縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
のんびり温泉に浸かり、美味しい魚で一杯。
夢に見た生活を楽しんでいます。

タイのクーデターに想う

2006-09-24 18:10:44 | 海外で今
 タイは何度かこのブログでも取り上げている。3月の反タクシンの大規模デモについても記事を書いた。その行きがかり上、今回のクーデターについても何か書かねばと思うのだが、基本的な見方は前回既に書いた通りである。

 要約すれば、タイでは1932年の立憲君主制移行後、20回近いクーデターが起こっており、特に92年のクーデターは流血事態に発展するなど政治的には極めて不安定であるが、その根本 = 王室 がしっかりしているので、心配には及ばない、というものである。
 実際、今回のクーデターは、早くにプミポン国王が容認したことから、無血で所期の目的を達している。そして、しまいには皆が戦車の記念写真を撮るなど、クーデターが観光目的と化している有様である。

 一方で、クーデターに対するアメリカの評判はすこぶる悪い。東南アジアにおける民主主義の優等生であったタイで、軍のクーデターが、選挙で、つまり民主的手続きにより選ばれた内閣を葬り去るなどまかり為らん、との考えである。
 が、ここで疑問が一つ。これは民主主義が最高の体制であることが前提になっている。しかし、民主主義そのもの、それ自体が、自ずと善を生み出すものと言えるのだろうか。

 学生時代、「社会的選択の理論」というのを勉強した。合理的な個人からなる社会を想定したとき、社会全体として合理的、民主的な選択を成し得ない、というものである。「アローの不可能性定理」として有名だが、この とんでもない結論は、その後、経済学のみならず、論理学、倫理学、政治学等の分野で大きな議論を呼んでいる。アローの前提の修正を試みるもの、新たな評価・判断方法を導入するもの等がいるが、未だ決定的な回答は出ていないように思う。
 
 では、厳密な意味での民主主義は幻想だとする学問、理論の世界に対し、現実の世界はどうだろう。民主主義国家といわれる国の状況はどうか。例えば、アフガニスタンそしてイラクへと侵攻したアメリカ、人種問題・移民問題に苦しむヨーロッパの国々、そして日本。まあ、社会主義や独裁主義よりはマシだと思うが、いずれの国も多くの問題・矛盾を抱えていることは事実である。
 こうした現実を見ても、民主主義は比較的望ましい制度とは言えるものの、絶対的に正しい、それ自体が皆に良い状態をもたらす制度だとは考え難い。
  
 アメリカにはない王室、それも国民の敬愛を集める王室が存在し、かつ仏教の教えが浸透している国、タイ。そもそも、そんなタイにアメリカと同じ制度を求めることが絶対的に必要なのだろうか。

 タイでタクシン首相の評価は二分されている。初めて地方の農民層や都市部の貧困層に目を向けた政治家として積極的に評価する者もあれば、一族の優遇や不正蓄財、麻薬取締りやマスコミ統制などでの強権発動などを強く非難する者もいる。完璧な政治家とは言えないまでも、クーデターという超法規的手段に訴える必要があったのか僕にはわからない。
 いずれにしろ、タイが国王の下、新たな政権によって、より良い方向に進むことを願いたい。タイでは都市と農村の格差は凄まじく、未だ人身売買などの問題に解決の糸口が見えない。タクシンの貧困層に向けた各種政策が後戻りすることのないよう願う。

藪の中 ~ ジダンと移民問題 ~

2006-07-23 17:51:09 | 海外で今
 サッカーW杯決勝でのジダン(フランス)のマテラッツィ(イタリア)に対する頭突きは衝撃的な事件だった。両者が二人の間で何があったかを詳しく話さなかったことから、「汚いテロリスト」とか「テロ売春婦の息子」とか人種差別的発言があったのではないかとの憶測が流れ、大きな話題になっていた。
 その後の二人の発言から、どうやら人種差別的発言はなかったらしいが、ジダンが自身の最後の試合、かつW杯優勝がかかった試合であれだけの暴挙に出たということは、何もかも忘れ頭に血が上る発言をマテラッツィがしたことだけは確かである。

 さて、20日、FIFAが両者に処分を下した。ジダンには3日間の社会奉仕と罰金SFr.7,500(約70万円)、マテラッツィには2試合の出場停止と罰金SFr.5,000(約47万円)。けんか両成敗である。これでめでたしめでたしかと言うと、フランスを除き、驚きや不満が多いようである。
 その内容は大きく二つ、一つは挑発した人間まで罰を受けるのはおかしいというもの、もう一つはジダンの処罰が軽すぎるというものである。前者は、サッカーで相手を挑発するのは常套手段であり、マテラッツィを責めるのはおかしい、挑発に乗る方が悪いとの理由である。一方、後者は両者の比較感からジダンの処分が軽い、暴力を正当化するようだとの理由である。

 僕もこの処分には驚いた。確かに度を越した侮辱行為は許されるものではない。が、それに対し暴力で応えて良いのだろうか。今回のFIFAの処分では両者に大きな差はなく、ある意味、暴力を肯定しているかに見える。自信の名誉を守るためなら暴力もあり、と。
 又、ジダンのようなスーパースターの行動は子供達にも大きな影響を与える。実際、ジダンをかっこいいと思い、サッカーの練習そっちのけで頭突きの練習をするサッカー少年が多くいたと聞いた。

