あの頃(舞台)10

2020-04-25 06:43:19 | 日記
啖呵を切って、けつを捲る!

…と、ト書きに書かれていたのを見た時に、きょとんとしてしまいました。

Uに聞いても、

「けつを捲る…って、本当にそのまんまの事じゃない?」



『けつを捲る』

それを20代前半の小娘がやろうとなった時、流石に嫌だろう…と察してしくれて、先輩方が、見えてもいいもの(短パンやスパッツ)を履いたらいいよ。

と、提案してくれました。
先生は、それに関しては「イエス」とも「ノー」とも言ってませんでしたが…、私自身、あきらかにその時代に履いて無かったものを履くのはどうしたものか…と思いました。

褌?

いやいや~💦💦

いきなり褌なんて見せたら、お客様もぶっ飛んでしまいます。

まぁ、先生なら、『何でもいいけど、イメージを壊さない程度に』…と、言うんじゃないかな…と、勝手に判断。

でもね、確かに、客観的に考えても、時代もののお芝居をしていて、いきなり思いっきり現代にしか無いものが出てきたら、醒めるんじゃないかな…と、思ったワケです。

そして、先生は、私を試しているんじゃないか…とも考えたワケです。

そこで、作りました。

時代劇に男の人がけつ捲りをした時に、履いていた…、白のトランクスみたいなやつで、太ももにピチッとしたやつですね。

これなら、あの時代にもあったみたいだし、いいだろう!

『それ女の人は履かないよ』

と、言われても、男まさりな私の役柄的には、全く問題無い!

早速、次の稽古で、履いてみました。

啖呵を切った時に、けつ捲り…。

なかなか格好良く捲れませんが、とりあえず問題無かったようでした。

ひと安心。

…と、あっさりと事は進みませんでした。

あの頃(舞台)9

2020-04-24 08:01:11 | 日記
私が演じる役柄は、現代の若い人にはちょっと理解し難い、難しい役でした。

昔、赤線などで働いていて、お金を貯めて旅館を築き上げた豪快な『オネエサン』の役です。

(赤線がわからない人は、ネットなどで調べてみてくださいね。あえて、ここでの説明は控えておきます。赤線そのものも、はっきりと表現されていないので、それらしきもの…という意味合いだと思います)

…どんな風に独特か…というと、男性に負けていない豪快さが必要なんです。

現代では男性に負けない女性は多いと思いますが、私が演じようとしている役柄の女性が生きていた時代は、男尊女卑…、男性が強かった時代なんですね。

そんな中で、男性たちに盾をつくというのは、かなり強気な豪快なオネエサンです。


例えば、
『けつを捲る』

という言葉はご存知ですか?

Wikipediaによると…、「尻(しり・けつ)をまくる」は、そのような状態を指す言葉です。 転じて「威嚇するような態度に出る、居直る」という意味を持つようになりました。 「尻をまくって反撃に出る」などと用います。 また、「尻をまくる」には、「それまでの穏やかな態度を変えて、急に強い態度に出る」という意味もあります。



ーーそうなんです、言葉の通りに、それをやるんです。

しかも着物なのに…です。

男性たちと口喧嘩をして、啖呵を切って、けつを捲るんです💦

まぁ、そうは言っても、もともとは、映画バージョンでの『けつを捲る』なので、見苦しい場合は、人の目に触れる段階では、多少の修正も出来ますが、舞台でのあまりの表現だと、ちょっと…イメージに合わなくなる可能性もあります。

