縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
のんびり温泉に浸かり、美味しい魚で一杯。
夢に見た生活を楽しんでいます。

「ひるぜん焼きそば」と鳥取の魅力(?)

2017-05-21 09:01:04 | もう一度行きたい
 僕がゴールデン・ウィークに鳥取に行くと言うと、周りから鳥取は砂丘しかないでしょ、とよく言われた。恥ずかしながら、僕も行く前はその程度の認識しかなかった。
 しかし、実際行ってみると、全然そんなことはない。魚は美味しいし、鳥取和牛は最高。三朝(みささ)や皆生(かいけ)など、温泉にも恵まれている。特に三朝温泉が良かった。そして、大山(だいせん)や「ひるぜん焼きそば」で有名な蒜山高原などの美しい自然もあれば、米子の隣には日本庭園で有名な足立美術館がある。
 もっとも足立美術館があるのは、米子の隣と言っても、島根県安来(やすぎ)市である。だから他は皆鳥取のガイドブックに載っているが、足立美術館は載っていない。

 三朝温泉から皆生温泉へは蒜山高原と大山を経由して行った。お昼は当然ひるぜん焼きそば。目指すお店は『悠悠』。焼きそばは勿論、鶏のからあげが美味しいと評判の店である。
 お店には11時前に着いた。案の定、人が大勢いる。待つこと40分、漸く店に入ることができた。ただ待つのはあまり苦にならなかった。外にメニューやお店のエピソード等が掲示されており、見て時間をつぶせるからだ。それにスマホで待っている組数や待ち時間の目安をチェックすることができ、おかげで近くのスーパーを見ることもできた。

 さて、僕らは二人で“ひるぜんの焼きそば大盛”、“とりの唐揚げ10個”それに“風のシルフ”(地元の山葡萄の炭酸飲料)を注文した。そうそう、地元の名水・塩釜冷泉の水(注:水道水のこと)も忘れてはいけない。
 まず“とりの唐揚げ”が来た。で、でかい。一人5個か、食べ切れるだろうか、などと殊勝に思ったのは最初だけ。地元の大山鶏のもも肉だと思うが、とてもジューシーで、それでいて皮のパリッとした感じも残っていて、本当に美味しかった。当然難なくクリア。さすが、グランプリ金賞(但し、外の掲示によれば、このグランプリには金賞が複数あったほか、さらにその上に「最高金賞」があったとのこと)。

 これに対し、本当に優勝したのが ひるぜん焼きそば。見事、2011年、第6回B-1グランプリで優勝を飾っている。
 ついに“ひるぜんの焼きそば”が登場。結構量がある。唐揚げの後で全部食べられるか不安だったが、こちらもまったく問題なかった。
 ひるぜん焼きそばは、ソースではなく味噌だれ。味が濃いかと思いきや、思ったよりあっさり。具は蒜山高原のキャベツと若鶏の肉のみ。親鶏の肉を使う店が多いらしいが、『悠悠』は食べやすさを考え軟らかい若鶏を使っているそうだ。またタレの味も子供のことを考え、やや甘めに。お客様にやさしい、今風に言えば“お客様ファースト”の店なのである。
 麺は地元の製麺所が作るコシの強い太麺。塩釜冷泉のおかげもあってか、麺もまた旨い。途中で焼きそばに変化を求め、一味をかけてみた。すると一瞬にして“大人の焼きそば”に。う~ん、ビールが欲しい!車で来ているのが恨めしい。
 地元素材の美味しさがぎゅっと詰まった“ひるぜんの焼きそば”は、地産地消の模範といえる。他所で同じレシピで作ることはできても、やはりこの味は地元でしか出せないだろう。

 ところで、蒜山に行って気が付いたが、なんとここは岡山県だった。鳥取のガイドブックに載っていたので、蒜山は鳥取県だとばかり思っていたが。
 足立美術館だけでなく蒜山高原も他県か。やはり鳥取で見るべきものは砂丘しかない? いや、そんなことはない。美味しい食材、心も体も癒してくれる温泉、美しい自然がある。それに他県の名所に気軽に(知らずに?)足を延ばせるのも鳥取の魅力の一つだ(としておこう)。