 思うのだが、本当は人種差別的発言があったのではないだろうか。移民問題に苦しむヨーロッパの状況を勘案し、それを伏せたのではないだろうか。であれば、ベテランのジダンが大切な試合で挑発に乗って暴挙に及んだこと、マテラッツィ本人から処分への反発が聞かれないことなど、合点がいく。
 ジダンはアルジェリア系移民である。98年にフランスがW杯で優勝した当時、移民問題は今ほど深刻ではなく、ジダンはじめ移民の力によりフランスは優勝できたと彼らはもてはやされた。しかし、その後のテロや、移民に強く同化を求める政府の方針もあって、移民問題は大きくクローズアップされてきた。2005年の大規模な暴動はまだ記憶に新しい。ジダンや家族の移民としての苦労に、こうした移民問題、移民への風当たりが強まったこととが相俟って、今回の頭突き事件のきっかけになったのかもしれない。両者の発言内容は公表されず、真相は未だ藪の中である。

 ところで、W杯が行われたドイツはトルコからの移民が多く、今年、ドイツ国歌のトルコ語版を作ろうとの話が持ち上がったそうだ。反対の方が圧倒的に多いらしいが、国家とは何か、言語を含め国民としてのアイデンティティが必要なのか、多様性を許容すべきか、ヨーロッパの多くの国では判断が求められている。少子化の進むわが国でも、いずれ起きる問題かもしれない。

吸う権利と吸わせない権利

2006-06-29 23:52:00 | 海外で今
 来月からたばこが値上げされる。1箱につき20、30円の値上げで、1箱300円程度になる。これが高いか安いかは別として、おかげで今月のたばこの売上げが凄まじいらしい。昨年6月のたばこの出荷量が244億本であったのに対し、今月は400億本を上回る勢いとのことだ。
 愛煙家の方にしてみれば今回の値上げはとんでもない話なのだろうが、いっそのこと一気に1箱500、600円と倍に値上げをして漸く欧米並みの価格になるということをご存知だろうか。つまり、わが国のたばこの価格はまだまだ安いのである。
 こうしたたばこの価格政策にしろ、販売や公共の場所での禁煙といった種々の規制にしろ、日本は世界の流れから取り残されているのが実情だ。

 ではたばこを巡る現在の世界の流れとは何か。一つは消費抑制策の強化。まずは課税により価格を高くすること。全体の需要減を狙うのは勿論のこと、高価格は若年層の喫煙習慣化を防ぐ有効な手段と考えられている。更には広告の禁止や厳しい警告文言の表示義務付けである。先進国の中で“ディライト”とかいってテレビで堂々とCMを流している国は他にないし、欧米諸国の警告文言はより直接的である。日本の「喫煙は肺がんの原因の一つになる」といった甘い表現ではなく、例えばEUでは「喫煙は死に至る」、「喫煙者は早死にする」といった表現まで使われている。
 もう一つは喫煙そのものの規制である。公共の場所や交通機関、オフィスでの禁煙はもはや一般的になり、アイルランド、ノルウェーなどではレストランやバーまでも禁煙になっている。間接喫煙のリスクは極めて高く、分煙だけでは非喫煙者を保護できないとの判断からである。こうして見ると、新幹線の全車禁煙化に反対するどこかの会社はまさに時代遅れと言わざるを得ない。

 今月27日、米国保健福祉省は間接喫煙の健康被害に関するレポートを発表した。もともと喫煙者本人が吸い込む煙、主流煙よりも、たばこの先から立ち昇る煙、副流煙の方が有害物質は多いと言われていた。今回のレポートにはそれを裏付けるデータがあり、又、間接喫煙はたとえ僅かであっても細胞を損ない、がん化のプロセスを促進するとまで言っている。こうなるともう喫煙そのものを禁止するしかない。喫煙禁止令を出す州が増えるのではと新聞記事にあった。

 僕は愛煙家の方のささやかな喜びを取り上げるつもりはない。好きでたばこを吸って多少肺がんなどのリスクが高まろうとそれは本人の自由だし、(以前どこかで書いたが)無理に禁煙させてストレスを高めてはかえってその方が健康に悪いだろう。ただ他人に迷惑を掛けるのだけは止めて欲しい。愛煙家の方には屋外で、青空の下、健康的に(?)たばこを吸って欲しいと思う。
 近くでたばこを吸っている人に対し、直接止めてくれと言うのは角が立ってちょっと言い難い。かといって、禁煙、“No Smoking”といったステッカーを貼って歩くのは仰々しいし、そもそも美しくない。こんなとき、身振りや手振りなどでたばこを止めるよう注意する決め事があればと良いと思う。近くの人がこれをするのを見たら黙ってたばこを消すというルールだ。例えば、人差し指を交差させ×を作るとか、右手でたばこをひねって火を消す仕草をするとか。JTには、僕のようにたばこを吸わない人間への“ディライト”も考えてもらえると有難い。

アジアの中の日本

2006-06-08 23:57:00 | 海外で今
 今日でちょうど100回目。我ながらよく続いたものだと感心する。原則、曜日によってテーマを分けて書いている(先月の終わりにちょっと乱れたが)。その中で書くのが難しいのが、火曜日の“環境を考える”と今日、木曜日の“海外で今”である。7つのテーマを決めた時は、新聞やネットを見てればテーマなんか簡単に見つかると安易に考えていた。が、しかし、環境と海外の時事問題は結構難しい。新聞などの受け売りなら簡単だろうが、自分なりに噛み砕いて、そして自分の意見も入れて、と思うと、途端に難しくなる。多分に自分の知識や経験の不足に由るところが大きいのだが、今更言っても後の祭りだ。
 というわけで今日のテーマ、“海外”、“今”、ともに当てはまらないかもしれないが、100回記念ということでご容赦願いたい。

 皆さんは日本がアジアの一員であると意識したことがあるだろうか。日本はアジアにある国だが、唯一の先進国、世界第2位の経済大国であり、他の国とはちょっと違うと思っていたり、単にアジアを直接投資や貿易の相手国としか見ていない人が多いのではないだろうか。かくいう僕も以前はそう思っていたが、ある出来事をきっかけに考えを改めた。

