▶今回の記事中注目の韓国映画は独立系の「ホームレス」です。賃貸保証金詐欺に遭って行く場所を失って崖っぷちまで追い込まれた子連れの若い夫婦を通じて若い世代の住宅不足や、孤独な高齢層の問題等を扱った作品ですが、これらの社会問題は韓国だけの問題でもないでしょう。ストーリーは後掲の記事あるいは→東亜日報(日本版)の記事参照。本作のイム・スンヒョン監督は、前週紹介した「成績表のキム・ミニョン」のイ・ジェウン、イム・ジソン両監督と同じく、本作が最初の長編作品です。
また「成績表のキム・ミニョン」は前週記したように<第51回ロッテルダム国際映画祭(2022)>に公式招待されましたが、本作も前年の<第50回ロッテルダム国際映画祭(2021)>に韓国劇映画の中で唯一招待されています。(新しい部門であるハーバーセクション。)
▶上記<ロッテルダム国際映画祭>について。オランダのロッテルダムで1972年以来毎年1月末に開催されていますが、ヴェネツィア、ベルリン、カンヌの3大映画祭に比べると日本では大きく報道されることがなくあまり知られていないようです。とくに95年以降は長編のコンペ部門では上映作品を長編初監督作品か長編2作目に限っているため、新人監督の登竜門といった性格の映画祭と言っていいでしょう。また数多くのアジア映画を紹介していることも特色とされています。
その長編コンペ部門がタイガー・アワードなのですが、95年以降の韓国の受賞作は以下の5作品です。ホン・サンス監督「豚が井戸に落ちた日」(1977)、パク・チャノク監督「嫉妬は私の力」(2003)、ヤン・イクチュン監督「息もできない」(2009)、パク・ジョンボク監督「ムサン日記」(2011)、イ・スジン監督「ハン・ゴンジュ 17歳の涙」(2014)。この8年受賞がないのが少し気になりますが、「息もできない」をはじめさすがの作品が並んでいます。
では日本映画は?と見ると風間志織監督「冬の河童」(1995)、橋口亮輔監督「渚のシンドバッド」(1996)、古厩智之監督「まぶだち」(2001)、池田暁監督「山守クリップ工場の辺り」(2014)、荒木悠監督・ダニエル・ジャコビー監督「Mountain Plain Mountain」(2018)の5作品ですが、韓国と比べると3作品が20年以上前だし、「山守クリップ工場の辺り」と「Mountain Plain Mountain」は作品も監督さんの名も知りませんでした。一般劇場公開もなかったようだし・・・。池田暁監督の「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」は上映館は多くはないものの昨年上映されていたことを今知りました。観た人のブログ記事を読んで残念至極。トホホ・・・。
結論。というわけで、この<ロッテルダム国際映画祭>には日本のメディアも映画ファンももっと注目していい!と思います。シネコンの上映作の大半が既存の漫画や小説が原作という現状を打破して、新進監督による斬新で意欲的な作品を生み出す素地を作るためにも。
※<第51回ロッテルダム国際映画祭(2022)>には、日本からも以下の作品が招待されました。
・山﨑樹一郎監督の「やまぶき」が日本映画としては7年ぶりにタイガー・コンペティションに招待されました。11月5日ユーロスペースを皮切りに各地での上映が予定されています。→公式サイト。
・工藤梨穂監督の「裸足で鳴らしてみせろ」はハーバー部門に招待されました。ユーロスペース等での上映は終わりましたが、今月~10月各地で上映が続きます。→公式サイト。
・吉開菜央監督の「Shari」は短・中編部門に公式選出されました。2021年10月から各地で上映され、すでに終了しています。→公式サイト。
★★★ NAVERの人気順位(9月21日(水)現在上映中映画) ★★★
【ネチズンによる順位】
※[記者・評論家による順位]とも①等の右の( )は前週の順位。評点の後の( )は採点者数。初公開から1年以内の作品が対象。
「初登場」とは、本ブログでの初登場の意。
①(1) 人生はビューティフル:ヴィタ・ドルチェ(韓国) 9.81(839)
②(2) トップガン マーヴェリック 9.76(41,843)
