ハゲ・サンタ

2005-12-15 | ポエム
ハゲ
 サンタ


北極。

そこはおとぎの国。
12月ともなればそこに住むものは
大忙し。

そう、クリスマスの準備です。

世界の子供達から届くお願いを
かなえる準備が急ピッチで進みます。

小人達は汗を流しておもちゃづくり
に励んでいます。弱音なんか吐きません。


でもそんな中一人、いつも部屋に籠っている
人物が・・・。

サンタクロースです。

願いをかなえるために世界を回る超本人。
サンタは部屋で壁を見つめていました。

彼の悩みはたった一つ。
そのハゲ頭です。

「こんな頭を子供に見られたら、笑われる」

実は相当前からサンタは
ハゲを気にしていました。

そしてなんと、世界を回る任務を
さぼっていたのです。

みんなには出発したことにしておいて
実は氷山の影に隠れていました。
玩具は海に沈めていたのです。

そんな偽りの日々がどれほど続いたのか
分かりません。

サンタは毎年嘘をつく罪悪感に
蝕まれていました。

汗を拭きながら小さい体を酷使する
小人達を部屋から眺めるたび
胸を痛めていました。

そのストレスで髪は抜ける一方。

「また今年も嘘の出発か・・・」


とその時

コンコンコン

扉を叩くのは小人のリーダーでした。

サンタはつくり笑顔で小人を部屋へ
入れました。おもちゃ工場特有の
木クズのにおいが漂っています。

小人は言いました。

「サンタさん、あんたもういい年だ。
 なのにいつまでも重い荷物一人でしょって。
 わしらみんな不憫に思ってる」

サンタは不意をつかれた言葉に
戸惑いました。

「それで提案なんじゃが
 わしらんとこで役にたたんトナカイ
 おるんじゃ。そいつを寄付しようかなと。
 ソリでも引かして行けば
 あんたも楽できんじゃなかろうかと。」

サンタは言葉が出ませんでした。
確かに、一人袋を担いで回るのは
きついかなと感じていました。

「とりあえず、玄関に縛ってある。
 使えんかったらわしんとこへ戻してくれ」

そう言い残し小人は帰って行きました。

玄関には確かに使えなそうなトナカイが
座っていました。
真っ赤な鼻をしています。

サンタはちらっと横目で見てから
部屋に戻りました。

夜、サンタは夢を見ていました。

すると、

「サンタクロースよ。
 わしだ。トナカイだ。」

「お前にいいたいことがある」

「ハゲた頭を気にしてるようだが
 それは間違いだ」

「その頭で夜道を照らすが良い」

「暗闇に光を届けよ」

ガバッ

サンタは飛び起きました。
枕は汗で湿っています。

玄関へ走りました。

「トナカイ様!」

トナカイは死んでいました。
穏やかな顔をして冷たくなっていました。

「トナカイ様!」

サンタの中にかつての勇気が
戻ってきました。
自分の頭は恥ではなく武器なのだ。
そう気付いたのです。

こころの準備が整ってからは
24日が待ちどうしくて堪りませんでした。


ようやく、クリスマスがやってきました。
小人達は袋をもってサンタの家へ
やってきました。

準備万端のサンタを見て小人達は皆
驚きました。そのパワーを感じたのです。

リーダーの小人が言いました。
「あんたひょっとして
 トナカイ食っちまったんかい?」

サンタは首を振りました。
袋を受け取り、皆に一礼してサンタは
旅立ちました。

何年ぶりでしょうか、本当に世界を回るのは。
何十年?いえ、何百年かもしれません。

世界を回る時のサンタの一歩は
大陸から大陸をまたぐ程ダイナミックです。


おとぎの国から出るとまず
サンタは恒例の仕事を始めました。

「社会の淀みに天罰をー!
 ホウホウホーウッ!」


するとどうでしょう。
地球はみるみる雲に覆われていきました。

最初は灰色、それがやがて真っ黒に。
地球上の全ての電気は止まります。

人間は慌てふためいています。

しばらくして世界の主要都市に
隕石が降り注ぎました。

ドドドドーン!


火山地帯では地震がおこります。
噴火口からはマグマが流れ出しました。
付近の人間の町はのまれて
消えていきました。


上空から眺めているサンタが
一番驚いていました。

「自分が来ていない間に人間社会は
 取り返しのつかない状況になってたのか」


その悲惨な天災はしばらく続きました。
ほんの数時間で人間は
ほぼ絶滅してしまいました。



ざわめきはやがて落ち着き
雲も引いていきました。

太陽が再び顔を出します。

その最初の光はサンタの頭に
当たりました。
反射した光は世界を照らしました。


わずかに残った人間にサンタは
贈り物を届けました。


生き残ったピュアな心の人間は
素直に感謝します。そのこころは
北極へも届きます。


何も知らない小人達は
ここしばらく味わったことのない
感謝のこころに酔いしれていました。

最近はお願いばかり届いて感謝は
ゼロというひどい環境だったのです。
勿論、世界を回らなかったサンタが
一番いけないのですが。


最後の贈り物は沖縄の少年への
バットでした。
空から現れたサンタに少年は
驚いていましたがすぐに笑顔で
言いました。

「ありがとう」
「オジさんの頭まぶしいね」

サンタは自信を持ってこう言います。

「そうじゃよ。」
「これからは定期的に世界を
 照らしに来るからな」

「ホーウッホウホウホウ!」

そういい残すとフワリ
舞い上がり北極へと帰って行きました。

帰った先でどれほどの歓待を受けたか
ここでは触れません。

ただ一つだけ。
この年、小人がサンタへ用意した贈り物は
育毛剤でしたとさ。


♪ウォッキン・インダ・ウィンタ・ワンダラーン♪

♪ウォッキン・インダ・ウィンタ・ワンダラーン♪


ジャーン・・・



コメント (2)
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