やすらぎの刻〜道が始まった。
今回も前作「やすらぎの郷」と同じく倉本聰脚本。前作がかなり面白かったので今回もかなり期待。しかも1年にわたって放送されるという。
っていうか最近のドラマは短すぎ。たった10-12回の放送なのに「いよいよ最終章」とかやってるし。NHKの朝ドラや大河とは言わないが、せめて2クールはやらなきゃね。短いのになんやかんや詰め込みすぎになってるもの。
もうすぐ始まる田中圭と原田知世主演「あなたの番です」は2クールやるみたいね。沢口靖子主演「科捜研の女」はシリーズ19作目の人気作品だが、なんと今回は1年続くらしい。いいことだ。
話を「やすらぎの刻〜道」及び「やすらぎの郷」に戻す。
主人公でもありストーリーテラーでもある石坂浩二は脚本家。介護をしていた認知症になった妻で元女優・風吹ジュンの死をきっかけに、以前から誘いを受けていた【やすらぎの郷】と呼ばれる老人施設に入ることを決める。「やすらぎの郷」はテレビの全盛期を支えた人だけが選ばれ入れる老人ホーム。入居料や施設利用費などは一切なしのこの施設は、芸能界のドンと言われた男が私費を投げ打って作った施設。そこには往年の役者をはじめ、テレビの裏を支えた人たちが入居している。そして毎回起こる色々な事件やトラブル・・・。
倉本聰の頭の中を覗いてみたくなるくらいリアルで面白いのよ。物語に絡めて登場人物の昔の写真などもバンバン使われてるので、現実の話なのか作られた話なのかの境がわからない。
前作にも登場した入居者の浅丘ルリ子、加賀まりこ、藤竜也、ミッキーカーチスなどは今回も登場するらしい。今回は橋爪功、大空真弓、いしだあゆみ、笹野高史、松原智恵子なども入居者として登場するらしい。
前作でマドンナ役だった八千草薫は今回も登場するはずだったのだが、肝臓がんの闘病で降板されたらしい。残念だ。4月から始まる上川隆也主演の「執事 西園寺の名推理2」も降板されたそうだ。(代役は吉行和子)
西園寺の奥様役や、やすらぎの郷での九条摂子役(通称:姫)は八千草薫さんにぴったりだった。上品で美しい。若い頃も美人だが年を重ねてもあんなに可愛いお婆さんになれるならと視聴者は憧れてしまうだろう。それだけに降板は残念だが、倉本聰さんは脚本をわざわざ直して5シーンほどだが今回登場するようにしたそうだ。前作のラストで姫は亡くなられてるのだが、どうするんだろう。
そして今回の「やすらぎの刻〜道」では、もう一つのドラマが同時進行する。
それは10年前に石坂浩二が書いた脚本「機(はた)の音」という脚本。浅丘ルリ子の何気ない会話からヒントを得た貧しい山村に暮らす姉妹の話で、終戦記念日の大型ドラマスペシャルとして撮影寸前まで進みながら制作中止になったもの。このお蔵いりになった脚本を元に、石坂浩二の新作脚本「道」が脳内ドラマで再現される。ドラマの中の劇中劇ってやつね。
この「道」は昭和から平成まで80年にわたるストーリーらしい。もう少し後だったら令和までになっただろうね。そして「道」の昭和編で夫婦役を演じるのは清野菜名と風間俊介。清野菜名は前作では石坂浩二が若気の至りの邪な感情をいたいた若き女優とその孫をWで演じてた。この話はドラマ後半の要になり東日本大震災を絡めてかなり考えさせられる内容だった。
「道」の平成編で夫婦役を演じるのは風吹ジュンと橋爪功。前作ラストで亡くなった八千草薫はこの平成編の妻役で出てくるはずだったのだそうだが、代役が風吹ジュン。風吹ジュンは前作で石坂浩二の妻役だったからなんかややこしいが、倉本聰さんのことだ、きっと違和感なく仕上げてくるんだろうね。
っていうか浅丘ルリ子は実生活では石坂浩二の元妻だし、加賀まりこも実生活では石坂浩二の恋人だった人だ。しかも今回新入居者と道(平成編)で夫をWで演じる橋爪功の息子は、前回弁護士役で登場してるが覚せい剤で捕まって途中降板してる。なんちゅうキャスティングだ。
「やすらぎの刻〜道」第一回目の放送では冒頭で簡単に前作「やすらぎの郷」のおさらいが入る。ミッキーカーチスと恋仲になったコンシェルジュ・常盤貴子は別れたそうだ。いかさま麻雀までして財務省官僚のお父さん(柴俊夫)を説得したのにね。今回は常盤貴子は出ないのかな。理事長夫妻の草刈民代と名高達男は出るのかな。