 僕はマレーシア人の学生と一緒にカレーを食べていた。その店のカレーはただでさえ辛いのに、彼は辛さが4倍か5倍の超激辛を顔色一つ変えずに食べている。信じられない。最初はそんな他愛のない話をしていたが、突然彼が言った。
 「以前、田中角栄が東南アジア諸国を周ったとき、何が起こったかを覚えているか?」
僕は答えに窮してしまった。それは10年くらい前、僕が小学生の時の話だ。彼は続けた。
 「タイでは反日デモが起こり、インドネシアでは大規模な反日暴動が起きた。」
そう言われると、日本のオーバー・プレゼンスに対し日本車が焼き討ちされる事件があったという話は聞いたことがある。彼は追い討ちを掛けるように、又、若干吐き捨てるかのように言う。
 「我々はあのとき何が起きたかを覚えている。だが、多くの日本人はそれを覚えていない。どうしてなんだ、我々も日本人も皆アジア人(Asian)じゃないか」
 彼の「日本人も Asian 」という一言がとても新鮮だった。日本人が意識するにしろしないにしろ、日本は同じアジアの一員だと、他のアジアの人達は考えているのだと、このとき初めて知った。

 さて、場面は変わり、時は現在。先般、福田康夫氏がアジア諸国との関係修復のため、新しい総合的な外交政策、いわば新・福田ドクトリンが必要との話をしたそうだ。
 福田ドクトリンというのは、今から30年近く前、東南アジア諸国を歴訪した福田赳夫首相(康夫氏の父)が、田中首相訪問時の反日暴動等を踏まえて発表した、わが国の東南アジア外交の3原則である。①軍事大国にならない、②心と心の触れ合う相互の信頼関係、③対等な協力者としての立場、の3つである。

 この3原則は各国から大変高い評価を受けたが、情けないことに、この30年間、わが国には福田ドクトリンに変わる、新しい東南アジア外交の原則は誕生しなかった。この原則不在が今の中国、韓国との軋轢に繋がっている一因かもしれない。
 次期総裁選の行方は未だ混沌としているが、次の首相にはアジアの中の日本、同じアジアの一員としての日本という視点を常に念頭に置くようお願いしたい。

まだまだ安心できないエイズ

2006-06-01 23:54:00 | 海外で今
 先日『レント』という映画を見た。ブロードウェイのミュージカルを映画化したものだ。舞台は1990年頃のアメリカ。貧乏だけれども夢を追い続け、愛に悩み、更にエイズに苦しみ、それでも成功を信じ、互いの友情で支え合う若者たちの映画である。
 90年代初めといえば、フレディ・マーキュリーがエイズで亡くなり、ジュルジュ・ドンも亡くなった。僕はクィーンの公演を見に行ったし、ジョルジュ・ドンの踊るボレロに心打たれたし、90年代はエイズの脅威が一気に身近なものとなった時期だった。
 
 この度発表されたUNAidsレポートによると、エイズ感染は90年代の終わりがピークで、今はもう峠を越えたと考えられるらしい。
 エイズが発見されてから既に25年が経つ。抗レトロウィルス治療の普及により、エイズは必ずしも死の病とは言えなくなった。世界で3,860万人もの人がエイズに、HIVウィルスに感染しながら生きている。つまり、エイズと共存しているのである。もっとも昨年1年でエイズに起因する病気で280万人が亡くなり、一方で新たに410万人がHIVに感染するなど、エイズが大きな脅威であることに変わりはない。

 地域的な偏りもエイズの問題の一つだ。感染率で見ると、アフリカ、特にサハラ以南のスワジランド、ボツアナ、レソトなどでは、おおよそ成人の3人に1人がHIVに感染している。この高いHIV感染率がこれらの国の平均寿命の低さ、40歳前後と極めて低いことの原因になっている。唯一の救いは最近漸く感染者数、感染率とも横ばいになってきたことだろう。
 しかし、東ヨーロッパやアジアでは感染者数、感染率とも増加している。インド、ウクライナ、ロシアがひどい。インドは人口が多いことから感染率は0.9%と低いものの、感染者数では南アフリカを抜き、トップに立った。又、中国も今は感染率0.1%と低いが、今後有効な手立てを打たないと感染者が1千万人規模に拡大する恐れがあると言われている。

 では、有効な手立てとは何か。これはエイズに関する正しい知識、対策を広く知らしめる以外にない。“臭いものに蓋”ではいけない。なぜ臭いのか、どうしたら臭いを防げるのかを知ることが必要だ。

 同じアジアでもタイでは感染者数が減少している。1991年に新たな感染者数は14万人と急拡大したが、2003年には2.1万人へと減少している。実はこのエイズ拡大のさなか、僕は仕事でタイに行った。タイで役所、日本の経済産業省のようなところを訪ねたのだが、待っている間、ふとテーブルのパンフレットを見て驚いてしまった。背中に一面の赤い湿疹。そう、字は読めないが、これはエイズのパンフレットだ。ここが厚生省ならいざしらず経産省である。自らの管轄以外のパンフレットを置く役所を見て、タイではここまでエイズが深刻なのかと思った。
 反面、これだけ真剣にエイズに向き合っているのだとも感じた。これが先の新感染者数の減少に繋がっているのではないだろうか。インドや中国にも是非見習って欲しい。

ジャワ島中部地震の教訓

2006-05-30 22:51:06 | 海外で今
 27日早朝、インドネシア・ジャワ島中部、ジョグジャカルタ沖で発生した地震の被害が拡大している。3日経った本日午後の時点で死者は5,428人に達した。世界各国が続々と援助に乗り出しているが、混乱の続く中、未だ被災者の元に十分な援助が届いていないようだ。更なる被害の拡大が懸念される。

