就業規則の作成は従業員にとっても文書化により勤務条件・服務・会社方針等がよくわかる<不当解雇・残業代請求のリスクを抑える>
10人未満の事業所において、労基法上の「就業規則」の作成の必要はあるかといえば、法上は必要ないといえる。しかし、作成した方がベターというより、ベストの選択ではある。
というのも、従業員を辞めさせなければならないとき、就業規則に解雇の規定がなければ非常に難しい。例えば、辞めさせなければならないといったが、次のような場合を考えてみよう。数人の従業員で今まで仲睦まじく和気あいあいでやってきた事業所があるとする。その中の従業員が交通事故で重傷を負い、少なくとも数か月は治療に専念しなければならないとして、さらに医者の話では後遺症も出るかもしれないという。この場合、就業規則がなければ、社長はどうするかということである。社長としたら、そんなに会社に出て来なければ辞めさせるしかないと考えるが、今までその従業員には親同然でかわいがってきたので、情的にはいかんせんとしたものがある。その情的なものを振り切って、社長は解雇としました。(解雇予告期間はちゃんと1か月は取り、労基法の措置は行ったものとします)。
これに対して、従業員の方も今まで会社のためにどれだけ尽くしたのかという思いがあり、こういう血も涙もない会社なのかという思いで、解雇無効という形で裁判に訴えました。この場合、会社に就業規則がないことは非常に不利です。就業規則には、一般的には、どういう場合に解雇を行うかの事由が書いてありますが、裁判所の判例では、この事由は例示ではなく制限列挙の規定であり、この事由にちゃんと記載がなければ解雇はできないと考えられているからです。さらには、合理的で相当なものでないと解雇はできないことになっています。まずは、一番目に解雇をする事由が就業規則に記載されているのでなければ解雇はまずむずかしいのです。
さて、従業員の言い分が裁判で認められたが、従業員は同時に会社憎しとなり、サービス残業代をも払えと訴えていました。これも、いつからが残業であるかがはっきりしていまければなりませんが、就業規則がなく労働時間が社長の思う(恣意と言うべきか)とおり運用されていたとしたら、これも従業員の主張した通り、残業代を払うことになるかもしれません。
今言った2つは、よく出てくる事案です。特に、残業代については、辞めてから労働者から請求がある場合はめずらしくありません。仕事をしている間は何もいわないが、辞めさせられたという労働者にとっては、辞めてからはどんなことも言えるので、そういった対抗措置をとってもおかしくはないのです。こういうときの備えとして、就業規則は作成しておくべきです。社長だけではありません、どんな場合に解雇のなるのかを就業規則に書いてあれば、従業員としても安心です。
労基法には、就業規則に必ず書かなけれならない「絶対的記載事項」というのがあって、簡単にいうと(1)始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等 (2)賃金に関する事 (3)退職・解雇に関する事 を書けば、それだけで就業規則になることになります。以上ですから就業規則を作るのは思ったよりは簡単です。しかし、さらに進めて、トラブルにならない点から必要最小限の規定を載せるとすれば、わずか20条足らずの条文でできないことはありません。従業員が20名ほどになれば、会社の方針に沿った100条以上の就業規則が必要になるかもしれませんが、わずか数名程度の従業員ならば、必要最小限の条文で、上述のような解雇や残業等のトラブルを防ぐことができます。
三村正夫氏の「零細企業の就業規則」では、規定すべき事項とそのメリットを具体的に挙げています。(内容は私の解釈で書きましたので、当該項目に沿ってという意味である。)
1、退職、解雇、懲戒の具体的事項を定めること。
やむなく従業員に辞めていただくときに、不当解雇と言われるリスクを防ぐ。これは、上に挙げたとおり。
2、始業・就業の時間・労働日が明確に示されること。
始業・終業時間を規定した上で、例えば、社長が命令してからが残業であることなど社長の許可制にしておくと、残業時間がちゃんと管理される。辞めた後から残業代の請求の可能性が低くなる。
3、服務規律を定めること。
先の例で言えば、残業するときは社長の許可をもらうことなどを定めれば、いつから残業かがはっきりする。だらだら残業もなくなる。
その他会社としての日常の勤務について守ってもらいたいことを規定しておけば、従業員も会社が何をしてもらいたいか明確に分かることになる。
4、忌引き・祝い事時の休暇を決めること。
身内の結婚式・葬式の際に休む期間や有給かどうかを決める。
これは是非必要で休むのですから、ちゃんと決めておきましょう。有給かどうかは会社の事情によりますが、あまり該当もなければ、有給でも可でしょう。(釣りバカの浜ちゃんのように、よく該当すれば考えものですが・・・これも信頼関係です。)
5、賃金額・昇給・退職金の有無等をちゃんと決めておくこと。
これはトラブル防止と従業員のモチベーションに大きく影響するので、具体的に決定することが必要です。
・・・・・ など となっています。従って、これらの項目は、必ず就業規則に載せましょうということになります。それでも、著者の「伝説の就業規則」が示すように、わずか全部で22条となっています。
さて、労基法では、労基署への就業規則の届け出義務は、10人以上となっています。これも、パートや契約社員等を常時雇うのであればこれを含めて10人以上であれば届けなければなりません。しかし、これが10人未満であれば作成と同様に届け出義務はありませんが、届け出しておけば従業員にしっかりとした就業規則が出してあると説明でき、従業員も納得してくれるものと思われます。
ただし、届出をしない場合でも、従業員には周知の徹底が必要です。そうでないと、就業規則が有効であるとはいえないからです。
