伯父の家は、マイルエンドの大通りから一歩入ったスッテプニー・グリーンにあった。すぐそばに、イーストエンドのゴミ溜めには似合わない、美しい樹木に満ちた散策路があり、その外れに残った古い二階建てのテラスハウスだった。十七軒並んだ家の一番端で、十七番という番号がついていた。・・・・・・道路ひとつ隔てた斜め向かいのフラットの三階を見ると、まだ明かりがついていた。ピアノは聞こえない。シンクレア教授はもうナイトキャップの時間だ。午後十一時だった。・・・・・・
二度目に表へ出たとき、斜め向かいのフラットの、三階の窓が開いていた。どういうわけか、スッテプニー・グリーンの散策路沿いだけ、どっしりとした上等のフラットが並んでいるのだが、斜め向かいにある石造りの五階建てのそれには、ダンスタン・ハウスという名前がついている。その北の端の三階の窓だった。そこからノーマン・シンクレアが、ウォッカのグラスを片手に手招きをした。上がって来い、という合図だった。ジャックは持ち出した道具を物置に入れ、代わりに中古のボクシング・グラブを一揃持って、そっと道路を渡った。
(高村薫 『リヴィエラを撃て』より)
地下鉄Stepney Green駅
「マイルエンドの大通り」(Mile End Road)
「大通りから一歩入ったスッテプニー・グリーン」の道路標識
スッテプニー・グリーンと散策路。
赤矢印:ジャックの家(テラスハウス 17番)
緑矢印:シンクレアの家(ダンスタン・ハウス)
ダンスタン・ハウス全景
リヴィエラファンとしては、この場所はおさえておかねばなりますまい。
そしてどうせなら小説と同じ2月に行ってみたい。
というわけで、行ってきましたスッテプニー・グリーン。
Zone2で定期券の範囲内なので、中心地からも簡単に行けます。
ダンスタンハウスも駅から徒歩数分ですし。
私は土曜日にペチコートレーンマーケットへ行った後に時間があまったので行ってみました(ペチコートレーンについてはまた後日)。
マイルエンドにしても、スッテプニーグリーンにしても、小説に描かれているとおりの景色が広がっています。
しかし「美しい散策路」などとはいっても、やはりここはイーストエンド・・・。
私が住むロンドン北西部とは、全然雰囲気がちがう・・・。
これでもだいぶ再開発されたと聞いているので、高村さんがここを訪れた頃などはよほど荒んでいたのではないでしょうか。
友達もこの付近に住んでいるし、フラットの値段も安いし、中心地に出やすいし、この辺に引っ越すのもアリかな~と下見を兼ねて来たのですが、うーん、やっぱり遠慮しておきます・・・。
なんかねぇ、目的もなくフラフラしているような人達が沢山いるんですよ・・・。こういう人達は怖い。昼間なら構わないけれど、夜遅くにはとても帰れないよ・・・。
ここ数年は若手アーティストの多く住む注目の地域とのことで面白いことも多いのでしょうが(友達もそう言っていた)、貧しい地域がもつ独特の暗さってあるんですよね。。こういうのは日本ではあまり感じないけれど、アメリカ南部にいた頃もよく感じました。
でね、写真を撮っていたら、遠くにいる黒人のおばさんにすごい剣幕で「あなた!なんで写真を撮ってるの?!!」と怒鳴られたのですよ・・・・・。
咄嗟に「心配しないで!怪しいものじゃありません。このあたりに引っ越してきたいなぁと考えていて、下見に来ているだけなんです。写真もそのためです。この辺、日本人も多く住んでるからいいなと思って」と言ったら、おばちゃん、途端に笑顔になり「あらそうなの。もう、写真をパチパチ撮ってるから何なのかしらって思っちゃったわ~!」と。「sorry~」と謝ったら、「全然いいわよ~」と。
はぁ・・・・・・。
よかったよぉ~、最低でもこれだけ言える英語力があって(T T)・・・。
もしあそこでまともな答えを返せていなかったら、確実に通報されてたよあたし(><)。
たしかに結構怪しいかもしれないけど、それでも人間じゃなくて公の場所の写真を撮ってただけで怒鳴られたのなんて初めてですよ!
まぁ普段は忘れがちだけれど、ロンドンは紛れもなくテロの標的になってる街ですしね・・・。
しかし写真を撮っているだけでも警戒しなきゃならないような地域は、やっぱり住みたくはないわ・・・。
さて、本題。
ジャックの家も、散策路も、シンクレアの家も、小説に描かれているとおりにそのまんまあります。
違うところといえば、ジャックの家のドアにはたしかに「17番」と書かれてあるけれど、17軒並んだ家の一番端ではなく、10軒くらい並んだ家の一番端ということくらいかな(17というのは単に17番地という意味)。
ダンスタンハウスは、この通りの中では高級感があるけれど、すごい高級!って感じではないです。こういうヴィクトリア朝の建物はロンドンでは珍しくないですし。でも超高級っていう感じよりもこれくらいの方が、らしくていい。
いずれにしても、ここまで本どおりの景色が見られるとは思っていなかったので、感動しました。街のガラの悪さも、そのまんま(笑)。
ちなみにこのダンスタンハウス。よく売りに出ているので、yahoo.ukなどで「Dunstan Houses, Stepney green」という感じで検索をかけると、不動産会社のサイトから内部の写真を見ることができますよ~^^。
さすがにここからリンクは貼りませんが、興味のある方は試してみてくださいね。
★ステップニー・グリーン:ジャックとシンクレアの家がある通り。地下鉄District lineのStepney Green駅下車。駅前のMile End RoadをWhite Chapel方面へ数分進んだ左手。