「Oxford Bookworms」シリーズの「Oliver Twist」を読んだ。
STAGE6にしては英文もかなり易しかったし、話がサクサク進むので割と楽しく読めた。昔、完訳版を読もうとして途中で挫折したことがあったけど、英語で書かれているこちらのほうがむしろ読みやすかった。
この話は要するに、勧善懲悪物だね。良い子のオリバーは幸せになり、悪者どもは滅ぶ。善良なのに報われなかった人がたった一人だけいるけど、その話は後述。
主人公のオリバーは、ロンドンの裏の世界に足を踏み入れることになる。オリバーはとても良い子なので、強要されても、食うのに困っても、犯罪に手を染めることを拒み続ける。ご立派なことで。
でもなあ。オリバーをこういう風に描くことが、犯罪に手を染めさせられてしまった子供たちを責める役割を果たしているような気がするんだよな。
貧しい、親もいなくて生きる手段のない子供が盗みなどの犯罪に手を染めることが、そんなに責められるべきことか? 確かに盗みは悪いことだよ。でも、弱い人間が生きるためにするなら仕方ないんじゃないか?
高校生の頃、芥川龍之介の「羅生門」の解説で国語の先生が言ってたことに強烈な違和感を持ったことを今でも覚えている。
「羅生門」は「下人の行方は、誰も知らない。」という一文で終わっている。先生の言うには、主人公は悪事に手を染めたから人から見向きもされなくなった、人は正しく生きなければならないという教訓がこの物語に込められているんだと。
本当にそうかな。あの主人公は追い詰められていた。盗みを働かなければ生きていけない状況になったことをはっきりと自覚し、それに沿った行動をしただけだ。つまり、主人公は黙って死を受け入れるべきだと言いたかったのかな。
先生は多分、盗むこと以外に生きる手段がない、というところまで追い詰められたことはないだろう。私もそうだけど。そんな恵まれた人間が、生きるためには犯罪に手を染めるしかない、弱い立場の人を責められるのか? それは傲慢なんじゃないか?
念のために書いておくと、あれは先生個人の意見で、芥川自身はそんなつもりで「羅生門」を書いたんじゃないと思う。
少し脱線してしまった。「羅生門」から「オリバー・ツイスト」に話を戻す。
オリバーは愛され体質の主人公だ。それに運も良い。最後は当然、オリバーにとってハッピーエンドになるわけだけど、オリバー自身は特に何もしていない。周りの人たちがオリバーのために勝手に動いてくれて、幸せが転がり込んできた感じ。オリバーはまだ幼い少年だから仕方のないことだけど、「主人公」としての魅力はイマイチかな。
主人公のオリバーよりもずっと印象的だったのが、ナンシーというキャラクター。この子がまた、不憫なんだ。
「善良な」人は基本的に皆最後幸せになっているのに、ナンシーだけはなんにも報われない。報われなさすぎて泣けてくる。あんなに良い子なのに。オリバーのためにあんなに尽くしたのに!
それにしても、ナンシーはどうして大して親しいわけでもないオリバーのためにあそこまでしてくれたんだろう。リトールド版だから省略されているだけで、元の話では二人の絆がもっとしっかり描かれていたりするんだろうか。多分そうなんだろうな。
ナンシーのバックグラウンドについても、リトールド版なのでかなり省略されているみたい。ビル・サイクスの愛人らしいことがなんとなく察せられる程度。
だから彼女の置かれている状況を理解するのは難しかった。ナンシーは「今更この世界から抜けることはできない」とブラウンロー氏の保護を拒んだ。そこに到るまでに、過去にどんなことがあったんだろう。かなり昔から、裏の世界で生きていたことが想像できるけど。