この1年、韓国書や韓国について書いた本をいろいろ読んできました。その都度内容・感想等をこまめにブログ記事にすればよかったのに、すべて怠ってきてしまいました。そこで今ヌルボなりにいくつかの項目ごとに整理して紹介します。
タイトルでは大雑把に<韓国本>としましたが、韓国人が書いたものと日本人が書いたものに大別されます。まずは前者から。
その中で、最初は<期待外れだった小説>です。一応★で評価をつけました(満点は★5つ)が、私ヌルボ自身の個人的な<期待>がうらぎられたという意味なので、小説作品としての評価とはズレがあります。
イ・ウォンホ「黎明」(「新東亜」連載) ★★
振り返ってみると、この1年で原文で読んだ長編小説はこれだけ。トホホ。本ブログでは、この小説について昨年3月(→コチラ)、9月(→コチラ)、10月(→コチラ)と、3つの記事でふれてきました。月刊誌「新東亜」の2014年3~12月号に連載されていた小説で、公式サイト(→コチラ)で全部読めます。
主人公ユン・ギチョル(29歳)は衣料品の生産・輸出を行うヨンソンという企業の社員。この企業は2003年の開城工団の生産開始から3年後れで2006年開城に現地法人を設立し操業を開始します。法人長以下韓国人社員は8人、現地(北朝鮮)の労働者は650人です。
その開城への転勤を命じられたユン・ギチョル。やむなく従いますが、その話を恋人に「1年間で2千万ウォン(←ホントはその半分)貯められる」とか「出世コースだ」とか誇張して話したものの、あっさり「別れましょ」と振られてしまいます。
で、業務課長として開城に赴任することになった彼、能力を発揮し、北側の上級幹部の信頼も得て会食に招かれたりもしますが・・・。
私ヌルボとしては、開城工団で韓国の社員が見た「北」の実態やそこの労働者との意思疎通等々、当事者でないとわからないような事実が書かれているかなと思ったのですが、その期待もせいぜいこのへんまで。
この後は本社からの呼び出しで一時的にソウルに戻ると、実は国家情報院も彼の行動等を把握していて、ギチョルの秘書役の北朝鮮美人チョン・スンミは党の指示でアンタに接近してるんだ等々の話があって、そんなこんなで南北間の裏の連絡役に相応の現金をもらってなって等々。 全10章の物語の半分にもなっていない第4章で、チョン・スンミの伯父である人民軍中将が失脚し逮捕されたため、上流階層だった彼女一家は突然転落。父母は収容所送りでスンミ自身も不安な日々に。そして第5章でスンミはギチョルに中国脱出の意思を打ち明けます。後はラストまでスンミとギチョルの脱出行。北の機関からだけでなく、北との関係悪化を恐れる南からも追われて・・・。ま、結局はハッピーエンドなんですけどね。複雑な心理描写もなくて展開が早く、スイスイ読めたので★2つつけましたが、当初の期待はうらぎられてしまいました。以前開城工団関係者でそのあたりをきっちり書いている記事があるかと思って探してみたのですが、見つからないまま今に至っています。
※関係ないですけど、ラストの場面は中国雲南省の大理。東洋のスイスとも呼ばれる標高1900mの美しい山岳都市で、大理石の名はここに由来しているとか。ビルマ方面に道が通じていて脱北者たちの脱出ルートの1つにもなっているそうです。大理の北の都市・麗江については今年初めに読んだ西本晃二先生の翻訳によるピーター・グゥラート著「忘れ去られた王国」に描かれていました。東アジアと東南アジアの境界近くのこの地方はこれまでよく知りませんでしたが、政治・風俗・文化等々なかなか興味深いものがあります。
洪盛原「されど」(本の泉社.2010) ★★★
ほとんどエンタメっぽい「黎明」に比べるとはるかに文学らしい小説。1960年代から数多くの作品を世に出している洪盛原(ホン・ソンウォン.1937~2008)が1996年に発表した<歴史認識>がらみの長編です。
主人公金亨真(キム・ヒョンジン)は元新聞記者のフリーライター。交通事故で亡くなった妻の実家の韓氏一族はソウル近郊のY郡(もしかして龍仁?)の名望家で、叔父は流通業の財閥会長。傘下に大学も抱えています。その会長が金亨真に祖父の略伝を書いてほしいと頼むのですが・・・。祖父というのは三一独立運動を主導して投獄され、その後も旧満州で抗日運動を続けた人物で、国家報勲処でも烈士として認定されている独立功労者>です。ところがおりしも、当地では韓氏とライバル関係にある徐氏の側から土地所有権に関する訴訟を起こされたり、件の<独立功労者>の「親日行為」が流されたりし始めます。徐氏の当代の祖父はというと、韓氏の側とは逆に<親日派>のレッテルを貼られている人物。