③(新) あなたの隣人は親切ではない(韓国) 9.74(19)
④(3) ココスニ(韓国) 9.73(15)
⑤(4) 護符:人の運を奪う者(韓国) 9.54(56)
⑥(5) セマンティック・エラー:ザ・ムービー(韓国) 9.51(170)
⑦(7) 名探偵コナン ハロウィンの花嫁(日本) 9.47(1,654)
⑧(9) ARASHI Anniversary Tour 5×20(日本) 9.29(63)
⑨(新) あなたという記憶 ヨンスクさん(韓国) 9.29(24)
⑩(-) ノクターン(韓国) 9.26(31)
③と⑨の2作品が新登場です。
③「あなたの隣人は親切ではない」は韓国の犯罪&ミステリー。舞台は最南端の浜の村。聖堂の告解所でシスター(チョ・ヘジン)がけだるい表情をしています。信者たちの退屈な告白だけが続いたある日、突然の死亡事件を皮切りに町全体が罪悪に染まり始めます。シスターは実はある罪を犯してその村に来たのです。ところがその村にやってきた殺人請負犯がなんと聖堂で自分の犯罪を懺悔するとは・・・。制作期間はわずか5日だったとか。ロケ地どこかな? 「風景が美しい」との感想多し。原題は「인생은 뷰티풀: 비타돌체」です。
⑨「あなたという記憶 ヨンスクさん」は韓国のドキュメンタリー。アルツハイマー型認知症という診断を受け次第に症状が悪化するヨンスクさん。記憶は消えて言葉も忘れ始め、食べ物を食べる時には噛むということさえ忘れた彼女の時間は逆方向に流れています。彼女のそばにいる夫のギュホンさんは、すべてを忘れてもただ1人ヨンスクさんが憶えている人であり13年間自分より妻のことを優先してきた夫。ところがギュホンさんはある日時限付きの宣告を受けます。それはがんの宣告。1人だけの娘は衝撃で父の具合が急激に悪くなるのではないかと悩みます。この事実をどのように伝えるべきか? 自分ががんだという事実を知ったらギュホンさんはどんな決定を下すか・・・? 原題は「그대라는 기억 연숙씨」。特別な愛の物語であるとともに普遍的な家族の物語です。
【記者・評論家による順位】
①(1) 別れる決心(韓国) 8.71(14)
②(2) トップガン マーヴェリック 8.44(9)
③(4) 私は最悪。 8.00(9)
④(5) 小説家の映画(韓国) 8.00(3)
⑤(6) アフター・ヤン 7.80(5)
⑥(7) NOPE/ノープ 7.67(9)
⑦(9) フルタイム 7.33(9)
⑧(10) ベルイマン島にて 7.30(7)
⑨(-) ハント(韓国) 7.18(11)
⑩(-) サマーフィルムにのって(日本) 7.00(10)
新登場の作品はありません。
★★★ 韓国内の映画 週末の興行成績9月16日(金)~9月18日(日) ★★★
「共助2:インターナショナル」が2週連続1位、累積観客数500万人超え
【全体】
順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・週末観客動員数・・累計観客動員数・・累積収入・・上映館数
1(1)・・共助2・・・・・・・・・・・・・・・・・・9/07 ・・・・・916,351・・・・・4,732,474・・・・・・48,863 ・・・2,237
:インターナショナル(韓国)
2(2)・・6/45(韓国)・・・・・・・・・・・・・8/24 ・・・・・121,900・・・・・1,837,654・・・・・・18,549 ・・・・・820
3(4)・・劇場版 キジのかあさん ・・9/08・・・・・・・38,003・・・・・・・139,964・・・・・・・1,315・・・・・・498
:都市へ行ったひなキジ家族(韓国)
4(3)・・ハント(韓国) ・・・・・・・・・・・8/10・・・・・・・24,693・・・・・4,327,677 ・・・・・44,388・・・・・・496
5(6)・・トップガン マーヴェリック・・6/22・・・・14,650・・・・・8,156,319 ・・・・・87,637・・・・・・・81
6(8)・・アラジン・・・・・・・・・・2019/5/23・・・・・・・12,490 ・・・12,794,298 ・・・・108,999・・・・・・・39