同じく前作で施設内のバー・カサブランカのバーテンダー(通称:ハッピー)役で出てた松岡茉優も今回は出ないみたい。レイプに巻き込まれた松岡の復讐をしようとする施設職員は全員元受刑者だったり仮釈・保護観。だからと代わりに藤竜也・伊吹吾郎・倉田保昭が暴走族のアジトに乗り込んで大立ち回りをするシーンは痛快だった。事件後、気丈に振舞ってた松岡の物悲しい笑顔も印象的だった。後釜は草刈麻有で通称はホッピーだそうだ。なんじゃその安易なネーミングはってツッコミ入れたいところだが、いやまてよ、倉本さんのことだなんか隠しネタがあるのかもしれない。
一見老人たちのドタバタ劇かなって思うけど、ほぼ80%はそう。だけど前作では老人たちも騒ぐ人気俳優を向井理(実は藤竜也演じる通称:秀さんに憧れてる)とか、石坂浩二の孫で財産の生前分与をお願いしにくる山本舞香、清野菜名の彼氏役の若き脚本家で神木隆之介なんかも出てるが、平均年齢は75歳位じゃないかな。
だって風吹ジュン66歳が若く感じるもの。八千草薫87歳、浅丘ルリ子78歳、加賀まりこ75歳、いしだあゆみでさえもう70歳だ。前作に登場してた野際陽子さんは享年81でお亡くなりになられた。(今回第一回目の冒頭ナレーションでも亡くなられたことになってる。)前作で有馬稲子を騙す詐欺師役で出てた津川雅彦さんも享年78でお亡くなりになられてる。これから1年間続くドラマだから、出演者の誰が亡くなられても驚かないな。
前作のドラマ内では高齢者の現実問題になってる、遺産相続や免許返納、健康維持や断捨離とかも描かれてる。風吹ジュンや有馬稲子さんは認知症を患うし、冨士眞奈美はTVから干されて最後は自殺する。実際の大原麗子の孤独死を機にやすらぎの里は作られたという話も妙にリアルで物哀しい。八千草薫さんの死ぬ覚悟、苦しまずに安らか眠るように死ぬことは老人たちの理想だろうね。亡くなられた後に上條恒彦がトランペットで吹くレクイエム(鎮魂歌)が突き刺さる。
太平洋戦争をテレビドラマや俳優の目線から描く。慰問や特攻隊の最後の晩餐、有能な監督による戦意高揚映画作成、そして徴兵なども描かれてる。今回も脳内ドラマ「道」において山梨の山村で暮らす姉妹がどう戦争に巻き込まれていたのかが描かれると思う。これも他の脚本家だと安っぽい「戦争反対」とか「戦争は悲惨だ」って感じになるのだろうが、倉本聰だと違うだろう。楽しみだ。
それは清野菜名が石坂浩二に持ち込んだ脚本「手を離したのは私」(実は神木隆之介作)で、東日本大震災を描いているのにも現れてる。ただ未曾有だった、なすすべもなかった、原発がなければなんて単純な話ではない。そこには確かに人がいたのだ。その誰かと自分は繋がってたりゆかりがあったりするのだ。何もなくなってしまった砂浜で作業着を着た上川隆也が淡々と石坂浩二に語るシーンは思わず涙が出てしまうほどだった。
っていうか若者も是非見て欲しいな。
「これ誰?」とか「なにこの老人」とか知らない人ばかりだろうけど(俺でも半分はそうだ)、昭和のテレビの歴史を知るにはもってこいのドラマだと思うよ。
浅丘ルリ子さんの着こなす毎回違う衣装(あの部屋のどこにそんなに置けるのか不思議だ)もファッション関係を目指す人は必見だろうし、もちろん介護の道へ行こうとしてる人も見ると面白いと思う。
そしてさらに脚本の作り方、構成や人物像の描きかたなどもかなりリアルに描かれてるから、脚本家や作家志望の人も是非見て欲しいな。倉本聰の集大成とも後輩たちへのしるべとも言える作品であることには間違いない。
そしてもう一つの見所は喫煙シーンの多さだ。前作同様周りに人がいようが部屋の中だろうがバーだろうがスパスパ吸ってる。狂信的な非喫煙者による喫煙描写のコンプライアンスがうるさい今、あえて対抗するドラマだ。前作では近藤正臣と居酒屋で飲むシーンで吸ってたのが印象的だ。加賀まりこも浅丘ルリ子も吸う。もちろん石坂浩二も常に吸っている。そして酒も飲む。今回プロデューサー役の柳葉敏郎も吸っている。
NHK大河ドラマの「いだてん」や宮崎駿の「風立ちぬ」なんかの喫煙シーンにクレーム入れる輩よ、昭和のリアルは煙とアルコールだよ。文句言うなって。文句言うたびテレビも映画もつまらなくなるんだからさ。
今でさえ喫煙率20%切ってて、今の若い人は酒も飲まない煙草も吸わないんだから、老人や高齢者が亡くなれば喫煙率も飲酒率は勝手にもっと下がるんだよ。
だからもうほっといてよね。
そのあと足りなくなった酒税や煙草税を何で補填するかは知らないよ。消費税を上げるか所得税で補うか。その時になって文句言うなよ。
やすらぎの刻〜道。
俺は酒とタバコを供にして観る。
好きにさせとくれ。