もう、真夜中をすぎて、きのうのことになるが、福島第1原発のトリチウム(3重水素)汚染水を沖1000mの地点に2回目の放出を始めた。これまで幾度もブログに書いてきたが、問題は、放射能汚染水を薄めれば、人類共有財産の海洋に放出して良いのか、ということである。薄めれば良いとなれば、海洋は毒物の捨て場になってしまうから、捨ててはいけないを原則とすべきである。
本当のところ、海洋に捨てなくても、汚染水を大規模な埋設タンクに貯めるとか、地中深く注入するとかの方法があるのだ。
この点が論じられれずに、薄めれば安全である、海洋放出に反対する者は非科学的だ、中国に味方する非国民だ、と言われると、私は腹が立つ。
3重水素(トリチウム)は、放射線のベータ線(電子)を放出して、質量数3のヘリウムに転換する。3重水素の半分が、12.32年で、質量数3のヘリウムに崩壊する。
いっぽう、降り注ぐ宇宙線によって、大気の上空で、たえず3重水素が作られるので、崩壊する3重水素とのバランスで、自然な状態では、雨水には、1リットル(L)あたり、0.1ベクレル(Bq)の3重水素があると想定される。これを0.1Bq/Lとかく。
Bq(ベクレル)という単位は、1秒間に1個の崩壊が起きるに要する放射性原子核の個数をさす。
じつは、50年前、アメリカ、ソビエト、中国が頻繁に核実験を行ったため、大気中に大量の3重水素が作られた。大気圏核実験をやめた現在でも、関東では、雨水中0.5Bq/Lの3重水素が検出されている。
東電の海洋放出計画では、タンクのトリチウム汚染水を100倍の海水で1500Bq/Lに薄めて放出するという。じっさいには、8月24日に始まった1回目の放出では800倍の海水で200Bq/Lに薄めて放出した。きのうの2回目の放出でも800倍の海水で200Bq/Lに薄めていた。
100倍の海水とは、コップ1杯(200mL)の水を2Lのペットボトル10本の海水で薄めることになる。800倍となると、ペットボトルの80本の海水で薄めたことになる。
それでも、自然の状態0.1Bq/Lより、はるかに多いトリチウム水、1500Bq/L、200Bq/Lを放出していることなる。自然環境を明らかに破壊している。
現在、東電や日本政府は、福島近海でトリチウムが検出できていないと主張するが、これは、1つは、検出装置の精度が悪いのと、もう1つは、トリチウム水の拡散の速度が遅いからである。しかし、これから毎年22兆Bqと大量に放出していくから、確実に海洋は汚染されていく。
東電と日本政府の主張には、十分に薄めている以外に、福島第1原発沖以外でもトリチウムを大量に放出している、がある。「みんなで赤信号渡れば怖くない」の論理である。みんなが海洋を汚染しているからいいのだという論理はなりたたない。
みんなで海洋を汚染しているのなかに、「日本原燃再処理工場(青森県)では、試運転した2007年度に1300兆Bqのトリチウムを放出した」があった。これと比べて、毎年22兆Bqを福島沖にトリチウムを捨てる計画は大したことがない、というのである。トンデモナイ論理である、
これには、もっとひどい話があって、日本原燃再処理工場の建設にあたって、年間の放出するトリチウムの量を18000兆Bqと日本原燃は申告している。使用積み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出す必要はない。今のところ、取り出したプルトニウムはプトニウム核爆弾にしか使用価値がない。そのために、さらに、ひどい海洋汚染を引き起こすなんて、許せるはずがない。再処理工場を稼働してはならない。
人類共有の海洋を放射能汚染水の捨て場にしてはならない。汚染水を薄めれば、海洋に放出して良いとすれば、際限のないモラル崩壊を招く。