Gentiana crassicaulis葉隠竜胆(粗茎秦艽)〔sect. Cruciata秦艽組〕
写真1
云南省迪庆藏族自治州香格里拉県翁水村(中甸大雪山中腹) 標高3500m付近 2014.7.16
四川省との省境に近い、中甸(迪庆)大雪山麓の山道を探索中、ふと一頭のハナバチが目に留まった。付近には花が見あたらないのに、なぜここにいるのだろうと思って、改めて良く確認したら、唯の薄黒い塊に見えたのは、リンドウの花の集まりだった。花は極めて小さく(径5~6㎜)、薄黒い蕾のうちはまだ葉(肉厚で非常に大きく20㎝ほど)との区別がつくが、開花後は白に近い薄緑が葉に溶け込んで、よほど良く見ないと存在が分からなくなってしまう。
写真の個体は、Gentiana crassicaulisに該当するようだが、この種は非常にバリエイションに富み、次種との関係などを含め、分類上の再検討が必要と思われる。種全体としての中国名は「粗茎秦艽」。ここでは、このタイプの個体を、暫定的に「葉隠竜胆(ハガクレリンドウ)」と名付けておく。種としてのGentiana crassicaulisは、雲南省北部、四川省西部を中心とした、中国西南部山岳地帯に広く分布する。
写真2
真ん中は蕾の花序、上は開きかけ、下は開花花序。
写真3
開花前は、花被部分が黒ずんでいる。
写真4
ハナバチの一種が訪れていたので、花の存在に気が付いた。
写真5
3年後の再訪時(2017.6.8)。夏の間は開花前の葉だけの状態。
写真6
撮影中、地元のおばさんたちが通りかかった。
写真7
撮影地点の山道の奥の山は、標高5000m余(迪庆大雪山の一峰で地元名は貢千山)。白く見えるのは雪ではなく特殊岩石。2010.9.21撮影(この場所には何度も訪れているが、秦艽の存在には気が付かなかった)。
写真8
四川省との省境の山嶺(迪庆大雪山)に陽が沈む(太陽の下あたりが翁水村)。標準時の北京から西に遠く離れていることに加え、この写真の撮影時が夏至に近い頃だったので、日没は午後8時頃。2017.6.7、ヒッチハイクで乗せて貰ったトラックの荷台から撮影。
Gentiana macrophylla秦艽 〔sect. Cruciata秦艽組〕
写真9
雲南省香格里拉 標高3500m付近 2017.7.15
秦艽組Cruciataは中国大陸に16(~19)種が分布(西は中央アジアに至り、日本には分布を欠く)。「竜胆」や「当薬(千振)」などと共に、薬草として古くから知られていることから、他の竜胆とは別に独自の「秦艽(ジンギョウ)」の名で呼ばれている。写真の個体は、前種と同じGentiana crassicaulisに含まれる可能性が強いが、より大型の花序をもち(花冠直径は8~10㎜)、花色が淡紫色で、葉が細長いことなど外観上の差異が大きいこと、および「中国植物図像庫」の秦艽の項目で紹介されている幾つかの個体との著しい相似から、便宜上「秦艽Gentiana macrophylla」と同定しておく。ただし、Gentiana crassicaulis、Gentiana macrophyllaともに、花色などのバリエーションは多様で、また「中国植物志」に因るとGentiana macrophyllaの分布圏は雲南省には及んでいない(中国東北部~四川省)。したがって、この処遇に対しては、余り自信はない。
*日本の漢方で呼称される「オオバジンギョウ」は、この種の一変種「大花秦艽」を指すものと思われる。
写真10
根生葉?や茎葉は、細長い。
写真11
翁水の個体よりもやや大型で、花色は淡紫。
写真12
花序の基部の葉は、やや丸みを帯びる。
写真13
何度か近くを通ったのち、やっと気付いた。
写真14
撮影場所は、香格里拉郊外の小高い丘の中腹(ひと月前の2017.6.17、この時は秦艽の存在には気付かなかった)。
写真15
香格里拉の街(2010.5.14)。
写真16
香格里拉は標高3500m近い高所の広い平原上にある。昨年夏、僕が中国に行けなくなったので、モニカに蝶の撮影に向かわせた。着いてすぐ高山病にやられ、やっと治ったと思ったら、今度は日射病に罹り、なぜか蝶にはほとんど一頭も出会わず、散々の結果で引き揚げてきた。2020.6.22(Monica Lee撮影)。ちっちゃな黒点はゴミだと思って消去処理しようと思ったのだけれど、どうやら鳥らしいので、そのままにしておいた。
写真17
写真18
ピンク=云南省迪庆藏族自治州香格里拉県翁水村=「葉隠竜胆」とした個体*の撮影地。緑=云南省香格里拉=「秦艽」とした個体*の撮影地。*ただし、おそらく両者とも種としては「粗茎秦艽」に所属する可能性が高い(「粗茎秦艽」は、中国東北部から西南部にかけて広く分布している)。
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【参考】僕の中国での主なフィールド。赤=四川省西部/青=雲南省西北部/紫=雲南省西部(ミャンマー国境付近)/蝦色=雲南・ベトナム国境付近(主にベトナム側サパ)/ピンク=広西壮族自治区北部山地/濃褐色=湖北省恩施周辺/緑=広東省北東部/空色=浙江省天目山系/墨色=陝西省秦嶺。