7(7)・・ブラック・フォン ・・・・・・・・9/07・・・・・・・10,857・・・・・・・101,330・・・・・・・1,038・・・・・・305
8(新)・・ドラゴンボール・・・・・・・・・9/14・・・・・・・10,073・・・・・・・・14,940・・・・・・・・・162・・・・・・360
超スーパーヒーロー(日本)
9(11)・・人生はビューティフル・・・9/07・・・・・・・・8,123 ・・・・・・・・37,746・・・・・・・1,279・・・・・・・54
:ヴィタ・ドルチェ(韓国)
10(5)・・閑山:龍の出現(韓国) ・・・7/27・・・・・・・・6,349 ・・・・・7,250,029 ・・・・・73,592・・・・・・175
※KOFIC(韓国映画振興委員会)による。順位の( )は前週の順位。累積収入の単位は100万ウォン。
2週連続でダントツ1位の「共助2:インターナショナル」は9月22日の時点で5累積観客数00万人を超えました。
秋夕(チュソク)がらみの4連休で新作が大挙公開された前週と対照的に、今回の新登場は8位「ドラゴンボール超スーパーヒーロー」の1作だけです。6月11日の日本公開からわずか3ヵ月。相変わらず早いです。内容については(例によって)省略します。韓国題は「드래곤볼 슈퍼: 슈퍼 히어로」です。
【独立・芸術映画】
順位 ・・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・週末観客動員数・・累計観客動員数・・累積収入・・上映館数
1(1)・・みなしごピル姫の冒険 ・・・・・・・・9/08 ・・・・・・・・5,509 ・・・・・・・36,939・・・・・・・356・・・・・・・123
2(43)・・オー! マイゴースト(韓国)・・9/08 ・・・・・・・・4,361 ・・・・・・・・7,678 ・・・・・・・・66 ・・・・・・264
3(10)・・9人の翻訳家ー ・・・・・・・・・・・・・・9/14 ・・・・・・・・4,052 ・・・・・・・・6,495 ・・・・・・・・69 ・・・・・・・99
囚われたベストセラ
4(61)・・ホームレス(韓国) ・・・・・・・・・・・・9/15 ・・・・・・・・2,679 ・・・・・・・・4,829 ・・・・・・・・35 ・・・・・・・86
5(2)・・わたしは最悪。 ・・・・・・・・・・・・・・・・8/25 ・・・・・・・・2,466 ・・・・・・・35,583・・・・・・・362 ・・・・・・・40
2・3・4位の3作品が新登場です。
2位「オー! マイゴースト」は韓国のコメディ&ホラー(?)。新入FD[フロア・ディレクター]であるテミン(チョン・ジヌン)の唯一のスペックは幽霊が見えること。苦労して就職したスタジオで夜間巡回中、行くところのない地縛霊コンイ(アン・ソヒョン)と出会います。目を合わすだけで言い争ったりしていた日常のある日、スタジオで原因が分からない謎の事件が発生。彼らの唯一の仕事場であり、寝場所であるスタジオを死守するため、特殊能力の持ち主と幽霊の右往左往のチームプレーが始まります・・・。原題は「오! 마이 고스트」です。
3位「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」はフランス・ベルギー合作のミステリー&スリラー。日本では2020年1月に公開されているので説明は省略します。韓国題は「9명의 번역가」です。
4位「ホームレス」は韓国のドラマ。引っ越しを控えた若い夫婦ハンギョル(チョン・ボンソク)とゴウン(バク・ジョンヨン)。しかしトキメキも束の間、賃貸保証金詐欺に遭ったことがわかります。行く場所もなく途方に暮れた2人は1歳を過ぎたばかりの男児を抱いてやむなくチムジルバン(≒サウナ)を転々とします。ハンギョルは配達の仕事を、コウンはチラシ配布のバイトを始めますが、けがをした愛児の病院費さえ賄えず、崖っぷちに追い込まれたハンギョルはゴウンを連れて配達で言葉を交わした一人住まいのおばあさんイェブン(ソン・グァンジャ)の家に向かいます・・・。原題は「홈리스」です。
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