であると、後日知ったもので早速、書店で求めるも見当たらなかった・・・そこで、得意のAmazonで購入。
この小説の表紙の挿し絵には、何か艶めかしい雰囲気の絵が描かれており、単なる官能小説なのかと不審に思いながら読み進めたが、池波小説の神髄がキッチリと書き込まれており、厭らしさの全くないいつもの読み応えのある小説であった・・・安心、安心
ただ、いつもながら多くの個性的な登場人物や得体のしれない人物なども交錯しており、いつもながら、それぞれの人物描写がキッチリと書き分けられている。そのため、いつの間にか下巻へと導かれ、容易に上・中・下巻を読み終えることができた・・・今一度、読み返す魔力に包まれている。
その主人公・五兵衛(幼名・権十郎)は、妾腹の子であるがゆえに父に疎まれながら育っていた。権十郎の実母は、権十郎を産み落とすとこの世を去ったので、徳山家用人・柴田宗兵衛の娘・千が乳母(うば)となり育てることとなった。
権十郎 僅か五歳の幼名の頃、徳山家に関わりのあった中山(堀部)安兵衛が高田馬場で助太刀をする決闘の場へ、宗兵衛・千(乳母)父娘に連れられて行って安兵衛の働きぶりを瞼に焼き付けた。この小説では、高田馬場の決闘シーンが第三者の目から描かれており、小説「堀部安兵衛」と読み比べれば・・・さらに面白い。
14歳に成長した権十郎は、ある時安兵衛と出会い剣術使いとしての生き方の感銘を受ける。そして、赤穂藩士となった安兵衛が主君の仇討に加わり、見事本懐を遂げてこの世を去るがその生きざまに触れ、剣の修行に没頭して行った。その後、父との折り合いが悪くなっていたおり、徳山家の嫡男が死去する。
父は妾腹の子であるがゆえに、廃嫡を目論むなど様々な工作をすることで、18歳になった権十郎は剣の道に生きようと家出をする。
浪人剣客・佐和口忠蔵を慕って大阪に向かうが、通行手形のない権十郎は、旅の途中で暴漢に襲われ困っていた父娘を助ける。それが切っ掛けで、様々な奇妙な人たちに出会い、それらの手助けで京へ辿り着き、その後、お梶という女性と出会う。
その数年後、父・徳山重俊の病が重くなり用人・柴田宗兵衛などの取り成しで家督を継ぐように殿である徳山重俊を説得する傍ら、権十郎を江戸へ帰還させるよう懸命に努力する。
その結果、権十郎改め徳山五兵衛は、若党(武家奉公人)の小沼治作の命を張った懇願により江戸へ帰り、何とか無事に家督を継ぐこととなったが父は病没する。その後、大身旗本・藤枝若狭守の次女・勢以と結婚し、旗本御家人としての退屈な日々の中、京の女・お梶からもらった秘図を眺め、自らも家来に内緒に秘図を描くことを密かな楽しみにする。
その後、五兵衛は、八代将軍・吉宗を助ける隠密の行動をするようになり、思いもよらない波乱に満ちた人生を送る・・・。
この小説は、主人公である五兵衛秀栄が晩年に回想しながら、波瀾万丈であった自らの生き様が語られるように描かれている。
なお、今回のあらすじの一部が、Amazonの「おとこの秘図(上)」のカスタマーレビューにも掲載されているので、ご覧いただければ・・・と、思っています。(夫)
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