小泉進次郎議員が、先の選挙特番で唐突に「新聞への軽減税率はおかしい。」と言い、話題になっている。
確かに食品と新聞だけが消費税の軽減税率の対象というのは若干奇異な感じがする。ニュースはインターネットで十分と考える人が増えており、50百万部以上あった新聞の発行部数はこの10年で10百万部も減っている。それなのに、なぜ殊更に新聞を食品と並ぶ生活必需品として軽減税率を適用する必要があるのだろうか。
もっとも、個人的にはもう一歩踏み込んで軽減税率自体必要なのかと小泉議員には言って欲しかった。というのは、昨年2月に軽減税率の導入が決められたとき、代替財源の確保以外、問題点の議論を聞いた覚えがないからである。
軽減税率の導入は、国民の増税への抵抗感を弱めるための策に過ぎない。更に言えば、これはひとえに与党の選挙対策である。ポピュリズムであり、そこには理念も何もない。
公明党は、弱者保護のお題目の下、軽減税率の導入を強く主張しており、一方の自民党は、公明党の選挙協力を得るためには導入已むなしとの考えだった。かくして2019年10月の消費税10%への引き上げの際、①酒類・外食を除く飲食料品と、②週2回以上発行される新聞(定期購読契約に基づくもの)に、8%の軽減税率が適用されることになったのである。
この軽減税率、課税の三原則 - 公平・中立・簡素 - に照らして考えると、大変おかしな仕組みである。
まず「公平」の観点。消費増税は逆進性を高める、つまり低所得の人ほど負担が大きくなるというのが、軽減税率導入の最大の根拠となっている。しかし軽減税率は逆進性対策として必ずしも効果的ではない。一つは絶対額の差。高所得者の方が食品への支出額は大きいので、軽減税率導入の恩恵、軽減される金額は、高所得者の方が大きくなってしまう。
また、この議論は「低所得者の方が消費に占める食費の割合(エンゲル係数)が高い」との前提に立っているが、実はエンゲル係数の所得水準による差はあまり大きくない。金持ちだからといって衣食住の食だけ増やすのではなく、衣や住、それに旅行やレジャー、教育等への支出も増やすからである。
例えば、手取り月20万円の家庭と、月100万円の家庭を考えてみよう。エンゲル係数を25%とすると、各々食費は 5万円、25万円となり、よって軽減税率の効果はその2%、1,000円と 5,000円。絶対額は高所得者の方が断然大きい。仮に月100万円の家庭のエンゲル係数が20%だったとすると軽減税率の効果は 4,000円に減る。手取り額に対する軽減税率の効果を考えれば、月20万円の家庭は 0.5%、月100万円の家庭は 0.4%。この程度の差なら、絶対額の違いもあるし、低所得者に税額控除や給付等を実施した方が逆進性対策として有効だと思う。
次に「中立」。テイクアウトや宅配は軽減税率の対象になるが、外食やケータリングは対象にならない。お弁当や惣菜の店、スーパー・コンビニにとっては有難いが、外食業界にとっては由々しき問題である。最近コンビニでイートインが増えているが、これは2年後の軽減税率を睨んでのことかもしれない。特にオフィス街の飲食店にとっては大きな脅威であろう。
また、中小企業にとっては軽減税率に備えたシステム対応への負担も小さくない。
最後の「簡素」についても軽減税率は問題がある。まず対象品目の線引きが難しい。上述の通り、飲食店でテイクアウトや出前をすれば軽減税率となるが、同じ物であっても、それをお店で食べれば軽減税率にはならない。ところが、お店で食べても、それがコンビニで買った物をイートインで食べるのであれば軽減税率になる。不思議な話だ。
もう一つ、「一体資産」というのがある。おもちゃ付きのお菓子や、綺麗な器に入った食べ物など、食品と食品以外のものがあらかじめ一体となった商品をいうらしい。これは一定の条件を満たせば軽減税率の対象になるというが、これまた分かりにくい。
小泉議員が何を思って新聞の軽減税率を採り上げたのかは解らない。聖教新聞を持つ公明党に喧嘩を売っているのか、はたまた公明党の組織票頼みの自民党に活を入れているのか。その真意はともかく、これを機に軽減税率の意味が改めて議論されると良い。
それにしてもポピュリズムというか、政治家の日和見主義は何とかならないのだろうか。
(写真:食べるならテイクアウト?)
