恩師の御著書「真理を求める愚か者の独り言」より
第一章 或る愚か者の生涯
◆親孝行ができたと思うこと◆
私は八人兄弟の五番目として生まれました。
長じて独立し、親も老いてから、私の家に遊びに来てくれる度に、
「八人も子がいるけれど、
おまえのところに来るといちばん気持ちが安らぐ」と
父母から言われておりました。
それだけに兄弟から嫉妬、反感を受けていたようです。
しかし、それも現在ではすっかり調和しています。
母は私がお腹にいる時に、たいへん重く感じたそうです。
体重が四キロ近くあったから重いということではなく、
ひどく重く感じたそうです。
しかも、誕生が七月二十五日でしたから、
「おまえは親不孝や」とよく言われたものです。
暑い最中に生まれ、おまけにえらく重くてしんどい目に遭わせたから、
そのように言われるのは当然と思っていました。
ところが、私が稼業の織物業をやめて、
人さまのためにあちこち飛び回るようになりますと、
寸暇を惜しんで我が身も顧みずに東奔西走する倅の姿を見て、
自分の身は過ぎたる方に宿っていただいたために
あのように身が重く感じたのだと
思うようになったそうです。
我が如き 者の腹より よくぞこそ
尊き方と 母の言葉や
母はよく浄心庵に来られる方に対して、
「私のようなもんの腹からよくこんな尊い方が
生まれてくれはったこっちゃ」と話しておりましたが、
私は「それだけは言わんといてください。
それを聞いた人は親バカと思いますから」と言ってお願いしたものです。
しかし、母は自分の腹を痛めた子でも自分の所有物のようには
考えていなかったのです。
子は神様からの授かりもと言われますが、
この言葉は子宝に恵まれることを祈り、
子が授かれば感謝する心を示しています。
ところが、とかく子を育てる苦労を経ながら、
私たち凡夫はいつしか本当の親バカになっていきがちです。
母言わる 我れ一人の 子にあらず
数多の子故 身を大切にせよ