 ところで、今回の地震のマグニチュードは6.3。地震の多いインドネシアではさほど大きな地震ではない。にもかかわらず死者の数が多い。例えば、神戸を直撃したあの阪神・淡路大震災のマグニチュードは7.1で死者6,434人、先の新潟県中越地震では各々6.8、51人である。
 これは、いくつかの理由が重なった結果であるが、元々の原因はインドネシアにおいて耐震基準が無視されていたことにある。多くの人はコンクリート・ブロックを積み重ねた家に住んでいた。この地震に弱い家を、震源が浅く横ずれの生じる直下型の地震が襲ったことから、家屋の倒壊が相次いだ。更に悪かったのが地震の時間。早朝6時前、まだ寝ている人が多く、逃げる間もなく倒壊する家屋の下敷きになったのであった。

 勿論、地震国インドネシアに耐震基準はある。が、現実にはあまり守られていない。直接の理由はコスト。コンクリート・ブロックを積み上げるだけでなく、中に鉄筋を入れれば強度は高まるが、建築コストが10~15%以上アップしてしまう。しかし、この根底にあるのは政府の失敗、即ち耐震基準の重要性を国民に徹底して来なかった政府のミスと考えられる(政府のミスといえば、耐震基準の管理を怠った結果、却ってその重要性をあまねく世間に知らしめた政府もどこかにあったが)。

 もっともインドネシアの耐震基準を守った建物が安全かというと必ずしもそうではない。日本と比べ基準が緩く、総じて耐震性は弱い。事実、今回の地震でも空港や病院といった公共施設の損壊が伝えられている。
 地震に加え、台風の強風も前提としたわが国の建物は世界でも稀な強さを持っている。日本の優れた技術力を持ってしながら、日本に100階を越す超高層ビルがないのは、この厳しい前提のせいである。その点、海外のビルは結構いい加減だ。インドネシアの公共施設に損害が生じたのはおそらく鉄筋しか使っていなかったからであろう。日本では当たり前のH型鋼などの鉄骨は、海外、特にアジアではあまり使われていない。高層ビルもRC造、つまり鉄筋で建てているケースが多い。

 話が脱線して恐縮だが、あの9.11の貿易センタービル崩壊を見た某鉄鋼メーカーの人が、あれは造りがちゃちだ、ウチの鉄骨を使ってしっかり造っていれば飛行機が飛び込んだぐらいで倒れない、と言っていた。もし日本の建築基準が世界標準であったなら、世界の歴史は変わっていた??
 ところで、今回の地震で竹を編んだ昔ながらの家はほとんど無傷だったそうだ。伝統というか、その地に合った建築の強さを感じた。

アンゴラでコレラ拡がる

2006-05-18 22:55:05 | 海外で今
 最近、映画『ホテル・ルアンダ』で話題になった、あのアンゴラで、今、コレラ感染が拡がっている。既に1,298人が亡くなり、何万人もの感染者が出ているようだ。コレラは首都ルアンダから始まり、国内18州のうち11州にまで拡大した。
 汚染された水、衛生状態の悪さ、そして人口が密集するスラムなどの問題が相俟って、コレラの爆発的流行に繋がった。未だコレラの勢いは衰えず、アンゴラ全土で毎日新たに600人がコレラに感染し、火曜日1日だけで31人がコレラで亡くなったという。

 ここまでコレラが拡大したのはアンゴラの悲しい歴史に因る。アンゴラは1975年にポルトガルから独立した後、2002年まで27年に及ぶ内戦が続いた。そのため道路、橋、電力など社会的インフラの整備が遅れ、特に生活用水の不足、安全で衛生的な水の確保が大きな問題であった。
 とりわけ首都ルアンダにおいては200万人に及ぶ避難民の流入により人口は400万人近くに膨れ上がり、その多くがスラムを形成するなど、衛生状態も悪化していた。しかしながら内戦で疲弊したアンゴラ政府の対応には自ずと限界があり、日本政府も給水施設・システム整備のために支援を行っているが、まだまだ安全な水の確保には程遠い。

 アンゴラは内戦のため開発が遅れているが、石油やダイヤモンドなど、天然資源の豊かな国である。確か中国がアンゴラに急接近しているのも、アンゴラの石油が理由だ。こうした天然資源で得たお金が上下水道の整備に使われていればと残念に思う。いや、上下水道とまで行かなくても、せめて給水車の水を殺菌・消毒するとか、せめてそのくらいは完全に行っていればと思う。資金的問題なのか、単に衛生に関する知識の問題なのか、アンゴラでは給水車の水の浄化もあまり徹底されていなかったらしい。

 一方、翻ってわが国の状況はどうか。衛生状態や国民の栄養状態の改善によりコレラが撲滅されて久しい。水についても、水道の蛇口をひねればきれいな水が出てくるし、スーパーやコンビに行けばミネラルウォーターが所狭しと並んでいる。正直言って、生活用水の確保が重要と聞いてもあまりピンと来ない。
 先日、ある飲料メーカーの工場を訪れた。そこには賞味期限切れで戻された大量の飲料があった。おそらくそれは処分されるのであろう。
 どこかおかしい。平和で豊かな国に生まれたことを感謝すべきであろうが、それ以上に、何もできない自分にもどかしさを感じる。

今風“ジェームス・ボンド”募集

2006-04-27 23:59:00 | 海外で今
 MI6をご存知だろうか。あの007ことジェームス・ボンドの所属する組織、イギリスの情報局秘密情報部である。かつてはその存在すら否定されていたMI6であるが、今日の新聞、タイムズに1909年の創設以来初めて求人広告を出した。国際テロの高まりを受けた人員増強の必要性から、多様な人材を確保すべく新聞での広告を行ったのである。もっともMI6は昨年からWEBでの人材募集を行っており、そこから一歩踏み込んだ形での今回の新聞広告である。