確かに食品と新聞だけが消費税の軽減税率の対象というのは若干奇異な感じがする。ニュースはインターネットで十分と考える人が増えており、50百万部以上あった新聞の発行部数はこの10年で10百万部も減っている。それなのに、なぜ殊更に新聞を食品と並ぶ生活必需品として軽減税率を適用する必要があるのだろうか。
もっとも、個人的にはもう一歩踏み込んで軽減税率自体必要なのかと小泉議員には言って欲しかった。というのは、昨年2月に軽減税率の導入が決められたとき、代替財源の確保以外、問題点の議論を聞いた覚えがないからである。
軽減税率の導入は、国民の増税への抵抗感を弱めるための策に過ぎない。更に言えば、これはひとえに与党の選挙対策である。ポピュリズムであり、そこには理念も何もない。
公明党は、弱者保護のお題目の下、軽減税率の導入を強く主張しており、一方の自民党は、公明党の選挙協力を得るためには導入已むなしとの考えだった。かくして2019年10月の消費税10%への引き上げの際、①酒類・外食を除く飲食料品と、②週2回以上発行される新聞(定期購読契約に基づくもの)に、8%の軽減税率が適用されることになったのである。
この軽減税率、課税の三原則 - 公平・中立・簡素 - に照らして考えると、大変おかしな仕組みである。
まず「公平」の観点。消費増税は逆進性を高める、つまり低所得の人ほど負担が大きくなるというのが、軽減税率導入の最大の根拠となっている。しかし軽減税率は逆進性対策として必ずしも効果的ではない。一つは絶対額の差。高所得者の方が食品への支出額は大きいので、軽減税率導入の恩恵、軽減される金額は、高所得者の方が大きくなってしまう。
また、この議論は「低所得者の方が消費に占める食費の割合(エンゲル係数)が高い」との前提に立っているが、実はエンゲル係数の所得水準による差はあまり大きくない。金持ちだからといって衣食住の食だけ増やすのではなく、衣や住、それに旅行やレジャー、教育等への支出も増やすからである。
例えば、手取り月20万円の家庭と、月100万円の家庭を考えてみよう。エンゲル係数を25%とすると、各々食費は 5万円、25万円となり、よって軽減税率の効果はその2%、1,000円と 5,000円。絶対額は高所得者の方が断然大きい。仮に月100万円の家庭のエンゲル係数が20%だったとすると軽減税率の効果は 4,000円に減る。手取り額に対する軽減税率の効果を考えれば、月20万円の家庭は 0.5%、月100万円の家庭は 0.4%。この程度の差なら、絶対額の違いもあるし、低所得者に税額控除や給付等を実施した方が逆進性対策として有効だと思う。
次に「中立」。テイクアウトや宅配は軽減税率の対象になるが、外食やケータリングは対象にならない。お弁当や惣菜の店、スーパー・コンビニにとっては有難いが、外食業界にとっては由々しき問題である。最近コンビニでイートインが増えているが、これは2年後の軽減税率を睨んでのことかもしれない。特にオフィス街の飲食店にとっては大きな脅威であろう。
また、中小企業にとっては軽減税率に備えたシステム対応への負担も小さくない。
最後の「簡素」についても軽減税率は問題がある。まず対象品目の線引きが難しい。上述の通り、飲食店でテイクアウトや出前をすれば軽減税率となるが、同じ物であっても、それをお店で食べれば軽減税率にはならない。ところが、お店で食べても、それがコンビニで買った物をイートインで食べるのであれば軽減税率になる。不思議な話だ。
もう一つ、「一体資産」というのがある。おもちゃ付きのお菓子や、綺麗な器に入った食べ物など、食品と食品以外のものがあらかじめ一体となった商品をいうらしい。これは一定の条件を満たせば軽減税率の対象になるというが、これまた分かりにくい。
小泉議員が何を思って新聞の軽減税率を採り上げたのかは解らない。聖教新聞を持つ公明党に喧嘩を売っているのか、はたまた公明党の組織票頼みの自民党に活を入れているのか。その真意はともかく、これを機に軽減税率の意味が改めて議論されると良い。
それにしてもポピュリズムというか、政治家の日和見主義は何とかならないのだろうか。
(写真:食べるならテイクアウト?)