しかし漢方専門家により、薬の使い方が微妙に異なることは多々あります。
今回は以下の書籍の、同じ項目について3つを比較して、共通するポイントをあぶり出してみたいと思います。
③ フローチャートコロナ後遺症漢方薬(高尾昌樹、新見政則、和田健太朗、新興医学出版社、2022年発行)
全体を眺めた印象では、
亜急性期 → 柴胡剤
慢性期 → 補剤
というラインナップですね。
<味覚・嗅覚障害>
① 平畑先生
(陰証)当帰芍薬散
② 渡辺賢治先生
(発症後2ヶ月まで)葛根湯/葛根湯加川芎辛夷、
麻黄附子細辛湯(2週間以上継続では桂枝湯と併用:桂姜棗草黄辛附湯)、
小柴胡湯/小柴胡湯加桔梗石膏、柴胡桂枝湯
(発症後2ヶ月以降)補中益気湯、十全大補湯、四君子湯/六君子湯、
(発症後2ヶ月以降)補中益気湯、十全大補湯、四君子湯/六君子湯、
柴胡加竜骨牡蛎湯/桂枝加竜骨牡蛎湯、加味逍遥散、当帰芍薬散
③ 和田健太朗先生
(味覚障害)麦門冬湯、香蘇散、小柴胡湯加桔梗石膏
(嗅覚障害)当帰芍薬散、人参養栄湯、加味帰脾湯
・・・3者で共通するエキス剤は、なんと当帰芍薬散1つのみです。
これほど異なるとは思いませんでした。
①+②+③:当帰芍薬散
②+③:小柴胡湯加桔梗石膏
<咳・呼吸困難>
① 平畑先生
(陽証)柴朴湯、柴陥湯
(陰証)半夏厚朴湯、当帰湯、六君子湯
② 渡辺賢治先生
(急性期・亜急性期)小柴胡湯、柴胡桂枝湯
(亜急性期・慢性期)麦門冬湯、麻杏薏甘湯、清肺湯、竹筎温胆湯
+全身状態(疲労倦怠、体重減少、筋量の低下)を評価して補剤を追加。
補中益気湯、十全大補湯、人参栄養湯
(慢性期)補中益気湯、人参養栄湯、四君子湯/六君子湯
+麦門冬湯、清肺湯
(亜急性期・慢性期)麦門冬湯、麻杏薏甘湯、清肺湯、竹筎温胆湯
+全身状態(疲労倦怠、体重減少、筋量の低下)を評価して補剤を追加。
補中益気湯、十全大補湯、人参栄養湯
(慢性期)補中益気湯、人参養栄湯、四君子湯/六君子湯
+麦門冬湯、清肺湯
③ 和田健太朗先生
(咳)麦門冬湯+柴胡桂枝湯(or 麻杏甘石湯)、
滋陰降火湯+竹茹温胆湯(or 清肺湯)、人参養栄湯
(呼吸困難)半夏厚朴湯、柴朴湯
・・・咳と呼吸困難に関しては、なんと3者共通のエキス剤はゼロです。
驚きました。
初学者が混乱するから、ある程度統一してほしいものです。
①+③:柴朴湯、半夏厚朴湯
②+③:麦門冬湯、清肺湯、人参養栄湯
<倦怠感・ブレインフォグ>
① 平畑先生
(倦怠感)
・陽証の場合は、柴胡剤+駆瘀血剤が基本
(陽証:柴胡剤)大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、四逆散、柴朴湯、柴陥湯、
柴苓湯、抑肝散、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯、加味帰脾湯、抑肝散加陳皮半夏
(陽証:駆瘀血剤)桃核承気湯、桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸加薏苡仁、
大黄牡丹皮湯、腸癰湯、疎経活血湯、当帰芍薬散
(陽証:柴胡含有駆瘀血剤)加味逍遙散:
(陰証)十全大補湯、人参養栄湯
(ブレインフォグ)
(陽証)温清飲
(陰証)四物湯、人参養栄湯
② 渡辺賢治先生
(倦怠感)補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯
(自律神経異常:腹部動悸)柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏
(自律神経異常:腹部動悸)柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏
③ 新見正則先生
補中益気湯、人参養栄湯、加味帰脾湯
・・・倦怠感については、まあ一般的にもよくある症状のためか、
3者共通のエキス剤が存在しました。
①+②+③:人参養栄湯
①+②:十全大補湯
①+③:加味帰脾湯
②+③:補中益気湯
以上、3名の漢方専門医が long-covid に対して使用している漢方薬を比較してみましたが、
これほどバラバラであるとは思ってもいませんでした。
まず、選択するポイントが異なります。
① 平畑先生は陰陽を重視、
② 渡辺先生は phase を重視、
③ 新見先生は順番を重視、
といった具合です。
印象的だったのは、新見正則先生が、
「どんな後遺症にも迷わず加味帰脾湯を処方すべし」
と巻頭言に書いてあったこと。
なんだか「とりあえずビール!」的な言い回し。
加味帰脾湯は“参耆剤”といって疲れを癒やす効果と、
“柴胡剤”といって炎症を抑える性質を併せ持ちます。
さらに“心の疲れ”に対しても有効で、不眠症にも用いられる方剤です。
つまり、「身も心も疲れ果てた状態」に効く漢方なのですね。