AKILA's えgo

気まぐれに、ドラムや音楽の気になった事上げとります。

その荷を下ろして

2024-11-18 03:01:47 | ノンジャンル

暦の上では昨日、一人のプロレスラーが、引退となった。

プロレスリング NOAHの、齋藤彰俊。

34年のプロレスキャリアで、闘魂三銃士より少しだけ下の世代。
彼についてのバイオグラフィーは、色々なところに上がっているからココでいちいち振り返る必要は無いだろう。

オレがハッキリと知る様になったのは、彼がNOAHのリングに上がってから。
リーゼントに背中のタトゥー、目つきの鋭さは他のレスラーと比べても印象的だった。
リング上での試合構図は、ヤンキー対レスラーといった具合にも映り、一つ一つの攻撃がオラオラな感じにもやはり見えた。

そう映ったのは結局、齋藤というレスラーがいかにリング上で自身を見せるかに徹底していた、当たり前の言い方だが本気度を周囲に伝播させる事に長けていたという事であったんだなと今になって思う。

でも、
彼の存在がより浮き彫りになったと感じたのは、やはり三沢光晴の最後の対戦相手となった事。

齋藤が放ったバックドロップに対して、三沢が上手く受け身をとれず、容体が急変。
緊急搬送されたが、そのまま息を引き取った。
2009年、6月13日の事である。

当時のオレは、その数年前から格闘技系の情報を追ったりする事をやめていて、プロレスに対する関心も離れていた。

そんな中で、三沢の死は衝撃的で、あの時に完全にプロレスへの興味は絶たれた。
試合中の事故死というのを知った直後は、対戦相手は誰かとか原因もそれ以上耳にしようとも思わなかった。

そこから少し経って、齋藤の放った技によって亡くなったという事実を知った。

当時、彼に対しての誹謗中傷は途轍もなかったと聞いている。
一つの事実としては、仕方ない事だと思う。
三沢という稀代のレスラーの命を絶ったという事実は、計り知れない程大きい。
最初は感情に任せて、彼に思いやりのない言葉をぶつけた人間も相当数居ただろうというのは想像に難くない。

でも、アレは事故であるというのも事実。
齋藤が、三沢に文字通りに引導を渡してやるなどとは微塵も思ってはいなかった筈。
そこを理解しているファンも当然当時から居たワケだし、後から事実を知ったオレとしても、彼を一方的に悪者に見る事はできなかった。

この4年間で、またちょくちょくプロレスを見る様になったが、その時に気になったのは、齋藤の存在だった。
「三沢が亡くなった原因は、齋藤のバックドロップによるもの」という情報以降から10年以上、プロレスの興味が湧かなかった為、気にかけていなかったが、再びプロレスに興味を持つ様になってNOAHを見だしてから思い浮かんだのは、「齋藤ってどうなったんだろう?」という事。

昨日に至るまで現役レスラーとして活躍していて、自身の試合が無い時は実況席で解説もしているという仕事ぶりを見た時、妙にホッとしたのを覚えている。

しかも、リング外での彼はとても穏やかで知識人であり、リング上とのギャップにもちょっと面食らった。

だからこそ、この15年間、よく続けてこれたと思った。
よく、耐え抜いたな、と。

普通の人であれば、あんな惨劇が起こったら、折れてしまっても仕方が無いと思うし、最悪自決する行為に及んでしまっていても不思議じゃなかった。

でも斎藤はそうしなかった。
「全部自分が受け止める」と、言い切った。

ここまで耐え抜ける人格者であったのも、皮肉でもあると思うが、三沢の死に直面したからであろう。
一度契約上の理由で退団する事になったが、その後またNOAHに戻ってきた事も、三沢の死から逃げるつもりは無いという思いがあってこそだろう。

齋藤の思う、三沢への約束が果たせたと感じたから、引退を決意したという事だが、今回の引退試合で皆が思ったのは、「事故が起こらずにリングを降りてもらう」事だった筈だ。

生きてレスラー人生を全うする事が、何よりも三沢への恩返しになる。
激しい試合をしながらも、一方でコンディションには相当気を使ってきただろうと思う。

オレが知る限り、現役レスラーでは最も重い十字架を背負ってきた選手だと感じている。
でも、もうその肩の荷を下ろしても良い頃合いだとも思った。

年齢的にも、キャリア終盤であったのは誰もが思っていた事だろうし、三沢も存命であれば61歳で、三沢は既に引退を表明していた可能性だって有り得る。
長く続けれてば良いというものでもなく、齋藤に関しては、今が一番きれいな去り時だったと思う。

正直、武藤引退の時より、齋藤引退の方がオレにはくるものがあった。

ここまで本当にお疲れ様でした。

以降は願わくばNOAHの解説者として顔を出してほしいし、続けられる限り、プロレスの世界に居てほしい。

彼もまた、プロレス界の至宝であると、オレは思う。


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