体操の採点の中でも、一番物議を醸すことが多いのが鉄棒の採点だと思う。
鉄棒が男子の花形種目であること、一見地味なひねり技が離れ業と同じくらい重要であることが初見の人にはピンと来ないこと、などがその理由かな。ひねり技というものが存在すること自体知らない人も少なくないだろうし(昔は私もそうだった)。
2014年の世界選手権でも一番問題にされたのが鉄棒だった。このことについての私の考えはここに書いた。
2004年アテネオリンピックのときも、ネモフのダイナミックな演技に意外と点が出なかったことで客席からブーイングが起こったりしていた。2008年北京オリンピックの鄒凱は(実はとても難しいことをやっていたんだけど)一見地味な演技で金メダルをとったので、ネットでは叩かれていた。
2011年世界選手権東京大会の種目別鉄棒では、中国の鄒凱と張成龍が1・2位、内村は3位だった。そのとき上位二人が結構叩かれていたのを見た。内村が1位じゃなきゃおかしい、って。いたたまれない気持ちになった。
鄒凱や張成龍の得点が内村より上だったのは、そりゃあ仕方ないよ。D得点(実施した技の難度のトータル)にかなりの開きがあったもの。パッと見綺麗だったりダイナミックだったりするだけで点が出るわけじゃないよ。綺麗さはもちろん重要な要素ではあるけれども。
そして、内村の演技のほうが美しいって単純に言い切れるかな。
足先の綺麗さや離れ業の姿勢なら内村のほうが上だと思う。でもひねり技の綺麗さに関しては中国の二人の方が上回っているんじゃないだろうか。
その点こそ、内村と鄒凱や張成龍の鉄棒のE得点の差があまりつかない理由ではないかなと私は推測しているんだけど。内村はひねり技の精度で点を引かれているのでは?
足先のことについては、いつも嫌というほど指摘がある。なのにひねり技のスムーズさや角度などについてはいつもあまり触れられないのはなぜだろう。日本選手が苦手としているから?
一般人ならこういうことでゴチャゴチャ文句つけるのも仕方ないとは思う。でも日本体操協会公式ブログの記事には少し引いてしまった。その記事では、内村の演技を手放しで賞賛する一方、金・銀の選手たちの演技については悪い点しか述べず。さらに、内村の得点が出ると(二人の中国選手より低かったことに抗議して)会場から大ブーイングが起こった、と書かれていた。
私はこの試合を会場で観ていた。採点に文句を言っていた人達は確かにいたよ。でも……、ブーイング? 「大」ブーイング? 私はそんなもの聞かなかったので、これを見て首をひねった。少なくとも、私の周辺ではブーイングした人なんて一人もいなかった。なんだろう、印象操作でもしたいのか? と思った。
特にこの「大ブーイング」のくだり、文章から悪意がにじみ出ていてちょっと嫌な感じがした。採点がインチキだ、と言っているわけではないし、そんなことは思っていないだろうけど、それにしてもね。
素直に勝者を讃えることができる、っていう点では中国のスポーツ報道の方が日本よりずっと上だと私は思う。2013年の世界選手権で白井が床の金メダルをとったときだって、鄒凱は白井の演技を絶賛していた。内村のことも、中国では素直に賞賛されている。
だけど、日本のメディアは文句なしに素晴らしいオールラウンダーだった楊威のことを褒めたか? あまりそういう話は聞かないよね。
完敗した北京オリンピックのときですら、中国は難しいことやってるだけで汚い、日本の美しい体操のほうが優れているんだと言ってたからね。
私が体操でかなり中国贔屓なのは、こういう日本の報道姿勢にうんざりしたせいもあるかもしれない。
北京での中国選手たちの演技に、私は感動したから。だって素直にすごかったもの。圧倒的でかっこよかったもの。イチャモンつけてる奴らカッコワルイ。
せめて中国よりミスが少ない状態にしてからそういうこと言ってほしいな。ミスしまくりの演技なんて、「美しい」とは言えないと思う。
「美しい体操を目指す」という冨田の信念は素晴らしいと思うし、冨田は好きな選手だ。だからなおさら、これを中国sageに使ってほしくなかった。
採点のことから少し話が逸れてしまったので元に戻して。
特に大きな国際試合になると、採点がおかしいと文句をつけまくる人たちがどこからともなく大量に現れる。それはもう、審判が気の毒になるくらいに。
採点競技の得点は、単なる審判の好みやフィーリングで付けられているわけじゃない。ちゃんと細かい基準があって、それに沿った形で採点している。
彼らは競技のことをものすごく勉強してるエキスパートなわけで。もちろん採点に関しては選手よりも知識がある。だから選手が批判しているからといって審判が間違っているとは限らないと思う。もちろん人間だから見落としだってあるけれども。
審判の判断に絶対服従するべきとは全く思わないけど、少しくらいは敬意を持ってもいいんじゃないかな。ルールをよく知りもしないで批判するのはやっぱり間違ってる。
思い込みでの採点批判よりなおさら悪いのは、審判に贔屓されている(と勝手に思われている)選手に対するバッシング。これは完全にお門違いだよ。たとえ採点に問題があったとしても、選手に罪はない。