参考 サット作れる零細企業の就業規則 三村正夫著 経営書院
10人未満の事業所において、労基法上の「就業規則」の作成の必要はあるかといえば、法上は必要ないといえる。しかし、作成した方がベターというより、ベストの選択ではある。
というのも、従業員を辞めさせなければならないとき、就業規則に解雇の規定がなければ非常に難しい。例えば、辞めさせなければならないといったが、次のような場合を考えてみよう。数人の従業員で今まで仲睦まじく和気あいあいでやってきた事業所があるとする。その中の従業員が交通事故で重傷を負い、少なくとも数か月は治療に専念しなければならないとして、さらに医者の話では後遺症も出るかもしれないという。この場合、就業規則がなければ、社長はどうするかということである。社長としたら、そんなに会社に出て来なければ辞めさせるしかないと考えるが、今までその従業員には親同然でかわいがってきたので、情的にはいかんせんとしたものがある。その情的なものを振り切って、社長は解雇としました。(解雇予告期間はちゃんと1か月は取り、労基法の措置は行ったものとします)。
これに対して、従業員の方も今まで会社のためにどれだけ尽くしたのかという思いがあり、こういう血も涙もない会社なのかという思いで、解雇無効という形で裁判に訴えました。この場合、会社に就業規則がないことは非常に不利です。就業規則には、一般的には、どういう場合に解雇を行うかの事由が書いてありますが、裁判所の判例では、この事由は例示ではなく制限列挙の規定であり、この事由にちゃんと記載がなければ解雇はできないと考えられているからです。さらには、合理的で相当なものでないと解雇はできないことになっています。まずは、一番目に解雇をする事由が就業規則に記載されているのでなければ解雇はまずむずかしいのです。
さて、従業員の言い分が裁判で認められたが、従業員は同時に会社憎しとなり、サービス残業代をも払えと訴えていました。これも、いつからが残業であるかがはっきりしていまければなりませんが、就業規則がなく労働時間が社長の思う(恣意と言うべきか)とおり運用されていたとしたら、これも従業員の主張した通り、残業代を払うことになるかもしれません。
今言った2つは、よく出てくる事案です。特に、残業代については、辞めてから労働者から請求がある場合はめずらしくありません。仕事をしている間は何もいわないが、辞めさせられたという労働者にとっては、辞めてからはどんなことも言えるので、そういった対抗措置をとってもおかしくはないのです。こういうときの備えとして、就業規則は作成しておくべきです。社長だけではありません、どんな場合に解雇のなるのかを就業規則に書いてあれば、従業員としても安心です。
労基法には、就業規則に必ず書かなけれならない「絶対的記載事項」というのがあって、簡単にいうと(1)始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等 (2)賃金に関する事 (3)退職・解雇に関する事 を書けば、それだけで就業規則になることになります。以上ですから就業規則を作るのは思ったよりは簡単です。しかし、さらに進めて、トラブルにならない点から必要最小限の規定を載せるとすれば、わずか20条足らずの条文でできないことはありません。従業員が20名ほどになれば、会社の方針に沿った100条以上の就業規則が必要になるかもしれませんが、わずか数名程度の従業員ならば、必要最小限の条文で、上述のような解雇や残業等のトラブルを防ぐことができます。
三村正夫氏の「零細企業の就業規則」では、規定すべき事項とそのメリットを具体的に挙げています。(内容は私の解釈で書きましたので、当該項目に沿ってという意味である。)
1、退職、解雇、懲戒の具体的事項を定めること。
やむなく従業員に辞めていただくときに、不当解雇と言われるリスクを防ぐ。これは、上に挙げたとおり。
2、始業・就業の時間・労働日が明確に示されること。
始業・終業時間を規定した上で、例えば、社長が命令してからが残業であることなど社長の許可制にしておくと、残業時間がちゃんと管理される。辞めた後から残業代の請求の可能性が低くなる。
3、服務規律を定めること。
先の例で言えば、残業するときは社長の許可をもらうことなどを定めれば、いつから残業かがはっきりする。だらだら残業もなくなる。
その他会社としての日常の勤務について守ってもらいたいことを規定しておけば、従業員も会社が何をしてもらいたいか明確に分かることになる。
4、忌引き・祝い事時の休暇を決めること。
身内の結婚式・葬式の際に休む期間や有給かどうかを決める。
これは是非必要で休むのですから、ちゃんと決めておきましょう。有給かどうかは会社の事情によりますが、あまり該当もなければ、有給でも可でしょう。(釣りバカの浜ちゃんのように、よく該当すれば考えものですが・・・これも信頼関係です。)
5、賃金額・昇給・退職金の有無等をちゃんと決めておくこと。
これはトラブル防止と従業員のモチベーションに大きく影響するので、具体的に決定することが必要です。
・・・・・ など となっています。従って、これらの項目は、必ず就業規則に載せましょうということになります。それでも、著者の「伝説の就業規則」が示すように、わずか全部で22条となっています。
さて、労基法では、労基署への就業規則の届け出義務は、10人以上となっています。これも、パートや契約社員等を常時雇うのであればこれを含めて10人以上であれば届けなければなりません。しかし、これが10人未満であれば作成と同様に届け出義務はありませんが、届け出しておけば従業員にしっかりとした就業規則が出してあると説明でき、従業員も納得してくれるものと思われます。
ただし、届出をしない場合でも、従業員には周知の徹底が必要です。そうでないと、就業規則が有効であるとはいえないからです。
参考 サット作れる零細企業の就業規則 三村正夫著 経営書院