 従来MI6は属人的というか、個人的ルートでリクルート活動を行っていた。信頼の置ける人物を通じて一流大学の才能ある若者をスカウトしてきたのである。更に手の込んだことに、当初はMI6の募集であることを伏せ、数回の面接を行い見込みがあると判断した者に対してのみ正体を明かしていたという。それが昨年のWEBや今回の新聞広告では初めからMI6とわかる形で募集を行っている。

 これには環境の大きな変化がある。冷戦の終結と新たな対立構造の出現である。1989年の冷戦終結以降、米ソを軸とした国際関係からアメリカを唯一のスーパーパワーとする体制へと変化した。007でもジェームス・ボンドの戦う相手がソビエトから犯罪組織などに変わった。又、ジョン・ル・カレに代表されるスパイ小説も大きな方向転換を迫られた。それは一瞬にしてリアリティを失い、大学紛争やグループサウンズの流行と同じような過去の出来事になってしまった。

 もちろん国と国との利害関係の対立がなくなったわけではなく、スパイ行為自体が消えたのではない。先の上海領事館員自殺事件を見てもそれは明らかだ。一方でインターネットの浸透もあり、言葉さえわかれば、スパイにとってはやりやすい世の中になったともいえる。
 こうした中、MI6の主要なターゲットは国際テロ組織となり、爆破、誘拐、サイバーテロ、更には細菌や核によるテロへの対応が必要になってきた。このためアラビア語を始めとする語学に長けた者や、パソコンのスキルを持った者まで求められている。プレイボーイのボンドのイメージとは程遠い。また自薦で応募できるようになり、国の役に立ちたいというイスラム系住民の応募も増えているそうだ。確かに広く人材を公募しない限り、こうした人材は集まらない。

 が、これは両刃の剣でもある。従来の一本釣り的なリクルーティングから公募になると、テロ組織などが人を送り込み易くなってしまう。MI6の内部で壮烈なスパイ同士の争いが繰り広げられるときが来はしないか心配だ。
 でも、そうなるとスパイ小説が再び復活する??

いつみても波乱万丈(エリザベス女王伝)

2006-04-20 23:57:00 | 海外で今
 明日4月21日はイギリス、エリザベス女王の80歳の誕生日である。1926年生まれ、日本でいえば大正15年、寅年の生まれである。本当にお元気である。このお年で、外遊も含め、まだまだ元気に公務をこなされている。今日はお誕生日をお祝いする意味で、女王の人生を振り返ってみたい。

 いつみても波乱万丈 エリザベス女王伝 ♪~

 イギリス王国40代目君主、エリザベス2世は、1926年4月21日、国王ジョージ5世の次男ヨーク公とエリザベス・バウズ=ライアンの長女として生まれた。馬やポニーで遊ぶのが好きな女の子だった。

 そんなエリザベスに最初の転機が訪れた。1936年12月、エドワード8世が突然退位し、父ヨーク公がジョージ6世として即位したのである。本来皇位とは遠い存在であったはずの彼女が、いきなり皇位継承者No.1となった。このとき彼女は10歳。
 これが世に言う「王冠をかけた恋」である。離婚暦のあるアメリカ人女性、シンプソン夫人を愛するエドワード8世が、彼女が王室に受け容れられないと知り、皇位を捨て彼女との結婚を選んだのである。

 続いて第二の転機。第二次世界大戦の勃発である。開戦当初イギリスは劣勢で首都ロンドンもナチスドイツの空襲に苦しむ日々が続いた。両親は疎開することなく、あるときは国民を慰め、あるときは国民を勇気づけ、自ら先頭に立ってナチスとの戦いと対峙した。そんな中、彼女も幼い妹マーガレットと一緒にラジオに出演するなどし、国民を励ました。またその後は自ら陸軍少尉として従軍し、軍用車両の整備などにあたった。
 両親の姿勢、態度に負うところが大きいが、こうして国民とともに戦争を戦ったエリザベスも国民の敬愛、人気を集めることになる。

 戦争が終わり国内も落ち着いた1947年、エリザベス21歳のとき、ギリシア王家の血をひくフィリップ(エディンバラ公)と結婚。その後、チャールズとアンの二人の子供も生まれ、幸せな結婚生活が続いた。そして第3の転機が訪れる。
 1952年、愛する父親の死。そして彼女は25歳の若さで女王に即位することになった。

 エリザベス女王の治世の下、イギリスは「ゆりかごから墓場まで」といわれた福祉政策の充実に努め、また産業の国有化も進めた。経済の低迷が続き、英国病という言葉が囁かれ始めた。そんな中ではあるが、アンドリュー、エドワードの二人の王子も生まれ、家族生活は極めて順調であった。一方、経済も、鉄の女サッチャーによる一連の改革や、北海油田の開発により、かつての勢いを取り戻して行ったのである。

 しかし、そんな幸せな家庭に大きな問題が起こる。アン王女のスキャンダルに、ご存知チャールズ皇太子の問題。皆さん、よくご存知だと思うのでこれ以上書かないが、本当にエリザベス女王の苦悩が忍ばれる。
 しかし、もしかすると心配事があるからこそ、老いても元気でいられるのかもしれない。いくつになっても子は子である。

 エリザベス女王、誕生日おめでとうございます。

移民国家の移民問題

2006-04-13 23:34:25 | 海外で今
 移民国家アメリカが不法移民問題で揺れている。今週の10日には全米100以上の都市で不法移民取締強化に反対するデモがあり、ヒスパニックを中心に350万もの人が参加したそうだ。
 移民問題といえば、古くはドイツのトルコ人、最近ではフランスのイスラム系移民が思い浮かぶが、彼らは正規の手続きを経て入国した移民やその子供達である。が、今回は“不法”に入国した者の話である。本来、不法入国者は国外退去が当然なのだろうが、アメリカの場合、そのプレゼンスの大きさから、一筋縄で行かない問題になっている。