金亨真はいろんな人に会って話を聞くことになります。<独立功労者>の祖父の血を引いている日本人女性とか、中国人の農場主とか・・・。そして明らかになってきたことは、韓氏(祖父)は徐氏(祖父)をかばうため裁判で「彼は無関係だ」と証言したことがその後徐氏(祖父)が「親日派」である根拠になってしまったこと、あるいは徐氏(祖父)は満洲の韓氏(祖父)に金銭的支援をしていたこと等々。
・・・というわけで、現在<抗日烈士>とか<親日>とされていても背後にはいろいろフクザツな過去がある、ということが描かれています。また主人公が日本人たちと植民地時代の評価等をめぐって議論する場面もあります。
で、私ヌルボ、何が期待外れだったかというと、<親日><抗日>といったレッテルの<貼り方>は問題としていても、レッテルそれ自体の意味は掘り下げられていない点。また<親日派>の子孫として生まれたことの不幸を訴えるセリフはあるものの、50~70年も前の祖父の所業が現代に生きる孫の政界進出等に大きな影響を及ぼしたりしていることを疑問視していない点も疑問。
本筋以外では、日本人の語る歴史論議がややステロタイプ的なのはしかたないか?(韓国人としてはわりとがんばって植民地近代化論のような見方を書いてますが・・・。) また中国人が「韓国に来て歴史を再認識しました」と語っている内容というのが「朝鮮は中国に出自を持つ箕子朝鮮に始まるのでなく檀君が云々」とか「渤海は韓国人の国で云々」といった韓国の<公的歴史観>そのまんまなのも「なんだかなー」といった印象を受けてしまいました。
しかし、ウィキペディアの洪盛原の項目(→コチラ)の説明文にあるように「修飾語を排除し、対話と行為に対する描写が圧倒的」という文体で、イッキに読めるし、飽きさせないストーリー展開なので★3つにしました。
孫錫春「美しい家」(東方出版.2009) ★★
著者も書名も知らなかったこの本を横浜市立図書館で手にとったのは、副題に「朝鮮『労働新聞』記者の日記」とあるのが目に入ったからです。もしかして、北朝鮮で「労働新聞」の記者だった人が脱北し、韓国に来てから発表した日記かな?と思いました。著者の孫錫春(ソン・ソクチュン)という人の経歴を見ると、韓国の進歩系の代表紙「ハンギョレ」で労組委員長や論説委員等で活躍し、韓国記者賞等多くの賞を受賞している人物とのことです。
冒頭で「日記」入手のイキサツが書かれています。「愛読している記者のアナタに若い頃から書き溜めた日記を託したいので中国・延吉に来てください」という北朝鮮の老人からの電話が入り・・・云々。そして1938年4月1日その男・李真鮮が延禧専門学校(現・延世大学校)の入学手続きをした日に始まる膨大な日記を受け取るのですが、その内容は驚くべきもので・・・。以下、秘密の抗日闘争に関わっていた学生時代、南労党のメンバーとして朴憲永の下で活動していた時代、朴憲永の配慮でソ連に留学し、金日成による南労党粛清を免れて以降、金日成を経て90年代の金正日の時代に至るまで、主な出来事と、それに対する感想等が記された「日記」がそのまま掲載されている・・・のかな?と思いきや、最初の数ページも読まないうちにこれは創作だ!ということがわかっちゃいます。
延禧専門学校入学の翌5月、眠れないので寄宿舎をこっそり抜け出した時、たまたま出会った学生が3歳年長ながら同期の尹東柱だったり、その翌月にはその彼から「見てほしい」と送られてきたのが「小川を渡って森へ 峠を越えて村へ」という詩句で始まる、今はよく知られている(?)「新しい道(새로운 길)」という詩だったり、日本の中央大学哲学科に留学した時には当時同大学の法学部にいた黄長と知り合ったり、学生時代秘密組織で活動中にウワサを聞いて傾倒していた朴憲永に偶然会ったり、その他著名人士が「ありえねー」ほど都合よく登場するし、原爆投下その他のニュースも、情報統制の時代、それも智異山とかにいたりしてて「どういうルートで情報得たの?」という記述が多すぎ。後の方で「日記の中身は後から書き足しもした」とか逃げを打ってはありますが・・・。また1939年12月の金三龍事件とか京城コム・グループ事件とかいう(ヌルボの知らなかった)事件は、当時どの程度詳しく報じられたのでしょうか? 41年4月1日金日成の部隊が撲滅されたとの新聞記事(?)なんかも・・・。
この本の宣伝文句には「本書が刊行されるや、韓国では「日記」の作者李真鮮が実在するか否か、出版界、歴史学会で波紋を呼んだ問題作」とありますが、「ホンマカイナ?」といった感じ。歴史学会でこの「日記」を信じちゃった人がいるの!?
