筆を折るという言葉がある。
作家が「もう書かない(描かない)よ」と宣言した時に使われる言葉だ。
野球漫画の巨匠、水島新司さんが筆を折るそうだ。いや、この場合は筆を置くかな。学がなくてすまん。
昨今、芸能界では「引退します」と言ってたのに知らない間にしれっと復帰してたり、「そんなこと言いましたっけ?」って感じで平気でカムバックしてたりするけどさ(小林麻耶、お前のことだ)。
漫画家の引退宣言てのは珍しいね。ご苦労様でした。
野球漫画といえば、水島新司さんが出てくるまでは根性もので、どこか現実離れしてた。
子供の頃から大リーグ養成ギブスをつけさせられてたり(今なら虐待だと騒がれるな)、分身魔球を投げたりね(真似してゴムボールへしゃげてから投げたよ)。『アストロ球団』なんて長い連載中たった3試合しかしてないのに、毎試合ごとに誰か死んだりするくらいどっかフィクションだった。
巨人の星も侍ジャイアンツも、当時一番人気球団だった巨人(読売ジャイアンツ)がメイン。その中で水島新司さんはあえて阪神タイガースを描いた。
それが『男どアホウ甲子園』。
これも今なら物議を醸しそうなタイトルだが、当時はそんなの誰も気にしちゃいねぇ。
阪神の本拠地・甲子園球場を見て育った藤村甲子園って主人公。投げる時に「ぅぉオオおおおお!」と言う(叫ぶ)。類い稀ぬ投打のセンスで高校野球〜六大学、そしてプロ野球と成長していく。
高校野球ブローカーなる怪しいやつが出てきたり、学校側が陰謀企てて甲子園出場停止に追い込まれたり、この漫画の頃はまだ水島新司さんもちょっと現実離れ。
ドラフトで阪神じゃなく巨人に指名されたらそれを蹴って東京大学へ入学するんだが、カンニングでだ。すごいだろう。できねぇって。しかも中退して阪神に入団する。
『男どアホウ甲子園』の印象的なシーンは、寮かなんかの廊下で、先にあるろうそくの炎を投げた球の風で消そうとするのだが、最後は「ぅぉオオおおおお!」と投げた球が通過すると廊下に面した部屋のドアが全て開くのだ。どんな風圧だ。漫画だからいいのだ。
水島新司といえば『ドカベン』だろうと言われるが、この『男どアホウ甲子園』が少年サンデーで連載してたから、少年チャンピオンで『ドカベン』が連載始まった時は柔道漫画だったのよ。
しかもめっちゃ貧乏。畳屋のおじいちゃんに妹とともに育てられてた(両親はどこへ?)。岩鬼は逆に金持ちね(その後親が倒産して没落)。殿馬とか里中は柔道編ではまだ出てきてなかった気がする。(かなり昔のことなので記憶が曖昧だ)
で、『男どアホウ甲子園』の連載が終わってから、晴れて野球漫画に転向。中学編(柔道編)が終わり高校編(野球編)になったが、柔道時代のライバル、影丸や雲竜も野球に転向して登場してた。
でもこの頃はまだフィクションが入ってたね。
元ピアニスト殿馬くんは秘打「白鳥の湖」「G戦場のアリア」「黒田節」などから、さらに秘走「運命」とかよくわからんものやってた。彼がピアニストとして指の短さを克服するため指間の皮を切ってたのはちょっと衝撃だった。
ドカベンにも根性・スポ根体質が残ってたね。
明訓高校の野球部監督・徳川さんは「酔いどれノック」「ごぼうぬきノック」というスパルタ教育だ。今なら「しごき」だの何やかんや問題だ。
神奈川県大会予選で南海権左のいる吉良高校ってとこと対戦したチームが熱中症で試合放棄するのだが、そのチームの監督が「あまり水を飲むとバテるぞ」と言ってたことは覚えてる。当時はそれが常識だったのよね。あのころ根性論をぶちまけてた体育の先生は、すべての卒業生に謝れよなって思う。
人気の高いライバル・白新学院の不知火。
彼は最初片目が義眼って設定だったのだが、ただ単に角膜の障害って変わって父親からの移植で見えるようになった。彼は庇に切り込みの入った野球帽を深めにかぶり右目だけで見てたのだが、移植後もキャラ設定のためかそのままだ。ちなみに「白新学院」も知らない間に「白新高校」に変わってた。
彼こそ「明訓(ドカベン)さえいなければ・・・」の一人。5回県予選で明訓と対戦し全て接戦で負けている。甲子園に出れてない悲劇の投手だ。
一番印象的なのは2年の夏。2試合連続のパーフェクト(完全)試合を達成し、三回戦で明訓高校と対戦。9回終了までパーフェクトピッチングだが、白新も里中にノーヒットに抑えられる投手戦。延長戦に突入し、ここで「ルールブック盲点の一点」を取られ敗退する。
この時の不知火の「俺は負けてない。俺は勝った。なのになぜ・・・なぜ点が入ってるんだぁあああ」は悲壮すぎる。
