★は2008年8月に、ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」で紹介した記事です。一部はこのブログでも、過去に紹介しておりますので、重複する記事もありますが、ご了承ください。
中国(および台湾・南西諸島)の蝉 ミンミンゼミ⑥
7月の末日、梅里雪山を望むメコン川沿いの町を朝早く出発、白馬雪山の標高4300mの峠に登って、ヒッチハイクを繰り返しながら、山を下ります。途中、標高3500m付近の原生林中で、赤い可憐なユリの花を訪れる、ミヤマシロチョウの一種を、たっぷり一時間余かけて撮影。ちょうど“ミンミンゼミ”の鳴く時間帯ではあるのですが、この辺りでは全く声は聞こえません。
改めてヒッチをし、山を下る途中、車の窓を開けたら、広漠とした斜面の彼方から、ミンミン、、、と声が聞こえてきました。標高3000m付近、太陽が真上に差し掛かった、午後2時前頃でしょうか?
やがて、奔子欄の町に着いた(午後2時半頃)のですが、天気はよいのにもかかわらず、セミの声は全く聞こえてきません。地元の人に聞けば、鳴くのは朝の8時から11時にかけて、とのこと。大体、日本のクマゼミと同じ時間帯です。やはり一日この町に泊まって、朝を待つしかない。幸い、明日の午前の、香格里拉行きの路線バスの時刻は11時です。
翌朝、天気は良好。朝飯も摂らず、7時前に外に出ます。まだセミの声はぜんぜん聞こえない。もうしばらくすると、町の中でもいくらでも鳴き出すのでしょうが、時間はたっぷりありそうなので、数日前の工事現場の辺りを目指して、町外れまでゆっくり歩いていくことにしました。8時近くになると、東向きの斜面の上方に、朝の光が当たってきます。耳を澄ますと、その辺りからは、ミンミン、、、と声が聞こえてきます。
下の方で鳴き始めるまで待っていても良かったのでしょうけれども、なにしろせっかちなものですから、鳴き声が聞こえる急斜面の上方に向かって、しゃにむに攀じ登って行きました。途中、潅木の繁みに♀がとまっていたり、抜け殻があったり、、、。個体密度は、相当に高いようです。“ジィッ、、、、、、、、”と言う鳴き声もあちこちで聴こえます。どうやら前奏らしい。日本や四川省のミンミンゼミでは、余り聴くことのない音です。やがて、ゆっくりとした“ウィンウィン、、、、”という音に移行していき、おなじみの、尻上がりの“ミンミンミン、、、、、”が始まります。
おなじみ、とは書きましたが、日本や中国のミンミンゼミの前奏の、尻上がりの“ミンミンミンミン、、、、、、”に比べれば、音数が少ない。そして、最後に尻下がりの“ミーン”で締めくくったあと、
次の、リズミカルな“ミーン、ミンミンミンミン、ミー”の繰り返しに移ることなしに、“ミンミンミン、ミー”のまま、同じ繰り返しを、10数回続けます。鳴き終えるまで、繰り返しはスムーズに続くので、その点では日本産と良く似ています。すぐに押し潰された不安定な鳴き声になる四川省産とは、大きく異なる点です。
一鳴きの、鳴き始めから鳴き終わりまでを録音した個体では、“ジィッ、、、、、、”と“ウィンウィン、、、、”の前奏部分が約30秒、本奏は“ミンミンミン(上る)、ミー(下る)”を2分間に13回繰り返し、“ミンミンミン、、、”の中の、“ミン”の回数は7回(たまたま多めの個体だったようで、他の録音個体は4~6回)でした。
姿も、じっくりと観察・撮影しました。色彩・斑紋は全く異なる(一見クマゼミ)のですが、プロポーションはまがいようもないミンミンゼミ。胴体の白い帯の部分も、どことなくミンミンゼミっぽさが感じ取れます。
画像は、急斜面の潅木にとまるスミイロミンミンゼミの♂ 白馬雪山南麓奔子欄08.7.31
中国(および台湾・南西諸島)の蝉 ミンミンゼミ⑦
スミイロミンミンゼミ♂の腹部。3日後、東京(御茶ノ水)産ミンミンゼミと比較を行ったのですがが、形態上は、寸分たりとも異なる点が見出せませんでした。
白馬雪山南麓、奔子欄にて。08.7.31
中国(および台湾・南西諸島)の蝉 ミンミンゼミ⑧
