他人事とは思えない 〜大学の生き残り戦略

 今日の雑文は少々長いです。私立大学・短大の置かれている状況に興味のない方はどうぞ遠慮なくご退出ください。

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 昨日、恵泉女学園大学(東京都多摩市 大日向雅美学長)が2024年度以降の募集を停止するとの報道を受けて、私立大学・短大を取り巻く厳しい状況について少しだけ書きましたが、恵泉の募集停止が他人事(ひとごと)とは思えない郷秋<Gauche>なのであります。

 何故なら、恵泉女学園は間もなく創立100周年を迎えようという1929(昭和4年)設立の私学ですが、我が母校(そして元勤務先)もまた1929(昭和4年)の設立、そして共に小田急線沿線にキャンパスを構え発展してきた学校だからなのです。

 さて、ここでなぜ大学・短大が閉学を避け、生き延び発展し続けなければならないのか、そのためにはどんな手立てがあるのか考えてみたいと思います。

 まず、何故生き延びなければならないのか。私学(私立学校)には建学の精神があり、それに基づく確固たる教育理念を持っています(注1)。そしてその理念に基づく教育により社会へと有為な人材を送り出す責務を持っています。私学であっても公教育の一端を担っていますので、より良い教育と研究を継続し続ける責任を負っている訳です(注2)。
注1:創立から時を経て建学の精神や教育理念が不明確あるいは軟弱になってしまった私学もあるようですが、そのような私学は淘汰されるのもやむを得ないものと私は考えます。
注2:我が国の大学生300万人のうち実に3/4が私立大学で学んでいるのです。

 以下、大学の生き残り策について箇条書き的かつ簡単に記しておきます。
 受験生の増加、ひいては定員充足率向上のために学部・学科構成(内容)を時代の要求にマッチしかつ受験生(とその保護者)が飛びつきそうなものに変えていく努力はどの大学においても行われていることですが、すでに受験者の著しい減少、定員充足率の低下を来している大学においては、これらの改革も余り功を奏しません。以下は、閉学を回避する最後の手段と云うことになります。
 なお、これらは私が大学行政管理学会という学会の会員であった時代に得た知見を基にしておりますのですのでやや古い情報・知見となっている可能性もありますことを予めご承知おきください。
 
1. 短期大学の場合
   いくばくかでも体力のある(入学定員を充足でき、財務内容が健全である)うちに4年制大学に転換改組する。
 ただしこれは20年前までに有効であった手法。現在は多くの短大が体力のない状態であると思われるので4年制大学への転換改組の可能性は少ない。

2. 女子大・女子短大の場合
   建学の精神を共学可能な形に再構築して共学化する。やや手遅れの感もありますが、2023年も2大学が共学化し校名から「女子」を外すようである。

3. 文系・家政系学部のみの女子大の場合
   旧来から女子大の多くは文系あるいは家政系の学部のみを設置していたが、女子にあっても昨今はこれらの学部での学びを希望することが少なくなってきている。改組するだけの体力(良好な経営内容)があるならば、旧来の学部学科をイマドキの高校女子に「ウケる」イマドキ風の学部学科に転換改組する。「ビジネス」「国際」「ICT」「Ai」などがキーワードか。

4. 同一法人に4年制大学がある短大の場合
   短大を4年制大学と統合。可能であれば定員を大学に移行させ新学部・学科として短大を発展的に解消する。短大教職員の雇用は守られ、短大時代の卒業生も統合された大学を母校とすることができる。30年ほど前から多くの法人において実施されてきた手法。

5. 姉妹関係の学校法人がある場合
   設立母体が同一・類似の宗教団体である法人がある場合には体力のある法人と合併し、強み(特色)のある学部・学科を合併先大学の新学部・学科として存続させる。
例1:聖和大学。2009 年、関西学院(同大学)と合併。
例2:聖母大学。2011年、上智学院(上智大学)と合併。
例3:富士常葉大学、浜松大学。2013年、常葉学園(常葉大学)と合併。

6. 単科大学の場合
   近隣の他の単科大学と合併、あるいは強み(特色)のある学部・学科を持たない他大学と合併し、その大学の学部・学科として存続する。当該学部・学科の教職員の雇用は守られるが旧大学名称は消滅する。
例1:共立薬科大学。2008年、慶應義塾(同大学)と合併。
例2:北海道薬科大学。2018年、北海道科学大学(同)と合併。

7. 地方の大学の場合
   地方の中核となる都市以外に所在する大学・短大は小規模の単科大学が多く厳しい経営状況に置かれている法人が多いが、設置者を学校法人から地元自治体を設立団体とする公立大学法人に転換して継続運営する方式である。授業料の低廉化により周辺地域からの受験生も増え大学、自治体双方にとってのメリットがあり近年注目されている方式である。
例1:高知工科大学(2009年、高知県)
例2:長岡造形大学(2014年、新潟県長岡市)
例3:諏訪東京理科大学(2018年、諏訪広域公立大学事務組合)

8. 設置学部学科の重複が少ない同規模の複数大学が対等合併する
   相互に近隣に所在しA大学を設置するA学校法人とB大学を設置するB学校法人の双方が学校法人を解散し共同で新たなC学校法人を設立し、A大学とB大学の学部・学科を継承あるいは整理統合・転換改組したC大学を設置する。メリットとしては両大学の教職員の一定数の雇用を確保することがでること、いわゆる基礎・教養科目を一本化することによる合理化、人員削減が可能なこと、既存の校舎等施設を継続利用することで設置経費の最小化がはかれること、学際的研究の進展が期待できること。
 ただし、新設のC大学の建学の精神、教育理念を新たに構築し教職員に周知徹底、意識改革を促すこと、その精神・理念を反映させたカリキュラムを構築することには相当の困難が予想される。
 この方式に基づく対等合併の例を筆者は現段階では承知していないが、今後増えざるを得ない状況にあるのではないかと思料するところである。

9. 大学・短大としての存続を断念し、大学・短大設置以前の高等学校等設置法人としての経営に立ち返る
   昨日話題にした恵泉女学園がその例。同一法人が設置する幼稚園、小中高等学校部門等の経営が健全である場合には、設置法人の存続を優先させ大学・短大は閉学とする。大学設置法人は文部科学省の管轄だが高等学校設置法人は都道府県の管轄に変更となる。大学・短大教職員の多くは解雇となるだろう。卒業生の立場で見れば、卒業した大学はなくなるが「学園」は存続し、同窓会組織等も継続するものと思われるので心の拠り所を失う寂しさはある程度避けることはできるだろうか。卒業証明、成績証明などの事務は継続する学校法人が取り扱うことになる。

以上

 なお、本稿については随時加筆・修正される可能性があることを予めご承知おきください。


 と云う訳で、今日もまた記事本文とは何の関係もない一枚は、近所の公園の、多分桜の切り株の”うろ”に根を下ろし花を咲かせている連翹(れんぎょう(モクセイ科レンギョウ属)。自然はたくましく、そして美しい。

 横浜の住宅地の中に残された小さな里山の四季移ろいを毎週撮影しているblog「恩田の森Now」に、ただいまは3月19日に撮影した写真を7点掲載しております。春爛漫となった森の様子をご覧いただけたら嬉しいです。
https://blog.goo.ne.jp/ondanomori/e/490e6d2cd78db2d469ca4f9f9de29c8e

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