芥川賞を受賞した作品です。
コンビニという極めて今日的な場所でしか生きられない、三十代の独身女性を描いた作品です。
この作品を通常のリアリズム作品として読むと、発育段階から明らかに精神に障害があるように描かれているので、なぜ周囲の人間が適切な治療をうけさせるなり保護するなりしないか、読者は不思議に思えるでしょう。
実際のこの作品は通常のリアリズム作品ではなく、主人公をコンビニだけで生きるという特殊な状況においてデフォルメすることによって、現代の同世代の多数の人間たちの状況に迫っています。
「コンビニ」を「会社」に置き換えれば、多くの若い世代、特に経済的理由で結婚できない非正規雇用の人たちに当てはまるでしょう。
主人公も彼女が途中で自宅で「飼う」三十代の独身男性も、一般的な見方では社会不適合者なのですが、程度の差こそあれ「自分は社会に適合していない」という感覚を持つ若い世代の人々は多数いることでしょう。
そして、彼らは、主人公の「コンビニ」のような適合できる場所を求めています。
ただし、この作品では、この二人をこれもまたデフォルメされた社会適合者たちの群れで囲むことによって、両者の差異を強調していますが、実際には「社会不適合者」はずっと多く、それなりにコミュニティを形成していると思われます。
もうひとつのこの作品の特長は、コンビニのシーンが異常なほどリアリティがある点です。
作者は実際に今でもコンビニでアルバイトをしているそうなので、その経験が十二分にいかされています。
かつての津村記久子の作品群と同じように、この作品を優れたワーキング小説として読むこともできます。
この作品は、芥川賞を受賞することにより多くの読者を得ることになるでしょう。
「火花」と違って、このような純文学作品が読まれること自体は、決して悪いことではありません。
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