♀は、鳴いている♂の近くの、潅木の繁みの中に見だされます。概観上、背面からは♂とほとんど区別がつかないことは、日本のミンミンゼミと同じ。
白馬雪山南麓、奔子欄にて。08.7.31
中国(および台湾・南西諸島)の蝉 ミンミンゼミ⑨
♀の腹部も、日本のミンミンゼミと酷似します。
白馬雪山南麓、奔子欄にて。08.7.31
中国(および台湾・南西諸島)の蝉 ミンミンゼミ⑩
ミンミンゼミの鳴き声様式の基本構造を、まとめてみました。
ミンミンゼミ
日本(北海道~九州) AA+B×10~15 分化・安定
ABに分化、Bは安定し、繰り返しは長く続く。体色黒に緑斑~一様の緑。白色部曖昧。翅斑は2列。
チョウセンミンミンゼミ(仮称)
朝鮮半島*1 A’×(10~) (非分化・不安定)
Aのみの繰り返し。やや不安定で、長く続く。体色黒に緑斑。脇に広い白色部。翅外縁の斑を欠く。
シロモンミンミンゼミ(仮称)
中国(四川・陝西)*2 AA+B+b×2~3 分化・不安定
ABに分化、Bは不安定で、繰り返しは短く終る。体色黒に緑斑。顕著な太い白帯。翅の斑は2列。
スミイロミンミンゼミ(仮称)
中国(雲南) C+A×10~15 非分化・安定
A のみの繰り返し。安定し、長く続く。前奏にC。体色一様に墨っぽい黒。顕著な白帯。翅は無斑。
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AA=尻上がりに20回前後「ミンミンミンミンミンミン」、最後は「ミー」で下がる。
A =尻上がりに5回前後「ミンミンミンミンミン」、最後は盛り上がりつつ「ミー」で下がる。
A′=尻上がりに5回前後「ミンミンミンミンミン」、最後は盛り上がらず「ミー」で下がる。
B=「ミーン、ミンミンミンミン、ミー」
b=「ミーン、・・・・・・・・(無声音を含む、搾り出すような崩壊音)」
C=前奏として「ジ~、、、、」から、ゆっくりと「ウィンウィンウィン」に移り、やがてAの尻上がりの「ミンミン」に移行する。
*1 税所氏のH.P.の録音源による。別の市販テープでは、AA+B+b×(10~)に近い分析も。
*2 北京産も似るという報告あり。
傾向としては、日本―中国四川-?-朝鮮半島―中国雲南の流れがあり、日本産と中国雲南産は、鳴き方のスムーズさにおいて共通する。ただし日本産は鳴き声の分化が最も進み、雲南産は最も未分化。四川産は分化の兆しが見えるが、著しく不安定。朝鮮半島産は、不安定な要素を示す(可能性がある)点で、四川産と共通?
♂♀外部生殖器の構造比較、脱皮殻、支脈相そのほかの、体各部の詳細な形状比較については、項を改めて紹介する予定です。
中国(および台湾・南西諸島)の蝉 ミンミンゼミ⑪
急斜面の潅木にとまって鳴き続けるスミイロミンミンゼミの♂。背景の建物は、奔子欄の町の末端に位置する寺院。長江に面した標高約2000mのこの町から、標高4300mの峠頂へと、一本の道路が、九十九折に上っていきます。
白馬雪山南麓、奔子欄にて。08.7.31
中国(および台湾・南西諸島)の蝉 ミンミンゼミ⑫
スミイロミンミンゼミ♂ 白馬雪山南麓、奔子欄にて。08.7.31
現物を検した限り、ミンミンゼミ属の種、と言い切って良いのですが、正直、僕には、文献上の知識が全くありません。学名をどう特定すれば良いのか。Fuscataという種(または)亜種名の原記載は、中国四川省産に与えられたものなのでしょうか?朝鮮半島産に与えられたものなのでしょうか?両者は、姿も鳴き声様式も明らかに異なるので、少なくともどちらか一方は、別の分類群名を与えねばなりません。
この“スミイロミンミンゼミ”にしても、学名がどこかに記載はされているのでしょうが、今の僕には知る術がありません。
どなたか、ご教示いただければ、有難いです。
中国(および台湾・南西諸島)の蝉 ミンミンゼミ⑬
スミイロミンミンゼミ♂ 白馬雪山南麓、奔子欄にて。08.7.31
中国(および台湾・南西諸島)の蝉 ミンミンゼミ⑭
スミイロミンミンゼミ♂ 白馬雪山南麓、奔子欄にて。08.7.31
中国(および台湾・南西諸島)の蝉 ミンミンゼミ⑮
スミイロミンミンゼミ♂ 白馬雪山南麓、奔子欄にて。08.7.31