白洲次郎と小原國芳

 ひと月ほど前に「柳田國男は玉川学園前駅では下車しなかったのか?」と題する小文を書いた(https://blog.goo.ne.jp/gauche7/e/9921ade59467a91612f031dfa17f5d1d) 。その中で、太平洋戦争が始まった頃に、小田急線の成城学園前に柳田國男が、鶴川には白洲次郎、鶴川の隣駅である玉川学園前には小原國芳が居住していたこと、そしてこの三人の間に交流はなかったのか、と書いた。

 柳田國男は成城学園の父兄ではあったが玉川学園の歴史の中には、私が知る限り柳田國男の名前は出て来ない。ならば柳田國男と白洲次郎はと云えば、片や民俗学の大御所、此方は実業の世界にあってかつ当時は無名であったことを考え合わせれば両名の間に交流はなかったことと思われる。では白洲次郎と小原國芳はと思いを馳せた時、月刊NAVI(二玄社刊)に30年以上も前に連載(1987年12月号から翌年11月号まで)された白洲次郎の伝記「日本国憲法とベントレー」の中に、次郎が子息を玉川学園まで迎えに行く件があったことが突然に蘇ってきた。

 私は書棚の奥から、月刊NAVIでの連載後に単行本として改題の上で出版された「隠された昭和史の巨人-白洲次郎の日本国憲法(鶴見絋著/1989年/たまに書房)を探し出して大急ぎでページを繰ってみると、確かにあった。

「終戦直後のぼくは、玉川学園に通う小学生でした」
白洲兼正、白洲家の二男、昭和13年生まれ。
(中略)
兼正の記憶の中の「アメリカ人」が突然、ランドローバーを引き出した。玉川学園のある小高い丘の下(郷秋<Gauche>注:正門池の辺りと思料される)で、時折、このクルマが迎えてくれた。めったに会わない父、次郎が白い歯をみせて、そこにいた。(同書111-112ページ)

 次郎の二男、兼正氏が玉川学園に通っていたのである。さっそく同窓会の名簿で確認すると兼正氏は確かに玉川学園小学部と中学部を卒業していた。ネットで検索をかけてみたところ、私もよく知る元玉川学園女子短期大学教授のT氏と同級生であることも判明。更にさらに、令嬢も玉川学園小学部の卒業生であったことも分かった。

 二人の子供を玉川学園に通わせていたとなれば、白洲次郎は当然のこととして玉川学園を訪ね、学園の創設者である小原國芳に会い、その話を聞いていたことであろうか(あるいはそれは妻、正子の役目であったかもしれない)。しかし、先の「隠された昭和史の巨人~」を読んで知る限りのことではあるが、次郎の性格からすれば、いち父兄として目立たぬよう接していたことは容易に想像ができる。

 白洲次郎は今でこそ「吉田茂の懐刀」「戦後史の中の隠れた巨人」として、また随筆家白洲正子の夫君として知られる存在であるが、当時はまったくの無名であったであろう次郎と小原國芳との間には、先にも書いた通り特別な交流があったとは思えない。しかし、いかに自宅から近かったとは云え子どもを、しかも二人も玉川学園に通わせたとなれば、教育に情熱を傾ける小原國芳の話を聞き感化されたこともあったのではないかと思えてならないのだ。

 終戦の年、柳田國男は70歳、小原國芳58歳、白洲次郎43歳。それぞれ一回りずつ歳が離れかつ立つ舞台は違えども、昭和の巨人三人が小田急沿線に暮らしていたとは、いやが上にも想像力が刺激される話ではないか。

【参考】
柳田國男/日本民俗学の創始者。1951年文化勲章受章/1875-1962/終戦時70歳
小原國芳/最後の私塾創立者。玉川学園園長・玉川大学学長/1887-1977/終戦時58歳
白洲次郎/実業家・貿易庁長官。吉田茂を側近として支える/1902-1985/終戦時43歳

注:本稿は随時加筆修正される可能性がありますことを付記いたします。

 横浜の住宅地の中に残された小さな里山の四季の移ろいを毎週撮影しているblog「恩田の森Now」に、ただいまは3月13日に撮影した写真を6点掲載しております。季節が一気に進んだ森の様子をご覧いただけたら嬉しいです。
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