 現在アメリカの不法移民の数は1,100万人強、総人口の約4%と言われる。内訳はビザが切れたにも拘わらず留まっている、いわゆるオーバーステイが230万人、国境線を不法に破って入国してきたのが700~800万人である。多くはメキシコはじめ中南米出身者である。
 そして、彼らがアメリカ人の嫌がる低賃金労働、農業、清掃、食肉加工、建設作業などに従事し、アメリカの底辺を支えているのも事実である。

 さて、こうした中、昨年12月に下院で不法移民の取締強化を図る法案が可決された。不法移民を重犯罪人と捉え、その雇用主や支援者をも処罰するという厳しいものだ。冒頭で書いたデモはこの法案に反対するものである。
 一方、ブッシュ大統領は一定の条件の下で不法移民に労働の許可を与える方向で検討しており、また上院はさらに一歩踏み込み、合法的な居住の継続をも認める法案を検討している。下院と上院が相反する内容の法案を支持しているのである。
 世論調査を見ても意見が二分されているのがわかる。Wall Street Journal / NBC News の調査ではブッシュ大統領のゲスト・ワーカー政策を支持しない人56%に対し支持する人39%。 Pew Research Center の調査では53%の人が不法移民は母国へ帰るべきとする一方、何らかの法的地位を与えるべきとする人が40%いた。ヒスパニックの台頭やテロ対策強化とも相俟って、なかなか解決の糸口は見えない。

 不法移民擁護派は人道主義や人権問題をその理由としているが、私はそれはおかしいと思う。不法入国した者勝ち、住み付いた者勝ちというのでは、正規の手続きを踏んで移民しようとしている多くの人達に対し公正とは言えない。機会は平等に与えられるべきであり、それを歪めてはいけない。
 さらに不法移民反対派がその理由に挙げるフリー・ライダーとの批判にも一理あると思う。不法移民は税金を払わないが、アメリカ国民の払う税金の恩恵を享受している。例えば教育。アメリカは生地主義を採っていることから、アメリカで生まれた不法移民の子供はアメリカ人として学校に通っている。病院のERで治療を受けることもできる。また自動車保険に入っていないことから事故の支払いで問題を起こすことも多いようだ。人道主義といってもメキシコは北朝鮮とは違う。

 そうは言っても既に不法移民がアメリカ社会に組み込まれているのは紛れもない事実である。この問題にアメリカ国民がどのような結論を出すのか、人口減少社会を迎え、労働力人口が減少して行くわが国にとって今後の参考になるかもしれない。

鳥インフルエンザの影響拡大

2006-04-06 23:57:00 | 海外で今
 今朝の日経に「鳥インフル、世界損失拡大。世銀予想、GDPの2%」という記事が出ていた。アジアに続きヨーロッパでも鳥インフルエンザの被害が拡大しており、鶏肉の需要減だけでなく雇用や観光への影響など、世界全体のGDPが2%減少すると世界銀行が予測したというのである。
 北半球が春を迎えたことから、取り敢えず鳥インフルの蔓延は落ち着くと思われるが、未だ抜本的な解決策がない中、深刻な状況であることに変わりはない。1918年のスペイン風邪流行の際は全世界で20百万人以上の死者が出たと言われるが、各国の経済的な繋がりが強くなっている現在、万が一鳥インフルエンザが流行した場合の被害は、それを上回る可能性が大きい。

 幸いなことに、鳥インフルエンザ、H5N1型ウィルスはまだ人から人への感染は確認されていない。既に世界で100人近い死者が出ているが、いずれも直接鳥から感染したものである。このままであれば、鳥や鳥の糞などとの接触を避けることにより大方は予防できる。
 ヨーロッパで鶏肉の消費量が減少しているとの話を聞くが、今の状態であれば、それよりも鶏肉でも何でも食べ、体の抵抗力を高めた方が良いと思う。牛肉はBSEでだめ、それに鶏肉もだめというのでは、食べるものが無くなってしまう。因みに、このためヨーロッパでは魚の消費が増えているらしいが。

 しかし、恐いのはH5N1が変異し、人から人に感染するウィルスに変化したときである。ウィルスが感染した人の中で変異したり、鳥からブタに感染しウィルスがブタの中で変異する可能性が指摘されている。地域としては、タイやベトナム(元々鳥インフルエンザはこの辺りで発生したと考えられている)、それに中国あたりが危ないと見られる。
 特に中国が恐い。人口密度が高く人が密集しており、又、家畜と一つ屋根の下で暮らすなど鳥・ブタ等と人間の距離が極めて近い。更に恐ろしいのは情報が統制されている点である。中国で発生が確認された鳥インフルエンザの問題が、国内外問わず、すべて公開されているか疑問である。以前のSARSの時のように自国で情報を囲い込み、対応が遅れる懸念がある。
 それに一般の国民が鳥インフルエンザに対して正しい知識を持っているかも疑問である。これはAIDSや麻薬の問題にしても然りであるが、その恐ろしさを知らなければ予防などしないし、予防する方法を知らなければ対策を講じることはできない。

 中国はエネルギーや食料を世界各地で買い漁っており、需給や市況の大きな撹乱要因になっているが、加えて健康面でも世界の撹乱要因にならないよう、鳥インフルエンザには断固たる対応を採って欲しい。
 おそらく中国は2008年の北京オリンピックを成功裡に終えるまで、自国のマイナス材料にはすべて蓋をしてしまうと考えられる。国内は力で抑え込めば良いし、海外には情報を公開しなければ良いだけである。彼らにとって難しいことではない。 しかし、長期的に見て何が中国に取って一番良いかを考えれば、もうそうした選択肢はないはずだ。既に“中国リスク”が囁かれ、外資の中国からの撤退や、インド・ベトナム等へのシフトが起きつつある中、真の国際社会の一員としての行動が中国に望まれる。