書いた本人(孫錫春)は事実とも創作とも言ってないとのことですが・・・。まあ、この翻訳書では表紙裏の著者紹介中にも「2001年に発表された著者最初の長編小説」と書いてあるし、韓国の書店サイトでもちゃんと小説分野になっているので、「看板に偽りあり!」とはならないんでしょうけどね。
とはいっても、前述のように「脱北者が書いた?」と思って読み始めたヌルボとしては肩すかし。つまりは、韓国の<進歩系>のヒトが「こういう時代だったら私はこのように生きたいな~」といった今の価値観そのままで、今イメージされている「過去」にタイムスリップしたらこうなりますという物語。ちゃんと抗日独立運動に携わり、社会主義の理想を持って祖国建設に尽力し、金日成の独裁体制が築かれていく時代にも良心と批判精神を失わず・・・。・・・といった著者(や進歩系の人たち)が歴史に投影する「夢」がおよそわかったことと、南北朝鮮の主だった出来事についてのベンキョーにはなったということで一応★2つにしました。しかし、この本を読んで「だまされた!」と怒る人もいたんじゃないかなー?
※1年後輩の恋人も実に「理想的」な女性として描かれています。恵まれた家庭の美人で賢いお嬢さんで、とくに積極的にモーションをかけたわけでもないのに好きになってくれちゃったりして(笑)。朝鮮戦争で愛児とともに爆撃を受けて死んでしまうのですが・・・。
→<最近読んだ韓国本いろいろ ②唯一感動した小説は、18年ぶりに再読した「神の杖」>
タイトルでは大雑把に<韓国本>としましたが、韓国人が書いたものと日本人が書いたものに大別されます。まずは前者から。
その中で、最初は<期待外れだった小説>です。一応★で評価をつけました(満点は★5つ)が、私ヌルボ自身の個人的な<期待>がうらぎられたという意味なので、小説作品としての評価とはズレがあります。
イ・ウォンホ「黎明」(「新東亜」連載) ★★
振り返ってみると、この1年で原文で読んだ長編小説はこれだけ。トホホ。本ブログでは、この小説について昨年3月(→コチラ)、9月(→コチラ)、10月(→コチラ)と、3つの記事でふれてきました。月刊誌「新東亜」の2014年3~12月号に連載されていた小説で、公式サイト(→コチラ)で全部読めます。
主人公ユン・ギチョル(29歳)は衣料品の生産・輸出を行うヨンソンという企業の社員。この企業は2003年の開城工団の生産開始から3年後れで2006年開城に現地法人を設立し操業を開始します。法人長以下韓国人社員は8人、現地(北朝鮮)の労働者は650人です。
その開城への転勤を命じられたユン・ギチョル。やむなく従いますが、その話を恋人に「1年間で2千万ウォン(←ホントはその半分)貯められる」とか「出世コースだ」とか誇張して話したものの、あっさり「別れましょ」と振られてしまいます。
で、業務課長として開城に赴任することになった彼、能力を発揮し、北側の上級幹部の信頼も得て会食に招かれたりもしますが・・・。
私ヌルボとしては、開城工団で韓国の社員が見た「北」の実態やそこの労働者との意思疎通等々、当事者でないとわからないような事実が書かれているかなと思ったのですが、その期待もせいぜいこのへんまで。
この後は本社からの呼び出しで一時的にソウルに戻ると、実は国家情報院も彼の行動等を把握していて、ギチョルの秘書役の北朝鮮美人チョン・スンミは党の指示でアンタに接近してるんだ等々の話があって、そんなこんなで南北間の裏の連絡役に相応の現金をもらってなって等々。 全10章の物語の半分にもなっていない第4章で、チョン・スンミの伯父である人民軍中将が失脚し逮捕されたため、上流階層だった彼女一家は突然転落。父母は収容所送りでスンミ自身も不安な日々に。そして第5章でスンミはギチョルに中国脱出の意思を打ち明けます。後はラストまでスンミとギチョルの脱出行。北の機関からだけでなく、北との関係悪化を恐れる南からも追われて・・・。ま、結局はハッピーエンドなんですけどね。複雑な心理描写もなくて展開が早く、スイスイ読めたので★2つつけましたが、当初の期待はうらぎられてしまいました。以前開城工団関係者でそのあたりをきっちり書いている記事があるかと思って探してみたのですが、見つからないまま今に至っています。