まさかこの盲点ルールが、実際の野球の試合で使われた時はさらにビックリした。2012年の甲子園2回戦、そして2019年秋田県大会決勝だ。覚えてる人も多いかもしれない。
俺の好きなキャラの一人、大阪通天閣高校の阪田三吉。通天閣打法でめちゃくちゃ高いフライを打ち上げ、その間にベースランニングする。目測を誤りキャッチングに失敗した時にはすでにホームインしてるという打法。
ドームなら天井に当たってしまうから打ってもしょうがないが、甲子園なら可能というバカバカしい打法だが、当時アッパースィングで真似したよ。
彼は地元大阪で、野良犬に石をぶつけて気絶させてコントロールと球速を鍛えてた。連載時はその気絶した犬は近所のがめついババァに売っていた。「えぇ赤犬やな」「2000円やな」「がめついなぁ」ってね。
それが単行本になってる今は「危ないとこやったな保健所に連れて行かれるとこやで」に変わり、「2000円やな」とお金渡すシーンは「これで犬の餌買うてきたって」「へっ気前のええこっちゃ」に変わってる。今だと何かと問題あるんだろうね。
もう一人、土佐丸高校の犬飼三兄弟、長兄の犬飼小次郎は不知火のようにクールで、さらにワイルド。闘犬の牙を研ぐヤスリで、スパイクの歯を磨く(昔はスパイク部分が金具の刃のようになってた)。スライディングの際に野手を傷つける殺人スパイクって、今ならこれ一発アウトだけどさ。
ドカベンもいいけど、『あぶさん』も名作だ。
地方に講習に行くと、先々で地元の美味しい店に連れて行ってくれたりするのだが、大阪から来たというのがわかると必ず「大阪でしたらやっぱり阪神ファンですか」と言われる。
阪神は大阪の球団ではない。本社は別として、甲子園球場は兵庫県だ。最初はギャグのつもりで「いえ。PLファンです」とか「浪商と北陽です」とか言ってたのだが、ただの高校野球ファンと勘違いされることも多かったのでやめ、「大阪ですので近鉄と南海。と断言するようにした。
残念ながら今はどちらの球団もない。近鉄はオリックスに、南海はダイエー〜ソフトバンクに変わった。
本拠地は日生球場と藤井寺球場。どちらもガラガラでゆっくり見れた。日生は専門学校帰りにね、藤井寺は外野席(芝生)で寝転がってラジオ聴きながらね。
そんな南海ホークスを描いのが『あぶさん』。
酒を愛し、呑んだくれの景浦安武が主人公の野球漫画だ。しかも実名でかなりプロ野球選手が登場する。アニメ化はされてない。っていうか権利とか許諾の関係できないんだろう。
その酒場で呑んだくれてたあぶさん・景浦安武を南海にスカウトしたのが岩田鉄五郎。
『野球狂の詩』で「にょほほほほ〜」と老体に鞭打ちながら投げる東京メッツの左腕のピッチャーだが、『あぶさん』では南海ホークスのスカウトになっている(景浦の高校野球時代の監督でもあるみたい)。
彼が東京メッツのドラフト一位に指名したのが水原勇気。女性初のプロ野球選手。現実では未だセ・パ24球団には存在しないが、ジェンダーフリーの昨今、アメリカメジャーリーグが登用したら、日本の球団も動く気がする。
あぶさんの景浦は連載途中からDH、そして代打専門になったのだが、東京メッツの水原勇気は1球ストッパー。勝ち試合の9回2アウト2ストライクからの1球限定。
よく考えたら「それはおいしいとこだけ持ってくだけでは」って感じだが、その決め球は「ドリームボール」と異名をとる。漫画でもどんな球なのかよくわからない。
ただ印象的なのは、ドリームボールの完成度を上げるために、トレーニングにボウリングを取り入れたところ。おかげでこの頃ボウリングに行くと、水原勇気が頭によぎって仕方がなかった。ちなみに彼女は単行本10巻からの登場だ。
って書き出したらだらだらと長くなってしまった(それはいつものことだが)。
男どアホウ甲子園、ドカベン、あぶさん、野球狂の詩、どれも鮮明に思い出せる。
しかし、『あぶさん』は107巻完結だが、最後の方はもう読んでないのでラストどうなったのか知らない。
『ドカベン』は「大甲子園」までで、その後の「プロ野球編」「スーパースターズ編」「ドリームトーナメント編」は飛び飛びでしか読んでない。里中が誰と結婚したのかもよくわかってない。
累計205巻ってことは単一タイトルだったら亀有両さんより長編だな。まぁすぐ後ろにゴルゴ13が控えてるけどね。クッキングパパもいるね。
画業生活63年。
長い間、お疲れ様でした。ありがとう。
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