今回のストライキに見るフランスの矛盾

2006-03-30 21:44:38 | 海外で今
・第一の矛盾:初期雇用契約(CPE)の内容
 以前、アメリカのレーガン大統領は「税率を下げると税収が増える」と主張した。つまり、税率を下げると個人の可処分所得が増えて個人消費が増える。すると企業の売上が伸びて収支は改善し景気が良くなる。その結果個人の収入そのものが増え、さらに可処分所得が増える。こうした好循環により税収は増える。といった理由からで、いわば「風が吹けば桶屋が・・・・」の話だが、このときのアメリカは実際この通りになった。
 今回のストライキの原因となったCPEもこれに近い。なぜなら「解雇しやすくすることにより若年層の雇用を増やす」という逆説的な内容だからだ。そしてこれは経験的には有功な政策と言われている。

・第二の矛盾:低い労働組合の組織化率とストライキ天国
 フランスの労働組合の組織化率はわずか8%に過ぎない。一方、労働組合の弱体化、形骸化が著しいと言われるわが国の組織化率は20%を割り込んだものの未だ2桁である。にもかかわらず、ストライキの規模や行う業種の多様さはフランスの方が1枚も2枚も上である。今回のような公共交通機関、それにトラック運転手、先生、タバコ屋、果ては公務員まで、誰も彼もがストライキをする。
 これには二つ理由がある。一つは憲法でストライキの権利が保証されていること。フランスは共産党の力が強かった。極右勢力は第二次世界大戦でナチに協力したと非難されて力を失い、左派が勢力を強めたのである。そこで労働者保護のためにストの権利が規定された。組合員であろうとなかろうと権利は変わらない。憲法で認められた権利だからストによって責任を問われ職を失う心配もない。早い話、「ゴネ得」ならぬ「スト得」の国なのである。
 もう一つはストに対する寛容な国民感情であろう。自分もストをやるかもしれないという気持ちから、自然と他者のストにもやさしくなる。お互い様なのである。

・第三の矛盾:CPEと直接関係のない人間だけがスト
 CPEで直接的なメリットを受けるのは移民の若者である。彼らがストに参加しないのは当然としても、ストに抗議する様子もない。そして実際にストをしているのは、直接CPEに関係のない、組合員を中心とした労働者や学生である。
 フランスの大企業では、労働者は2年半×2回という5年の試用期間を経て、無期限の雇用契約を結ぶ形が多い。よって大部分の大企業労働者にCPEは関係ない。中小企業は日本の終身雇用に近い形であり、やはり労働者にCPEは関係ない。学生にしても彼らが就職面において他より恵まれた立場にいることは事実であり、又、CPEの対象となる26歳近くまで大学に残り働かない可能性だって考えられる。しかし彼らはストをしている。これが最後の矛盾に繋がる。

・最後の矛盾:「自由、平等、博愛」は建前だけ?
 労働者や学生が直接関係のないCPEに反対するのは、多くの移民が労働市場に参入することにより、自らの賃金や福利厚生など労働環境の悪化を懸念するためであり、又、学生にとっては自らの就業機会が狭まるからである。「自由、平等、博愛」の理念はフランス人にしか当てはまらないのだろうか。

パレスチナ問題は土地問題

2006-03-23 23:42:00 | 海外で今
 まずはちょっと乱暴なたとえ話。
「ほかの町からやって来て公園に住み着いたホームレス。彼らに公園を住所とした住民票登録を認めたお役所。彼らを追い出そうとする周りの住民。」パレスチナ問題の発端を単純化すればこうなる。つまり、ホームレス=イスラエル人、お役所=国連、周りの住民=パレスチナ人、である。

 もっとも問題はそんなに単純ではない。宗教が絡んでいる。イスラエルのユダヤ人にとってこの土地は神から与えられた“約束の地”。実際にご先祖様が住んでいたのが2000年前であろうと関係ない、それは神が与えてくれたのだから。ユダヤ教の教えなのである。
 一方、そこに住んでいたパレスチナの人々にとって、こんな無茶苦茶な理屈は通らない。別に彼らがイスラム教徒だからというのではない。そりゃ僕だって嫌だ、自分の家に知らない人がやって来て、ここは俺が神から与えられた土地だから俺のものだ、おまえは出て行け、などど言われたら。
 そこで国連がユダヤとアラブの線引きをしたのだった。

 その後のイスラエルとパレスチナの抗争はご存知の通りである。何度もの争いを繰り返した後、漸く2003年の中東和平へと漕ぎ着けた。このときの指導者がイスラエルはシャロン首相、パレスチナはPLOのアラファト議長。しかし、この二人はもう表舞台にいない。アラファト議長はおととし亡くなり、シャロン首相は1月に脳卒中で倒れた。
 こうした中、パレスチナではテロ組織とされるハマスが政権を取り、イスラエルでは28日に中東和平を左右する総選挙が行われようとしている。

 ハマスの躍進はアラファト率いる与党ファタハの腐敗によるところが大きい。海外からの支援金の多くがファタハ幹部に流れていたようだ。貧しい人のために慈善事業を行うハマス、自分たちの土地を取り戻すためにイスラエルと戦うハマス。他人からテロと言われようと彼らにとってはジハードである。これがハマスがファタハを破った大きな理由である。

 このパレスチナの問題、僕にはどちらが正しいのかわからない。ただ互いに殺し合うことだけはもう止めて欲しい。シャロン首相は元々は超タカ派、パレスチナに対する強硬派だった。その彼が中東和平を推し進めようとした。超タカ派である彼だからこそ、弱腰と非難されることなく、和平の道を選べたとも言える。同じことをハマスにも期待したい。