※関係ないですけど、ラストの場面は中国雲南省の大理。東洋のスイスとも呼ばれる標高1900mの美しい山岳都市で、大理石の名はここに由来しているとか。ビルマ方面に道が通じていて脱北者たちの脱出ルートの1つにもなっているそうです。大理の北の都市・麗江については今年初めに読んだ西本晃二先生の翻訳によるピーター・グゥラート著「忘れ去られた王国」に描かれていました。東アジアと東南アジアの境界近くのこの地方はこれまでよく知りませんでしたが、政治・風俗・文化等々なかなか興味深いものがあります。
洪盛原「されど」(本の泉社.2010) ★★★
ほとんどエンタメっぽい「黎明」に比べるとはるかに文学らしい小説。1960年代から数多くの作品を世に出している洪盛原(ホン・ソンウォン.1937~2008)が1996年に発表した<歴史認識>がらみの長編です。
主人公金亨真(キム・ヒョンジン)は元新聞記者のフリーライター。交通事故で亡くなった妻の実家の韓氏一族はソウル近郊のY郡(もしかして龍仁?)の名望家で、叔父は流通業の財閥会長。傘下に大学も抱えています。その会長が金亨真に祖父の略伝を書いてほしいと頼むのですが・・・。祖父というのは三一独立運動を主導して投獄され、その後も旧満州で抗日運動を続けた人物で、国家報勲処でも烈士として認定されている独立功労者>です。ところがおりしも、当地では韓氏とライバル関係にある徐氏の側から土地所有権に関する訴訟を起こされたり、件の<独立功労者>の「親日行為」が流されたりし始めます。徐氏の当代の祖父はというと、韓氏の側とは逆に<親日派>のレッテルを貼られている人物。
金亨真はいろんな人に会って話を聞くことになります。<独立功労者>の祖父の血を引いている日本人女性とか、中国人の農場主とか・・・。そして明らかになってきたことは、韓氏(祖父)は徐氏(祖父)をかばうため裁判で「彼は無関係だ」と証言したことがその後徐氏(祖父)が「親日派」である根拠になってしまったこと、あるいは徐氏(祖父)は満洲の韓氏(祖父)に金銭的支援をしていたこと等々。
・・・というわけで、現在<抗日烈士>とか<親日>とされていても背後にはいろいろフクザツな過去がある、ということが描かれています。また主人公が日本人たちと植民地時代の評価等をめぐって議論する場面もあります。
で、私ヌルボ、何が期待外れだったかというと、<親日><抗日>といったレッテルの<貼り方>は問題としていても、レッテルそれ自体の意味は掘り下げられていない点。また<親日派>の子孫として生まれたことの不幸を訴えるセリフはあるものの、50~70年も前の祖父の所業が現代に生きる孫の政界進出等に大きな影響を及ぼしたりしていることを疑問視していない点も疑問。
本筋以外では、日本人の語る歴史論議がややステロタイプ的なのはしかたないか?(韓国人としてはわりとがんばって植民地近代化論のような見方を書いてますが・・・。) また中国人が「韓国に来て歴史を再認識しました」と語っている内容というのが「朝鮮は中国に出自を持つ箕子朝鮮に始まるのでなく檀君が云々」とか「渤海は韓国人の国で云々」といった韓国の<公的歴史観>そのまんまなのも「なんだかなー」といった印象を受けてしまいました。
しかし、ウィキペディアの洪盛原の項目(→コチラ)の説明文にあるように「修飾語を排除し、対話と行為に対する描写が圧倒的」という文体で、イッキに読めるし、飽きさせないストーリー展開なので★3つにしました。
孫錫春「美しい家」(東方出版.2009) ★★