日本一のスナバ、鳥取砂丘

2017-05-20 11:44:06 | もう一度行きたい
 あっ、砂で埋まっていく。

 僕は砂の上に座り、ぼーっと砂丘と海と空を見ていた。薄いベージュ色の砂、藍色の海、そして明るく青い空、そのコントラストが本当にきれいだ。いくら見ていても飽きることがない。

 風が強い。砂が風に飛ばされ、僕の足をどんどん覆っていく。僕はふと安部公房の『砂の女』を思い出した。絶対の存在である砂。理不尽な砂との戦い、そして共生。人間の本質というか、その矮小さが巧みに描かれた小説である。主人公が砂の穴に閉じ込められる架空の話なのだが、妙にリアルで真実味のある話だった。途方もない設定でありながら、それでいて読まずにはいられないという意味では、村上春樹と相通ずるものがある。
 安倍公房は庄内砂丘から『砂の女』の着想を得たという。場所こそ違うが、僕は鳥取砂丘に来て初めて『砂の女』の世界を実感できた気がした。崩れる砂の坂でもがく。一歩踏み出すが、登るそばから砂が崩れ落ちて行く。あたかも蟻地獄に落ちたアリのようだ。

 鳥取砂丘に来るのはこれで2度目。もっとも前回はタクシーで砂丘の入口に来ただけ。車から降りたものの滞在時間はほんの2、3分。鳥取に来たからにはと、空港に行く途中、無理に立ち寄ったのであった。曇っていたし、日本海の見える“馬の背”という小高い丘には登らなかったし、正直、何の感動もなかった。
 が、今回はまったく違う。抜けるような青空の下、素足で砂の上を歩き、“馬の背”に登って海を眺めた。強い風のおかげで風紋を見ることもできた。風が砂で作る波模様である。そして見渡す限り広がる砂、砂、砂。とても日本とは思えない光景だった。

 欲を言えば、もう少し人が少ないと良かった(まあゴールデン・ウィークに行ったので文句は言えないが)。混むことを見込んでホテルを早く出発、8時半過ぎには砂丘に着いた。が、それでも車を停めるのに一苦労。僕らは元々関心がなかったから良いが、ラクダに乗るのも記念撮影するのも長蛇の列だ。砂丘の後に行った“砂の美術館”も大混雑。都内の人気の美術展のようだ。11時過ぎに帰る頃には道路が渋滞していた。

 以前鳥取県の平井知事が「鳥取にスタバはないが日本一のスナバ(砂場)はある」といって話題になった。今では鳥取にもスタバができたし、地元業者がシャレで作った“すなば珈琲”もある。“すなば珈琲”は結構な観光名所になっているようだ。
 日本一の砂場、鳥取砂丘の絶景に圧倒された後、“スタバ”にしろ“すなば”にしろ、コーヒーを飲みながら余韻に浸るのも良いだろう。因みに僕らは倉吉まで車を走らせ、地元ご自慢の牛骨ラーメンを食べ、その余韻を(何の?)味わった。

しゃぶしゃぶのルーツをご存知ですか? ~ 鳥取『たくみ割烹店』

2017-05-09 00:36:04 | もう一度行きたい
 しゃぶしゃぶの元は「シュワンヤンロウ」という北京の羊鍋。羊ということは、そう、さらに遡れば、ジンギスカンと同じモンゴルの料理だ。
 この「シュワンヤンロウ」を日本に伝えたのが、『たくみ割烹店』の創業者、吉田璋也(よしだ しょうや)。戦後間もなく、京都・祇園の『十二段家』が始めた「牛肉の水炊き」がしゃぶしゃぶの元祖と言われる。すき焼きは明治の初めに誕生しており、しゃぶしゃぶも同じ頃かと思いきや、思いのほか新しい。そして『十二段家』に「シュワンヤンロウ」を教えたのが吉田なのである。
 吉田は昭和37年に『たくみ割烹店』を開き、自らも特製だれを使ったしゃぶしゃぶ、「鳥取和牛すすぎ鍋」を始めた。こうした経緯から『たくみ割烹店』はしゃぶしゃぶの元祖(あるいは本家?)に連なる店だと考えられる。