タクシン政権の行方、更に・・・・

2006-03-16 21:24:07 | 海外で今
 今日の新聞で「タイ風のピープル・パワー」という記事を見た。ご存知の方も多いと思うが、タイではタクシン首相一族が20億ドルもの巨額の株式売却益を得ながら税金逃れをしていたことが判明したのを機に、首相辞任を求める大規模なデモが発生している。その数10万人以上とも言われる。先々週フィリピンのピープル・パワーの話を書いたが、記事はフィリピンに倣ってこのタイトルにしたのであろう。

 「タイ風」というのは次のようなことらしい。2万人の警察官が待機しているものの何のトラブルも発生していない。デモ隊の中にはゴミ拾いをしている人もいる。そのゴミ拾いの人はインタビューに、ここに集まっている人間は間違いを正すために各自自分のできる範囲でデモに協力しているのだと答えた、等々。さすが、敬虔な仏教徒の多い、微笑みの国といわれるタイだけのことはある。

 しかし「タイ風」はこれだけではない。私がこの記事の続きを書いてみたい。

 仏教以外にもタイの国民が敬愛してやまないものがある。王室、特にプミポン国王である。国王は今年の6月で即位60周年を迎えるが、名君の誉れ高く、国民から慕われている。タイは1932年に立憲君主制に移行したが、その後20回近いクーデターを経験するなど政治的には極めて不安定な国である。が、国情は極めて安定していた。なぜか。それは王室の存在である。扇の要というか、元がしっかりしているので、たかが首相の一人や二人変わろうと(?)ビクともしなかったのである。
 近いところでは92年の軍事クーデター。このときは軍が反対するデモ隊に発砲し死者44人が出る流血事態となった。この騒ぎを収めたのはプミポン国王である。軍の司令官や批判派の政治家を呼び、話し合いによる解決を求めた。国王の勧告を受け入れ軍の司令官は首相を辞任し、総選挙の結果、文民政権が誕生したのであった。
 今回の騒動も、最後に国王が動くかどうかは別にして、じき収束するであろう。尊敬するプミポン国王の即位60周年という記念すべき年を汚すわけにはいかないのである。

 更に続きがある。

 では、もしプミポン国王が亡くなられたらタイはどうなるのだろう。実はこの方が大問題なのである。以前タイで聞いた噂だが、皇太子は、離婚はするは、どうも出来が良くないらしく、国民の人気もあまりない(注:イギリスの話ではありません、タイの話です)。立派すぎる親を持った子の不幸かもしれないが、国王ともなるとそれでは済まされない。早くタイの政情が安定することを願う。

ミャンマーは身近な国?

2006-03-09 22:25:59 | 海外で今
 民主化の遅れや人権問題からミャンマーが孤立化の度合いを深めている。昨年の終りからのミャンマー関連のニュースを整理すると次の通りである。
 11月 首都機能移転(ヤンゴンからピンナマへ)発表
 12月 国連事務総長ミャンマー担当特使ラザリ氏、任期切れに伴い辞任(その後後任決まらず)
  1月 ASEANからの民主化視察特使サイドハミド氏の受け入れ拒否
  2月 中国とエネルギー、資源開発での協力強化
  3月 インドネシア・ユドヨノ大統領訪問、民主化促進へ支援を表明

 軍政を敷くミャンマーは、民主化運動指導者ア・ウン・サン・スー・チーさんの自宅軟禁問題など、国際社会から非難を受けている。その中で、人権問題に無頓着で、かつ、エネルギー資源獲得に貪欲な中国が擦り寄っている、という図式である。ASEANではマレーシア、インドネシアがミャンマーの民主化問題で強硬派と言われ、因みに上記のラザリ氏、サイドハミド氏はともにマレーシア人である。マレーシアの面目は丸潰れだが、一方でユドヨノ大統領のミャンマー訪問が実現したことは大変喜ばしい。民主化への変化に繋がることを願う。

 以前、仕事でミャンマー人のアテンドをしたことがある。皆、人の良い、好感の持てる人達であった。彼らは敬虔な仏教徒である。日本人も同じ仏教徒であるが、信仰の強さというか、日々の生活への浸透度が大きく異なる。政府関係の人間なので、皆、軍に所属していたが、彼らと軍政ミャンマーとはまったく結び付かない、程遠い存在のように思えた。ある意味、国家の強大さに対する個人の圧倒的な無力さを感じた。

 彼らとは食事を一緒にしたり、工場の見学に行ったり、そして京都観光にも行った。一緒に過ごした中で驚いたことを二つ紹介したい。一つ目、グループのリーダー(空軍の大佐クラス)は、アメリカ空軍でトレーニーを受けた人間だった。ミャンマーは1988年民主化運動により社会主義政権が崩壊し、翌年のクーデターで軍政に移行したが、彼がトレーニーを受けたのはおそらく軍政の初期であろう。中国に近いミャンマーの軍事的重要性からアメリカが梃入れしていたのだと思う。アメリカの世界戦略の奥深さを感じる。
 二つ目、そんな彼から金箔をもらったこと。勿論それは高価なものではない。彼から、ブッダに祈りながら金箔を体の悪い所や痛い所に張れば治る、と真顔で言われた。英語を流暢に話す優秀なパイロット、そんな現代的イメージとブッダへの篤い信仰心とのコントラストが面白かった。僕はそんな彼が好きだ。

 ところで、皆さんは上に挙げたニュースをいくつご存知だっただろう。ミャンマーは遠い、関係の薄い国だろうか。
 実は彼らと食事に入った店に偶然ミャンマー人の店員がいた。メンバーの一人と田舎が同じらしく話は盛り上がった。店員の彼女がどのように日本に来たのかはわからない。ミャンマーの民主化が進み、人々がもっと自由に行き来できるようになれば良い。
 しかし、今の状況でも案外身近な国なのかもしれない。