著者も書名も知らなかったこの本を横浜市立図書館で手にとったのは、副題に「朝鮮『労働新聞』記者の日記」とあるのが目に入ったからです。もしかして、北朝鮮で「労働新聞」の記者だった人が脱北し、韓国に来てから発表した日記かな?と思いました。著者の孫錫春(ソン・ソクチュン)という人の経歴を見ると、韓国の進歩系の代表紙「ハンギョレ」で労組委員長や論説委員等で活躍し、韓国記者賞等多くの賞を受賞している人物とのことです。
冒頭で「日記」入手のイキサツが書かれています。「愛読している記者のアナタに若い頃から書き溜めた日記を託したいので中国・延吉に来てください」という北朝鮮の老人からの電話が入り・・・云々。そして1938年4月1日その男・李真鮮が延禧専門学校(現・延世大学校)の入学手続きをした日に始まる膨大な日記を受け取るのですが、その内容は驚くべきもので・・・。以下、秘密の抗日闘争に関わっていた学生時代、南労党のメンバーとして朴憲永の下で活動していた時代、朴憲永の配慮でソ連に留学し、金日成による南労党粛清を免れて以降、金日成を経て90年代の金正日の時代に至るまで、主な出来事と、それに対する感想等が記された「日記」がそのまま掲載されている・・・のかな?と思いきや、最初の数ページも読まないうちにこれは創作だ!ということがわかっちゃいます。
延禧専門学校入学の翌5月、眠れないので寄宿舎をこっそり抜け出した時、たまたま出会った学生が3歳年長ながら同期の尹東柱だったり、その翌月にはその彼から「見てほしい」と送られてきたのが「小川を渡って森へ 峠を越えて村へ」という詩句で始まる、今はよく知られている(?)「新しい道(새로운 길)」という詩だったり、日本の中央大学哲学科に留学した時には当時同大学の法学部にいた黄長と知り合ったり、学生時代秘密組織で活動中にウワサを聞いて傾倒していた朴憲永に偶然会ったり、その他著名人士が「ありえねー」ほど都合よく登場するし、原爆投下その他のニュースも、情報統制の時代、それも智異山とかにいたりしてて「どういうルートで情報得たの?」という記述が多すぎ。後の方で「日記の中身は後から書き足しもした」とか逃げを打ってはありますが・・・。また1939年12月の金三龍事件とか京城コム・グループ事件とかいう(ヌルボの知らなかった)事件は、当時どの程度詳しく報じられたのでしょうか? 41年4月1日金日成の部隊が撲滅されたとの新聞記事(?)なんかも・・・。
この本の宣伝文句には「本書が刊行されるや、韓国では「日記」の作者李真鮮が実在するか否か、出版界、歴史学会で波紋を呼んだ問題作」とありますが、「ホンマカイナ?」といった感じ。歴史学会でこの「日記」を信じちゃった人がいるの!?
書いた本人(孫錫春)は事実とも創作とも言ってないとのことですが・・・。まあ、この翻訳書では表紙裏の著者紹介中にも「2001年に発表された著者最初の長編小説」と書いてあるし、韓国の書店サイトでもちゃんと小説分野になっているので、「看板に偽りあり!」とはならないんでしょうけどね。
とはいっても、前述のように「脱北者が書いた?」と思って読み始めたヌルボとしては肩すかし。つまりは、韓国の<進歩系>のヒトが「こういう時代だったら私はこのように生きたいな~」といった今の価値観そのままで、今イメージされている「過去」にタイムスリップしたらこうなりますという物語。ちゃんと抗日独立運動に携わり、社会主義の理想を持って祖国建設に尽力し、金日成の独裁体制が築かれていく時代にも良心と批判精神を失わず・・・。・・・といった著者(や進歩系の人たち)が歴史に投影する「夢」がおよそわかったことと、南北朝鮮の主だった出来事についてのベンキョーにはなったということで一応★2つにしました。しかし、この本を読んで「だまされた!」と怒る人もいたんじゃないかなー?
※1年後輩の恋人も実に「理想的」な女性として描かれています。恵まれた家庭の美人で賢いお嬢さんで、とくに積極的にモーションをかけたわけでもないのに好きになってくれちゃったりして(笑)。朝鮮戦争で愛児とともに爆撃を受けて死んでしまうのですが・・・。
→<最近読んだ韓国本いろいろ ②唯一感動した小説は、18年ぶりに再読した「神の杖」>