NHKテレビがいまスペシャル『“中流危機”を越えて』を流している。NHKテレビは、一昔前にみんなが中流であったかのように言っている。そんなことはない。
私が子ども時代は、中流とは、持ち家があって、お手つだいさん(女中)がいて、奥さんは働く必要がない家庭を言った。多くの人はそんなことはなかった。「一億総中流」と言うのは、政府寄りの太鼓たたき(卑屈な高学歴のウソつき)だけであった。
そもそも日本人の生活レベルが低かった。町の裏通りは舗装されていなかった。私の家は持ち家で表通りにあったが、風呂と水洗トイレがなかった。友だちの家の多くは、掘っ建て小屋か、借家、長屋、間借りであった。私の住んでいた町は、県庁所在地だが、アメリカ軍の空襲をまぬがれている。それでも、立派な持ち家に住んでいるの人はわずかであった。
日本人の少し生活レベルが上がったのは、1980年代になってからである。それでも、今の中国人の生活レベルか、それ以下である。安い労働力を使って、アメリカに消費財をガンガン輸出して、アメリカとの経済摩擦を起こしていたのである。そして、日本はナンバーワンなどと自惚れたことを言い、日本的経営スタイル、終身雇用制を、太鼓たたきは誇った。
終身雇用制を誇った日本の経営者が、いま、終身雇用制が日本の競争力をそいでいると言っている。おかしくないか。自分の経営の失敗を労働者のせいにしている。
割と知らない日本人が多いのだが、アメリカには定年制という考えはない。よく考えれば、終身雇用でないから定年がないのはあたりまえである。引退する時期は自分で決める。しかし、自己責任と競争を前提とするから、自殺者が多い。アメリカの雇用体制が良いとは、いちがいには言えない。
また、新聞が宏池会をハト派であるかのように言っているが、それも注意が必要である。宏池会の創始者の池田隼人は、国民に貧しい人は麦飯を食えばよいといった男である。
池田は所得倍増計画で記憶されているが、その骨格を作ったのは、前任者の岸信介である。岸は、東条内閣の商工大臣として戦時経済体制(統制経済あるいは計画経済体制)を遂行した人である。このときの記憶が、いまなお、経済産業省に生きていて、企業合併が国策としてすすめられている。
ハト派というのは、軍事はアメリカに依存し、国力を経済強化に注ぐという党派のことである。そこには、貧富の差をなくすとかの発想はまったくない。労働者を経営者に従順にするために「日本的経営」をおし進めたのである。
1980年代から1990年にかけて、株や土地のバブルが起きて破裂したことが、「一億総中流」が昔あったという、間違った記憶を生んだのではないか、と思う。バブルにみんなが恩恵にあずかったわけではない。バブル期に、日本の銀行や不動産業が暴力団を雇って、土地の買収(地上げ)を進めた。多くの企業の経営者が財テクと称して、株や土地を売買にのめり込んで、企業の国際競争力を弱めた。
NHKが、日本のバカ経営者、官僚におもねって、歴史認識を間違えるような番組をするのをやめてほしい。