だけど、その頃の私は、コワイもの知らずなので、『やってやろうじゃない❗』という気持ちではいました。









あの頃(舞台)8

2020-04-23 07:46:20 | 日記
稽古は順調だった。

Aも稽古場で静かにしている。

Aは、私を避けているようだった。

ただし、大昔の学園ドラマのイジメシーンのように、地味に意地悪をされているような気がした。

稽古中…肝心な時に、必要な小道具が無い…。

例えば、私が舞台中で使うお盆。

舞台を知ってる人ならわかるかも知れませんが、舞台で使う小道具を私物と間違えないように上手・下手の舞台袖に『小道具置き場』にまとめて置いておく。

だから、紛失はあり得ない。

…なのに、消えていた。

ましてや、必ず使うものだから、どこかへ仕舞うことは絶対あり得ない…。

あわてて給湯室に走って急場しのぎのトレーを持ってきたりした。

また、舞台半ばで、下駄を履くシーンがあった。

稽古前のセッティングで、忘れ物をしないように、メモを見ながら用意していた。

…それが、消えて無くなっている。

セッティングをし忘れるハズは無いのに…。

結局、やむを得ず、裸足で『外へ出かける』という状況となった。

「アンコ!裸足でどうした?!」

先生の怒号が飛んだ。

「すみません💦セットし忘れました」

忘れてなんかいません。つい先日、仲間のMが同じように、草履のセットを忘れたので、かなり意識していた。だから、間違いなく、確かにセットした。

…まぁ、でも、ただの言い訳にしかならないので、自分のミスとして、頭を下げた。

「アンコが下駄をセットしたの見てたよ。」

Uが私に近づいて、ボソッと話しかけてきた。






あの頃(舞台)7

2020-04-22 06:03:35 | 日記
いきなりの先生の登場で、Aが傍若無人なにわか演出をしていたことがバレた。

烈火のごとく怒った先生に怒鳴られ、Aは稽古場を出ていった。

ーーあの流れからすると、もう戻れないんじゃないだろうか…。

しばらくAは、稽古場に現れなかった。

Aの役は、代役を立てて進行していたが…、そのまま代役さんが、本役さんになりそうだ…。

Aは、戻るか辞めるかを決めないとまずい日がやってきた。

舞台監督との打ち合わせで、正式なキャストじゃないと困るという日だ。

先生は、早くから来ていた。



「おはようございます」

Aがやって来た。

荷物を持ったまま、先生のところへ向かい、何度も頭を下げる。

「もういい」

と、先生が合図をすると、Aはこそこそと準備をして稽古場の隅に座った。

そして、Aは、稽古に戻った。

皆は時折ひそひそと内緒話しをする中、稽古は進められた。

今思うと、本当にAは、メンタルが強かったと思う。

そうでもないと、子役からこの世界で頑張って来れないんだろうなぁ…と、思った。

彼女Aは、子役と言っても、本当に小さい頃、有名な女優さんの子供役を演じていた…と聞いただけで、実際見た!という人はいなかった。

むしろ、Aよりも、現在進行形で活躍中の仲間もいたので、過去を振り回すAの存在は、仲間から鬱陶しがられていた。



それからAは、すっかりおとなしくなった。

…かのように見えた。

表面上は、おとなしかったが、

「彼女が、このままおとなしくなるはず無いじゃない!」

…と、思われていて、裏では何かを画策しているんじゃないか…と、仲間も言っていた。



あの頃(舞台)6

2020-04-21 08:21:15 | 日記
「アンコ、立ち止まらないで❗」

「アンコ、そこに並ばないで❗」

Aのにわか演出は度を越してパワーアップしてきていた。

「アンコ、ソコ、振り返らないで❗って言ったでしょ‼わざわざ振り返るのが鬱陶しいのよ❗」

「いい加減にしろ‼️」

先生だ。

いつの間にか稽古場に来ていた。

「A、お前のせいで、混乱している❗」

「いいえ、先生、私は良かれと思って…。」

「お前は、経験がある…。だけど、何を学んで来たんだ?!私の演出をバカにしてるのか❗」

温厚な先生が烈火のごとく怒っている。

Aは、これ以上無いほどに萎縮して、口答えも出来ない。

「出ていけ!」

『出ていけ』とまで言われるとは、そこにいた誰もが思いもしなかった。

Aは、ここで出ていってしまうと、もうこの場所には戻れないんじゃないか…と思ったのが、出ていく様子は無い…。
ただ、ただ、その場で固まっている。

「それじゃ、この前の『場』からはじめる。」

先生は、Aを無視して稽古をはじめた。

そして、稽古場真ん前のディレクターチェアーにどすんと座って、いつもの顔になった。


稽古が始まった。

Aは、一歩も動けない。

このまま稽古を進めると、Aの出番の部分の稽古になる。

…どうするんだろう…。

それにしても、Aがおとなしいと、稽古もスムーズだ。

…Aの出番だ…。

先生の顔色を見ながら、Aは、思いきって出てきた。

「やらなくていい」

先生は、ぼそっとつぶやいた。

かなり怒っている。

Aは、そそくさと引っ込むと、荷物をまとめて稽古場を出ていった。