 因みに、“しゃぶしゃぶ”という名前は大阪『永楽町スエヒロ本店』が考えたものである。商標登録もされている。ただ登録は“肉のしゃぶしゃぶ”や“スエヒロのしゃぶしゃぶ”といった形であり、よって“しゃぶしゃぶ”は誰でも自由に使うことができる。“しゃぶしゃぶ”の普及を願った、粋な計らいと言えるだろう。

 さて、先日初めて『たくみ割烹店』に行って来た。勿論食べるは「鳥取和牛すすぎ鍋」。某飲食店情報サイトによれば、すすぎ鍋のコースは肉の種類で普通と特選があるとのこと。滅多に食べられるものではないので、若干お高いが特選に決めていた。
 が、お店でメニューを開いてびっくり、コースは3つあった。なんと特選の上に極上があった。値段もさらにお高い。特選がリブロースで極上がサーロインと書いてある。ステーキならいざしらず、しゃぶしゃぶならリブロースで十分と思い、初志貫徹、特選をお願いした。
 まず前菜や野菜、そして特製のつけだれが出された。ごまだれと言いつつ、やや黄色い。ラー油が入っているからだという。ポン酢だれはなく、ネギやもみじおろしもない。あとは肉を待つのみ。
 ついに肉が運ばれてきた。美しい。明るく鮮やかな紅色。サシもきれいだ。肝心の味はどうだろう。肉をしゃぶしゃぶ、もとい熱い出汁でさっとすすぎ、口の中へ。あっ、肉がとろける。口いっぱいに肉汁が広がる。甘い香りが残る。う~ん、こんなに美味しいしゃぶしゃぶは食べたことがない。このコースの名前は“悦”というが、その名の通り、僕は心底悦に入った。

 ところで、和牛には三つの系統がある。兵庫県の但馬系、島根県の糸桜系、そして鳥取県の気高系である。今ある全国のブランド牛のほぼすべてが、この三つの系統の掛け合わせによって生まれている。つまり、鳥取県は和牛のルーツの一つなのである。
 気高系というのは、昭和41年の第1回全国和牛能力共進会(5年に1度開催される和牛日本一を決める大会)で1等賞に輝いた雄牛・気高号の血統をいう。鳥取和牛は総じてオリーブオイルの主成分であるオレイン酸が高く、口溶けが良いとされる。その中で、脂肪中にオレイン酸を55%以上含有し、かつ気高号の血統を引き継ぐ牛の肉だけが「鳥取和牛オレイン55」と命名され、ブランド化されている。僕が食べたのはこの「オレイン55」のリブロースだったのである。どうりで旨いわけだ。

 よ~し、お腹も結構一杯になってきたが、折角なのでもう少し肉を食べよう。もう繊細な違いは分からないだろうから肉は普通の肉にしておこう。僕は“悦”の下の“福”コースの肉を追加でお願いした。

 肉が来た。言葉を失う僕。見るからに全然違う。色は暗い紅色というか紫に近い。サシもきれいに入っていない。味も押して知るべし・・・。
 お店の人に聞けば、“悦”は鳥取和牛の最高峰・オレイン55であるが、“福”は鳥取県産の牛のロース肉とのこと。えらい違いだ。注文する前に肉の違いを確認すべきだった。『たくみ割烹店』にいらした際は、是非“悦”以上の肉を召し上がって頂きたい。僕に最後に福は来なかったが、皆さんは“福”を頼まず、最高の福が訪れますように。