戦争の話 NO2
【戦時中の淡い思い出】
私は開戦を迎えましたから、10代後半を戦争とともに歩んだこととなります。
時代が違うとはいえ年頃の女の子でしたから、今の若い人と同じように、
恋のようなものもしました。
当時のご時世では普通なら男女が気軽に話しをするなんて滅多にできませんでしたが、
私の職場に毎朝電話を借りにいらっしゃる海軍の下士官さんがいらっしゃて、
職場に一番乗りで出社していた私は、ほんの少しの間ですが、
その下士官さんと二人っきりでお話をするようになりました。
そのうち、その方からお手紙をもらうようになったんです。
時代が時代でしたから、正式にお付き合いをするようなことはありませんでしたが、
その事は戦時中の淡い思い出として大切にしています。
今の若い人には当たり前だったり、何でもないような事だったりする下士官さんとの
ふれあいも、私には今でもとっても大切。
例えば、空襲後の帰り道、汽車が止まってしまったのでぽちぽち歩いて家へ帰っているときに、
偶然、下士官さんと出くわしたときの時のこと。
男女が肩を並べて歩けるような時代ではなかったので、下士官さんが前を歩き、
距離をとってその後ろを私が歩いていくだけのことでも、
なんだか心が明るくなりました。
この時に交わした言葉などありませんでしたけどね。
下士官さんから最後にお手紙を頂いたのは、戦争が激しくなるちょっと前ぐらいだったかな。
「我知らむ心の底に打つ鼓 思いは猛り香りとともに 重き身に香りや高しと聞きつれど
実るとも思えず心許しなし」という内容のものでした。
南方に行かなければいけない とおしゃていた下士官さんが、
この詩の中にどのような思いを込められたのかと考えて読むと、
今でも胸がいっぱいになります。
とても素敵なお手紙でしたから、文面を見なくても今でもこうやってすらすら言えるぐらいです。
しかし、戦時中にお会いできなくなってから、
結局今までこの方がどうしていらっしゃるのか分からないままです。
戦後何十年と経っていますが、お会いしてみたいなと思うことがたまにありますね。
【戦争は絶対にイヤ】
戦争の話 NO3へ続きます。